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FaOI名古屋:祝祭

ファンタジー・オン・アイス、略してFaOI。なぜFOIではなくFaOIであるか。フレンズ・オン・アイスというショーが別個にあるからである。最初はこの略称がわからず「ふぁおいって何」って感じだった。でも2015年からテレビを通してその魅力にすっかり引き込まれ、現地に足を運ぶようにもなっていた。ちなみにチケットはお高い。お高くてもお高い以上の満足感を得られるから、このショーだけは現地1公演だけでも、と節約を重ねて飛行機に乗って出かけていた。

それが今年3年ぶりの開催となった。
ただでさえ遠征には節約が必要だったところ、コロナ禍の影響をまあまあ強く食らった業界にいる身としては、安からぬチケット安からぬ旅費を考えると軽やかに「行く!」とは言えず、かといって早々に諦める潔さもなく、とりあえずチケット争奪戦に参戦しその結果考えることにした。

そして申し込んだ幕張が清々しく外れ。
「ショーが私を呼んでいない!もういい!」と投げやりになったところ、「神戸と名古屋の申込みが始まりますよ~」というツイートを見かけ。予算的に西日本は視野になかった。が、実際どのくらい旅費に差異があるのだろう?調べた。
「幕張行くのとほとんど変わらない」「なんなら安上がりになりそう」「より遠いはずなのになぜ」
諦めるのをやめて再チャレンジ。
これで外れたら流石に潔く財布を守ろう。

果たして名古屋の土曜日に行けることになった。財布は泣き崩れた。モチベーション高い節約生活突入。だが節約も目標があると楽しいものだ。お高いアイスショーに足を運ぶのは別に裕福な階層ばかりではない。一夜の夢のために労働を重ねている私のようなのも少なからずいる(はずだ!)。

A席でエントリーしていたのに第二希望のB席に。入れるだけよい。発券されて席の位置を確認するとスタンドの最後列。後ろに人がいない。マジかよ。いや入れるだけでよい。ドームよりは近い。

去年のNHK杯のことがあるので「チケットがあるからといって一番見たい選手が見られるとは限らない」「見られるまでテンションは上げない」「開幕戦のスタメンに名を連ねるまで信じない」「試合始まるまで信じない」違う競技でも鍛え抜かれたマインド危機管理万全。やりすぎなような気がしないでもないが、会場で会った友人も似たようなことを言っていたので孤独じゃなかった。

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俺達の北の大地

そんな謎の危機管理マンでも一旦機上の人になると「北海道の大地きれい!空きれい!」と秒でテンションが上がる。

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中部国際空港。たくましいお豚様が出迎え

空港から会場へ向かうと、駅の小さなKIOSKが既に祭りの様相を呈していた。完売御礼の赤札が眩しい。売店前を記念撮影する人々。

スポニチさんの写真集
見たら欲しくなってしまいますよね
初めて来ましたガイシホール

(ところで日本ガイシさんて何の会社…?と今頃素朴な疑問が湧き調べてみました。送電線のがいしって言葉を初めて知りました。がいしなのでガイシなんですね。思わぬ勉強になりました。しかも今頃)

ここにも完売赤札
地元テレビ局の中継車(と、右手に見切れる取材陣)
この日までは掲示されていた最新のサイン。たしかに行列が出来ていました

名古屋は予想気温30℃になっていたので13℃の札幌から行ったら温度差にやられるのでは…と危惧していたけど、そこまで暑いこともなく、時折涼やかな風が通り抜ける初夏の心地よさ。

羽生友達がリセールで土曜日のチケットを獲得して、入場前に合流することに。この日は他にも数人の羽生友達と会ったけど、みんなコロナ禍以降初の再会。コロナの時代に入ってから、そもそも会える機会が少なくなり、また積極的に会おうという感じにもなっていなかった。今回は会食にこそ行っていないけど、会場で会ってお土産渡して世間話が出来るくらいまでは戻って来れた。

そういう感じの人はこの日たくさん集まっていて、私もきっとそうだったと思うけど、マスクで口元が見えなくてもみんな口角が上がっているだろうことが容易に推察された。
グッズ売店に並ぶ列、地元メディアは集まっている人達にインタビューを次々と敢行してる。力が入っているなあ。答える人達もまた皆嬉しそう。それがなんだかとても祭りの会場のようで、日常に祭りが帰ってきたんだな…ってすごく思った。でもスケーターの人達はこんな風景を見ることはないんだよな、ショーの前から始まる祝祭空間のようなこの感じを、透明人間になって味わえたらいいのになぁ、と突然思った。

最後列からの眺め
ご覧の通り天井が本当に真上でした

肝心のショーの方は、本当によかった。
あまりにも色々と思うことがありすぎて、1周回って「よかった」「感動した」「もうそれ以上ない」で終わらせてしまいたくなる勢いだ。

コロナ禍前は、オープニングのテーマ曲がFaOIの季節と夏の始まりを告げるようなものだった。今回、ウクライナからのスケーターを多数擁したアンサンブルの群舞とともに3年ぶりに聞いたOPナンバーと、次々に登場するスケーター達。それを見ていたらこの2年間のいろいろなことが思い起こされて鼻が何度もツーンとした。

OPのトリに登場するのは 羽生結弦ー!見れたー!2019年NHK杯以来だぞー!!ショーモードのゆづるさん大海原のマグロみたい元気だな!ピチピチ!活きが良い!飛び跳ねてる!輝いてる!うおおおおおおおお!

