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鶯谷の信濃路で、西村賢太の函入り小説集『羅針盤は壊れても』の刊行をひとり勝手に祝う

西村賢太の新刊『羅針盤は壊れても』。新作は二編のみ、残りの二編は再録。それでお値段3,240円。むむ。どういうことだ。と思ったけれど、手に取り、読んでみて、著者のねらいそしてこうした造本の新刊を出せた喜びが痛いくらい伝わってきて、長年のファンとしてすっかり心打たれてしまった。

今日めずらしい箱入り。装画や題字も凝りに凝っている。古い小説の初版本の蒐集している著者のこだわりが随所に感じられる。例えばこの奥付も。

巻末の広告もこうした感じにデザインされている。
しかしこの青い紙が、内容とは真逆の爽やかさを感じさせてすごくいい。

そして今回は、あとがきなどいつもはつけぬ著者には珍しく、付録の小冊子で本書の成立にあたっての謝辞が各方面に述べられていた。それにまた心打たれて(もちろん内容も素晴らしかった。表題作は特に)、西村賢太氏の作品(特に『一私小説書きの日乗』シリーズ)に頻繁に登場する巣鴨の24時間営業の居酒屋「信濃路」に行って個人的に祝杯をあげてきた。

なにか理由をつけて訪れてみたいと思っていたある種の聖地。

一回行っただけだと、すべてのメニューを把握できなかった。
とりあえず着席してホッピー黒のセット。

次に、西村作品に登場して気になっていた「赤ウインナー揚げ」を頼むつもりが、慣れないお店で緊張していたのか、つい「ウインナー炒め」と言ってしまう。しかしこれはこれで、実にお弁当のおかず的な味で良い。

本当はここからガツガツいきたいところだったが、ダイエット中につきすぐに満腹感が訪れて、これだけは頼んで帰りたいと思っていたこれも西村作品によく登場するカレーそば330円を頼んで終了。これが、決してそうは見えないと思うんだけど、美味しい。次に来ても、たぶんまた頼むと思う。

ちなみに、再録された「廃疾かかえて」「瘡瘢旅行」も、こうして再提示されると自然と新たな魅力を発見できたりして、実にいい効果を出していた。実におもしろい。こうした再録なら今後も歓迎。どんどんやってほしい。

そういえば以前、西村賢太の作品を時系列に並べ直してみたんだけど、それがもう5年も6年も前の話。誰かがすでにやっていてくれないものかしら。


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