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I have a dreamから58年 We have a common dream, I believe

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ワシントンDCの中央部には、およそ3キロにわたって東西にのびる大きな広場がある。ナショナルモール。その東端には連邦議事堂があり、西端には巨大なリンカーンの座像がある記念堂がある。リンカーンを背にしてモールを眺めると、真ん中より少し手前に巨大なオベリスクが直立し、その左手にモールに沿ってホワイトハウスがあり、その少し手前の並びにFRBがある。そしてFRBからモールの反対側に、マーティン・ルーサー・キングJr.の記念碑がたっている。昨年BLMが吹き荒れた頃、毎週ワシントンでデモが行われていたのは、ホワイトハウスの向こう側の街のメインストリートであるKストリートだった。

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58年前の8月28日、March on Washington(ワシントン大行進)が行われた。ナショナル・モールにおよそ25万人の人があつまり、リンカーン記念堂から参加者に向かって語られたのが、恐らくは世界で一番有名なあの演説だ。

このとき語ったMLKの夢とは、人種差別のない社会だった。当時、ちょうど奴隷制が廃止されて100年たっていたが、アメリカでは、かつての南アフリカのような人種隔離政策が公然と行われていた。州によっては投票に識字の制限を課すことで、投票権さえ奪われていた。そんな時代、ワシントンの集会が弾みとなって、法的な差別は撤廃された。

しかし、黒人社会に蔓延する貧困は一向に改善されなかった。やがて、MLKの夢は、貧困の撲滅となり、所得保障をもとめてナショナル・モールをテントで埋めて、現金給付を得ようとした。

しかし、キャンペーンの3週間前に、MLKは、暗殺されてしまう。ゴミ処理労働者たちのストライキの応援に訪れたメンフィスで、まるで自分の死を予見しているようで伝説となった最後の演説を行った翌日、夕食に行くために定宿にしていたロレイン・モーテルの部屋から外に出た瞬間、向かいのホテルから撃たれ、喉から大量出血し、ほどなく命が絶えた。


考えてみると60年代が終わる直前に私は生まれたのだが、この時代は今と随分違うことがわかる。DCでのキングの演説からほどなく、ジョン・F・ケネディが暗殺された。マフィアと全面戦争をしていた司法長官のロバート・F・ケネディは、殺されるのは兄ではなく自分だろうと思っていたと述べている。そして、60年代が幕を閉じる前に、キングが暗殺され、それからすぐに大統領選挙の最有力候補だったRFKが暗殺される。キューバの大臣職を捨ててゲリラに戻ったチェ・ゲバラがペルーで捉えられて殺害されたのもこの時期だ。もちろん彼らが生きていたらかなり歴史は変わっていただろう。リーダーが命をかけて、身を呈して社会の不正と戦い、弱いものを守ろうとした。そんな人たちは、以後いたろうか?

この時代、貧困の撲滅のために所得保障を実現しようとしたのはMLKだけではなかった。JKガルブレイスが「豊かな国の貧困」を大きく取り上げ、1000人以上の経済学者たちが主義を超えて所得保障制度の導入を訴えて署名した。もちろんその中には新自由主義の祖であるミルトン・フリードマンもいた。やがて、貧困の撲滅は、月に行くのと同じくらいの国家目標となったが、RFK暗殺をうけて大統領選挙に勝利したニクソン政権で、結局この政策は骨抜きにされてしまった。

そして、これ以後、貧困は社会の問題ではなく、「その人の資質の問題」ということになった。劣った人が貧困に陥るのは仕方がないことだ。そこから抜け出すのは、頑張って他の人より秀でていることを示したわずかな人だけだ。そもそも、悪条件の仕事が存在する限り、多くの人がそこに送り込まれることは変わりない。

MLKが亡くなってから50年以上、時は止まったまま、いや産業が空洞化して中産階級が崩壊し、事態はさらに悪化している。テクノロジーはそれ以後も目覚ましく進化しているというのに。

ミラーニューロン、そう、人は他の人の体験にまるで自分が体験しているような感覚をもつ。そもそも脳は人称を認識しない。だから「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」というのは人間の本質なんだけど、裕福な人たちは、自分たちだけのコミュニティをつくって現実を見ないようにしている。本当は優越感は心を蝕む。そして「裕福な家に生まれた人間は何もしないように動機づけられる」。それは本能的にバランスをとっているように私には見えるが、不幸なのは、そうした人たちが社会の意思決定のほとんどを担うから、社会構造は固定化されたままとなる。そんな中で、対症療法的な社会貢献活動、フィランソロピーという「やってるフリ」も抜本的な解決を遠ざけるばかりだ。マスメディアも「セレブ信仰」ばかり煽ることで、ほとんどの人は、自分たちは彼らより劣った存在だからしようがないと諦めさせられる。彼らと内実はほとんど変わらないことに気づかない。

でも、決してそれは私たちの本来の姿じゃない。

So, we have a common dream, I believe.

MLKが奔走したけど、まだ実現していない夢は、本当は私たちの共通の夢であるはずだ。ブルシットな情報の洪水の中で、私たちの一般意思に気づいていないだけじゃないか?必要なことは、それを表明し、対話を続けることだ。決して難しいことじゃないし、やがて雪が一挙にとけるように、夢が叶うのはそう遠くないはずだ。

とりあえず、私は表明と対話のために、このTシャツを着続ける。夢が叶うまで。難しいことじゃない。

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