あれする吉本

 吉本隆明「反原発異論」を読み終った。
 僕は、柄谷行人の呼びかけで、何度か脱原発デモに参加したので、吉本の議論に違和感があった。

吉本隆明「情況へ」
自動車事故で年に何千人も死ぬだろう。だけど原発でそれだけの人が死ぬのか

 吉本が、麻原彰晃に言及していた。
 対談で、吉本の「あれする」という発言が気になった。
 生前の発言で、死後の掲載で本人が手を入れる事が出来なかったのか、マイケル・ジャクソンのTHIS IS IT(あれ)のようだ、と思った。だが、吉本の死去は2012年、この対談の初出は1987年だった。

吉本隆明『「反原発」異論』(論創社)
吉本隆明・佐藤幹夫「吉本隆明「東北」を想う」
『飢餓陣営』三六号(二〇一一年)

吉本 オウムの麻原さんのマントラは聞いたことがないけど、ダライ・ラマの声はすげえもんだと思いますね。麻原さんも、ダライ・ラマの弟子だと言っていたんだから、もっと修行すれば凄いものになったのかもしれないけれど、ダライ・ラマの声は、聞いていると、意味は分かるわけはねえのに――向こうは分かって唱えているんでしょうけれど――抑揚だけはこちらに伝わってくるんです。

吉本隆明・小浜逸郎・高野幸雄「科学技術を語る」
『ておりあ』第6号(一九八七年)

吉本 これは企業にはいるととてもむつかしいことだったんですけど、それでも何としてでも、余りの時間が全部とられたとしても、二十五時間目を作って詩を書いていくっていう発想をぼくはとってきたから、この発想は、言ってみれば、もういわゆる生産主義的な、近代主義的な科学技術というものと、あるいは生産向上的な工業というものと、文学との関係を基本的に忠実にあれしてきたと思うんですね。

吉本 なぜならば、第一に、ぼくちょっとそういうことであれしたことがあるんですが、電子技術で、出勤しなくても仕事ができるっていうことがおこりうるんですね。

吉本 だからそこはちょっと新しいというか、これからあれする課題なんじゃないんでしょうかね。
(一九八五年)

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