と、その時不意に氷の上の何かを拾って投げるような仕草をした。何だろう。OPが終わった途端に「整氷のためショーを一時中断します」。さっきのアレはそれだったのか?何また穴?穴なのか?穴に対する深い疑いのまなざし。
製氷中の暗闇に出てきたのは次に演じる予定だった佳生くん…じゃなくって結弦さん。リンク上を周回してファンに愛想を振りまく。予定外のひとときに想定外のジャケットプレイ。
「!!!!!」
よくみんな大人しくしていられたと思う。

ショーに起きたトラブルを、自分が登場することでファンの側に「むしろボーナスタイム」「大当たり」に変えてしまう。隣の席のお嬢さんと「これはラッキーですね」と小声で語り合う。穴のおかげで余分にユヅルを見ることが出来、疑念から一転の感謝を捧ぐ。でも北京の穴は絶対許さない。

整氷が無事終わりショーは元の通りの進行へ。
コロナ禍の間、氷上演出はプロジェクションマッピングが席巻していたけど、FaOIではこれまでの路線をほとんど変えることがなく、決してスケーター以上に雄弁にならない照明で彼等の演技を際立たせていた。ショー製作側の矜持と理念をそんなところにも感じた。

出演するスケーターは年齢もキャリアもバラバラだけど、それぞれが3分弱の時間に「その時の自分が紡ぐことのできる、紡ぎたい物語」を表現していく。連続するショートムービーを見るような思い。競技であり、また芸術であるフィギュアスケートの特性を遺憾なく発揮する。

自分の物語をまさにこれから構築していくだろう、佳生くん、松生さん、河辺さん。若くからこのショーに参加し、自分の表現を確立しつつあるデニス。プロスケーターとして歩み始めた刑事くん。可愛らしさのプロまいちゃん。すでにプロとして個性を確立しているバルデ、ジョニー、ジェフ、ハビ、そして大御所中の大御所ステファン。日本のレジェンド荒川さん。生粋のエンターテイナー織田くん。競技者としても世界トップのパパシゼ、坂本さん。彼等の紡ぐ物語の合間を縫うようにアクロバット、エアリアルが彼等の物語を語る。ゲストミュージシャンの確かな実力がそれぞれの演目を一層際立たせる。スタッフ、演者、彼等の誰一人なしにこのショーの面白さは成り立たない。

ショーラストのReal Face、あれは一体なんといったらいいのだろう。
最後列にいるのに風圧を感じた気がした。スガシカオってこんな骨っぽいボーカルだったんだ。がなり立てるようにシャウトしてる。それに応えるかそれ以上やるわと言わんばかりの羽生のアクション。振り付けというよりはもうアクションだった。音楽とスケートのふたりのセッションであり格闘。ショーでありながら試合と変わらない熱を帯びる。生命力の塊。

個人的に羽生をすごいと思うのは、彼のこうした「出し惜しみのなさ」。来てくれたお客さんに対して今できることを全部やる、そういう全力さ。どんなに遠くから見てもちゃんと伝わるように、でもどんなに近くから見ても決して粗が見えることもない。そんな相反する完成度。何度見ても何度でも圧倒されてしまう。

サッカーでいえば1点負けてるロスタイムに、同点逆転を信じて全力で走りまくるFWを見ているような、そんな胸の熱さを彼にはいつも覚えてしまうんだよな…

ショーが終わり席を立つ。近くにいた中学生かそれくらいの女の子はひとりで来ていて、ショーの間じゅうずっととても楽しそうに身を揺らしていた。誰のファン?と尋ねると恥ずかしそうに「羽生くん」って答えてくれた。自作のポストカードと白い恋人をお土産に渡した。知らない人からのお菓子ですが不審がらないでほしいと今頃親御さんに言いたい。
左隣のお嬢さんにもお世話になりました。レミエンプーさん撮らせていただいてありがとう。なんとうまく撮れてませんでした…

この2年間、自分達がそれまで生きる縁にしてきたものを「不要不急」にカテゴライズされる悔しさや憤り、先行きの不安、焦燥、私にあったものと同じそれを、このショーに関わる人達みんなも感じてきただろうと思う。
スポーツや芸術やエンターテイメントは、生きていくのに必要な衣食住インフラのそれとは違う。なくても生きていける。それは提供する側の人間達にも決してない感情ではない。
「必要じゃない、と言われたらまあ確かに」
「要らないっちゃ、要らない」

有事にエンターテイメントは絶望する。
平和でなければ存在出来ないと思い知る。
けれどもエンターテイメントは決して屈さない。屈していなかった。
荒川静香や織田信成の「3年前と変わらない」演技は、屈していなかった者達の鍛錬の証左だと思った。
そういう姿にもどれだけ見ている方が勇気づけられたか。
あれは生きるために必要な、祝祭空間でした。
本当にありがとうございます。

規制退場の最初の方だったのでまあまあ楽に帰れました!!
名古屋なのにクラシックを入手できて大喜び

ショーは終わった!あとは観光して帰るだけだ!

徳川美術館に行ってきました
刀剣をたくさん見てきました
徳川園。日本庭園にテンションが上がる道民
菖蒲と和傘のなんと美しいことか
城だ!!
名古屋城内のお茶屋さんにいたお猫様
ゆづるさん金のしゃちほこですよ
確かになぞの生き物

名古屋に来るのは14年ぶりで(前回は降格決定後の消化試合だった、という我ながら「なんでそのときに遠征」案件)とても久々の東海地方でしたが、来てみるとガイシホールは客席の傾斜もあってすごく見やすいアリーナだったので大変にお気に入りました。観光も城とか庭園とか道民に馴染みの薄いものがたくさんあるな!半日で回れるところなんてわずかばかりだ!というかここまで来たら伊勢神宮も行けるくらいだったのか!!と後で気づきました。

ありがとう名古屋楽しかった。ANAのスーパーバリューセールだったら往復2万で行けると知りました。試合関係なく使って遊びに来ようかな。そのために節約生活を、と話は振り出しに戻る。


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