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NHK杯:2年ぶり現地記

2年ぶりの「飛行機に乗って試合を見に行く」経験。
新千歳空港へ向かう早朝の普通列車は、以前ならこの時間でもそれなりに人がいたような記憶があるけど、今は人がまばらだった。

空港に着けば大半のお店は営業を開始しておらず、2年前までの感覚と今とではいろんなことが変わっていたんだなと気づく。
それでも修学旅行に旅立つと思われる学生さんの姿があり(これは帰りの羽田も同様だった)、機内も自分の周囲に空席は見当たらず、自分も含めて「恐る恐るながら動き出す」ことを実感もした。

富士山が見えてテンションが上がる

東京は暖かい。
飛行機で旅をするということは、季節を飛び越えるものだったな。
そんなことも忘れていたな。

何時に原宿の駅で待ち合わせよう、「こういう(連絡)のも久しぶりすぎて幸せ」とかそんなやり取りをした友と合流。

飛行機で旅をすることも、そうして試合を見に行くことも、現地で約束して友人に会うということも、コロナの前には当たり前のように出来ていたことをこうして特化して書きたくなるほどには、2年間でいろんなことが変わっていたんだと何度も実感する。

雲ひとつない上天気の代々木。こちらはこれから紅葉が始まるんだな。

この大会で羽生結弦の姿を拝めるのはここだけ(滂沱の涙)

コロナ禍の状況は今少し落ち着いてきているけど、深く影響を受けている仕事の方はまだそう簡単に回復しそうにはなくて、そんな中に安からぬ金額をかけての遠征には考えるところがあったんだけど、「投げたコインが表なら行く」とばかり申し込んだフリーの土曜日のチケットが当たって、文字通り浮き立つ思いで手配した旅は、先週暗転していた。

五輪の前のNHK杯を負傷欠場。それを現地で見る。4年ぶり二度目なの我ながらウケる~って自嘲するガッツも本当はない。試合を見て帰ってきた今も、行ってよかったと疑いなく思っているけど、出るはずだった選手が見られなかった寂しさについても特に変化はない。サッカーで言えば「すごくいい試合だった、見られてよかった、行けてよかった、でも負けた」みたいな感覚に近いのかな。ルヴァン決勝かい。

羽生の欠場が決まってからは、チケットのトレードにたくさんの出品が続いてた。
最終的に結局どれくらいの数のファンが入れ替わったのか知らないけど(途中まで5千枚くらいは見てた)、その数のうちどのくらいが「好きな選手しか見たくない」のか「他の選手も見たいけど、一番見たい選手がいない場所に行くのがつらい」のかはわからない。私は少なくとも前者では全くないけど、後者の人たちの気持ちは痛いほどわかる。


試合会場ではカテゴリーを問わず、また国も問わずどの選手にも分け隔てなく応援の拍手が送られていた。
自分の前の席にいたお客さんは、複数の各国旗を用意して都度それを掲げていた。だから特定の贔屓を持たない、全員応援のガチな競技ファンの方なんだろうなって思った。でもその人が羽生結弦展のグッズだったアクセサリーを身にしていることに途中で気づいた。その人の矜持を見る思いがした。

また自分の席からはウォーミングアップエリアが近くて、暗幕を越えてこちら側に出てくる選手や関係者の姿がよく見えた。
「あれオーサーかな」
「オーサーだよね」
コーチの姿を確認するとそれが気になってしまう人達も少なからず周囲にいた。


チケットを手放す選択をしたファンが多くいる一方で、来る選択をしたファンも当然いる。
私が目の前の国旗を掲げたファンの人を最初そう思ったように、傍目では全員を応援に来たニュートラルなファンに見える、本当は一番応援したい選手がいた人達。
そんな人はこの大会の会場にいったいどれほどいたんだろう。

私ももちろんその一人ではあるけど、擬態の方向が違う人種なのでこうなる

口さがない界隈に当たったら、あの人サッカーファンなのにフィギュア見に来てるのぐらい言われるんだろうかワー怖い

…今度は羽生ファンを地味アピール出来る何かしらを用意したいと思った


さて肝心の試合のほうは、ほぼ2年ぶりの生のフィギュアスケート、懐かしい匂い、空気、そして音。
現地で一番いいなと思うのは音響。
自分は俯瞰するのが好きだからだいたいいつも上のほうの席で、音源が目の高さにあって、音楽が選手に降り注ぐ感じに見える。

