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「聖地」感があまりにも深すぎる戸隠奥社の森をさまよう〜フラット登山という提案⑦

長野市にある戸隠(とがくし)神社は、日本でも最も古い神社のひとつと言われています。奥社・中社・宝光社・九頭龍社・火之御子社という五つの社からなりたっていて、中でもいちばん奥にある奥社は、信じられないぐらい巨大な杉並木のあいだの参道の奥深くにあります。

戸隠神社を中腹に抱える戸隠山や、怖いぐらいにギザギザした山並みが特徴。ちょっと足を滑らせればまたたく間に滑落してしまうナイフエッジの稜線「蟻の戸渡り」なんていうところもあり、難易度の高い登山道としても有名です。

難易度の高い戸隠山には登らず、麓の森を歩く

さてフラット登山では、このギザギザは怖いので近づきません。その代わりに戸隠神社・奥社の社有林を歩きます。この森はほんとうに凄くて、徳川幕府が伐採を禁じたことから400年近くも開発や破壊から守られてきました。めったに見られないほどの豊かな森です。この貴重すぎる森を、ぐるりと一周して堪能できる登山道が実は存在するのです。しかも登り下りはほとんどないと来たもんだ。


大鳥居の手前を右に曲がると、さかさ川歩道

スタート地点は、戸隠神社・奥社の参道入口にある大鳥居。近くに広めの駐車場があり、また長野駅から路線バスも出ています。

大鳥居をくぐると参道が始まるのですが、今回はくぐりません。鳥居の手前に細い小川が参道を横切っています。よく見ると川沿いに遊歩道らしきものがあり、右方向には「戸隠キャンプ場へ」という道しるべが出ている。これが「さかさ川歩道」という登山道の入口なのです。

この道を伝って、奥社の社有林へとはいっていきます。川のせせらぎが気持ちよく、森に踏み分けていくと参道の参拝客のざわめきはあっという間に聞こえなくなって、ただ静かです。道路が近いのでときどきはクルマの音が聞こえますが、それ以外は鳥の声と虫の鳴き声、そしてせせらぎの音ばかり。とても明るい森で、晴れていれば葉のあいだを通って陽射しが地面へと降り注ぎ、影を揺らがせています。

森には縦横無尽に水が流れていて、登山道はなんども流れを渡ります。かんたんな木製の橋がわたしてありますが、けっこうボロいので踏み抜きそう。道はほぼ平坦なので登りも下りもほとんどありません。迷うところもありません。


苔むして植物に覆われた橋の欄干が、長い年月を感じさせる

40分ほど歩くと湿地のうえの木道につながり、そこを抜けると駐車場に出ます。戸隠キャンプ場の入口です。キャンプ場の中へと足を進めます。そしてこのキャンプ場が実に素晴らしい。豊かな流れの川にそって芝生の気持ち良さそうな河原があり、その向こうには広々としたキャンプ区画が広がっています。区画は斜面に段々をつけて整地してあって、立体的で居心地良さそう。

グランピングのテントもあって、エアコンの室外機が見える。「おおーテント泊でエアコンつきかあ!」と驚きつつ、キャンプ場奥の戸隠牧場を目指します。売店などがある牧場の入口の手前、道の左側をよーく注意して見ていくと「ささやきの小径」という小さな道しるべが出ています。これが参道に戻る登山道なのですが、時間があれば牧場も見学していくといいでしょう。牛も山羊も馬もいて、おまけに北信州の雄大な眺望も楽しめて、日本でいちばん美しい牧場風景のひとつです。


神秘的な森から出て、驚くほど開放的な牧場へといたる。なんという七変化

ささやきの小径に入ります。最初はキャンプ場のコテージのあいだを抜けていくので、道がよくわかりません。しかし気にせずまっすぐ歩いていくと、やがて森が見え、その手前に「ささやきの小径」と真っ赤なペンキで手書きで書かれた大きな道しるべがあります。

この道しるべのすぐそばには、信じられないぐらい巨大で雄雄しいダケカンバが立っています。このダケカンバの幹肌に身体を埋めて、しばらく樹木の音に耳を澄ませましょう。声が聞こえた気がしたら出発。


身を寄せたくなるダケカンバの巨木

本当に静かです。なだらかに登りながら、道は参道へと向かっています。やがて樹々のあいだに、戸隠山のギザギザがドーンと見えてきます。「す、すごい」と感動しつつ、さらに歩いていくとやがて参拝者のざわめきが聞こえるようになり、大きな人工物が黒々と見えてきます。参道の山門、随神門です。ここまでキャンプ場から50分。

この随神門がすごい。よくある山門ですが、屋根の上にシダ類などがたくさん植えられていて、妖怪でも出てきそうな風情なのです。

しかし随神門よりももっとすごいのが、その先の参道。信じられないぐらい太くてデカい杉の木が200本以上も立ち並んでいるのです。もう日本の神社というより、「ロード・オブ・ザ・リング」かなにかに出てきそうな異形の光景。これを見るためだけでも、戸隠神社奥社に来る価値が絶対にあります。実際、随神門をくぐった参拝客のほとんどが「おおおおお」と言葉にならない言葉を上げて立ちすくんでいます。

奥社は随神門から20分ぐらい。実のところ今日のコースで、この参道の登りがいちばんキツイでしょう。けっこうな傾斜だし、なかなか到着しません。音を上げたくなりますが、運動靴やなかにはパンプスやサンダルを履いた普通の観光客の人でも一生懸命登っているのですから、ぐっと我慢して高度を上げていきましょう。

お参りしたら随神門に戻り、そのまま直進して元の道に戻ります。余裕があれば、随神門のそばにある小径から鏡池というところに抜ける登山道もあります。この鏡池は戸隠山の全容を望み、鏡のように静かな池の水面に逆さに映るという素晴らしい絶景ポイント。駐車場があってクルマでも行けますが、奥社からがんばって歩いていったほうが感動は格別でしょう。

【歩行タイム】
紹介したコースどおりに森を歩くだけなら、2時間ぐらい。くわえて戸隠神社奥社の往復が1時間。
【難易度(レベル1=初心者でも誰でも〜レベル4=そこそこ難易度高し)】
レベル1=危ないところは何もありません。
【高低差】
戸隠キャンプ場に向かうさかさ川歩道はほぼフラット。キャンプ場から戻るささやきの小径は、わずかな登りがあるけれど気になるほどでも。いちばんの急登は、戸隠神社奥社への参道です。
【足まわり】
森の中はふつうに登山道なので、登山靴の方が歩きやすいと思います。
【お勧めの季節】
春から夏、秋にかけて。冬は積雪があります。夏は東京が猛暑の時期でも、このあたりなら平均して25度前後で気持ち良い気候が期待できるでしょう。
【注意点】
戸隠キャンプ場からささやきの小径に入るポイントが若干わかりにくいのでご注意。
【官能度】
「すぐそこに異世界がある」
「霊性を感じさせる」


雑すぎる戸隠神社奥社の森のマップ

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