愛してくれよ六畳一間

アイスクリームは溶けるし僕の声は掠れる。

塩塚モエカになりたかった。男とか女とかそういうのは一旦なしにしてあの声に僕はなりたかった。草野マサムネとか藤原基央とか昔なりたかった人は沢山。結局は過去になるのだろう。狭い部屋の中、ベットを置けばそれで完結するような小さくて僕だけの部屋。叫べば壁を叩く音がする。何かになりたくて、何もしなかった夏はもう戻ってきてはくれない。秋の冷たさに勝てるものは一個もない。散らかったったティッシュペーパーと昔買った半分以上も残った化粧水。あの子がいなくなった後に聞いた音楽は何だったか忘れてしまったけど、その時もなりたかった人の声を聞いていたんだと思う。くだらない雑音が響くサイゼリヤに戻りたい。死ぬまで腹に入れた賄いで怒られたあの時、人だって認識されていた。僕は店長を睨んでた。俺はお前と違うんだって。そういう時は強気になれるのは何故だろうか。今は拳に力が入らないし、冷蔵庫にあるビールを取りに行く気にもなれない。怠惰だ。怠惰な人間だ。塩塚モエカにも草野マサムネにも藤原基央にもそんな夜はあっただろうか。ベッドそばの窓から出る冷気が冷たくて必死に布団に包まった。蛹みたいな僕を隣のゴリラは笑うんだ。悲しくなって歌った僕の歌はもう誰にも響かない。

壁から鈍い音がした。

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