この日一番、その降り注ぐ音楽と調和している、溶け込んでいると感じたのはジュンファンだった。
あれを現地で見られたのは本当に幸運なことだと思った。
4Sで転倒したことを思い出させないほどには、プログラムの中の全てのエレメンツの配置が絶妙。
ジャンプにもステップにも、なにかひとつに偏ることなく、トータルとして美しい。
これまで通りのように見れていないにしても、クリケチームいい仕事するなぁって改めて思った。

見るのを楽しみにしていた三浦木原組は、地元の大会ということもあってか、また表彰台が視野にあることもあってか、今季これまでの大会よりは少し硬めな印象がなくもなかったけど、それでも世界トップランクのカップルと見比べたときに、難度や完成度の部分で及ばないところはありつつも、確実に「同じ土俵の上に立っている」とも感じた。

完璧な演技ではなかったけれど、会場に来ていたファンは彼等のここまでをよく知っているかのように、何ら迷うことなく「これは前回のワールドの分!」「これはオータムクラシックの分!」「これはスケカナの分!」とばかり猛然とスタオベを送っているように思えた。

アイスダンスは語るのが少し難しい。
正直なところを言えば、私は思った以上に村元高橋組に圧倒されていた。
一年でここまでの進化を見せること、「大ちゃんスケートうまいわ」という素人のような感想、またあれほど強烈な個性の高橋大輔を向こうに回して尚それより強い光を放つ村元哉中の強さと美しさ。他方、小松原組の描く世界観も磨かれていて、彼等が望む環境で練習を積めていれば更にもっとよいものを見られていたかもと思うと、勝負の世界という言葉で片付けるには…となってやっぱり難しい。です。

女子。12人→9人はさすがに寂しいかな。
カオリサカモトのFS、今季のプロはここまで個人的にしっくり来ないなあと思いながら見ていたものの、現地で見ると「ああ、これはかおちゃんにしか出来ないような」だった。3Aを入れなくても、4回転を入れなくても、出来ることを最大限磨き上げることで作り上げられる世界は決して脆弱ではなく、女性としての云々を超えて、人としての強(したたか)さを伝えるようで。ひとりだけ違うサイズのリンクで滑っているかのような、リンクが広い感じがしない。

男子は「ここに羽生くんがいればどんなに白熱した大会だったろう…」と思うも「そしたら草ちゃん見られなかったしなあ」とも思って大変に複雑な心境に陥る。草ちゃんのイオチサロの、NHK杯ロゴを中心に描いたイーグルの壮大さをどう伝えればよいか。

佳生くんは楽しみにしていた通りの演技だった。
上から見るとクワドを跳ぶ時に軸の細さというかブレなさ速さというかが目についた。全てにおいて速い。そして猛烈な求心力。サッカーで言えばカウンターから抜け出してゴール前一対一、「行ったれぇぇぇ!!」みたいなドライブ感。フィギュアスケートは正しくスポーツである、ということを思い起こさせる熱量。これから先が楽しみすぎるので怪我にはどうか気をつけていただきたく。

昌磨は今大会でこれまでと大きく違うんだなと認識を新たにさせられた。
ジャンプが全部終わった後のステップは、さながら「42.195km走ってきたあとに100mダッシュ」みたいに感じられて震え上がった。でも昌磨なら出来ると思ってこういうプログラムになっているんだろうな。愛ある鬼だなランビ。

くれぐれも一番見たい選手はいなかったけど、やっぱり試合はいいな。
出る人関係なく、今度はリアルニュートラルなファンとして観戦したいなNHK杯。
それはいつになることだろう…と思ったら来年札幌って言うじゃないですかやだなー。
来年こそはチケットが取れますように、そして来年もちゃんと有観客でやれますようにと願う。有観客で声が出せるようになればもっといいなと強く願う。それでも場内にいると「!」「!!!」みたいな声にならない声もそれなりに感じられるもんだなって思った。しょうまが4Lo決まった時は後ろに居たファンの人達の「cvbんm,。」が聞こえてきたよ。

羽生さんの試合をまた見ることができますように。
4Aに思う存分キャーキャー言える世界が来ますように。
猛烈に強く願う。

帰ってきて呑むビールはとてもうまいものでした。ここまでが遠征よ。

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