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愚直な日々を

試合開始前のスティング、2週間前にドームで聞いていたそれをこの日は歌う側に。反響が気持ちいい。自画自賛したくなる音量。…と思ったけど、どうやら自画自賛ばかりという訳でもなかったようで、場内に訪れていた他サポの方々がSNSにUPされている動画を見て少し思った。準決勝のもすごかったんだぞ、と自慢したくなる気持ち。今日だけ特別出せた声じゃない。大事な試合の大事な場面で何度も出してきた声だ。今まで知られていなかっただけ。


菅ちゃんのゴールは最高だった。
前の日一緒に移動してきた友達と「菅ちゃん緊張してるって言ってる」「菅ちゃん大丈夫か」「腹壊してないか」という話をしていた。菅ちゃん大丈夫だった。大丈夫以上だった。このまま1-0で勝ったら菅ちゃんの銅像建てたいと思った。とはいえ決勝Tで二度も1-0で勝てるとはさすがにそんなに美味い話はなく、前半終了間際に追いつかれてしまった。そこに至るまで川崎のシュートがあまりにも入らなくて、本当に呪われているなとは思ったけど。

後半の43分にゴールを決められたときの景色はきっと忘れられない。
川崎のゴール裏の青が対面で爆発した瞬間。4回タイトルを逃してきた彼等が、この試合も前述のように呪われているレベルで入らないシュートに耐えてきた不安がそこで消し去られたように見えた。あ、これやばい。このまま川崎が勝つやつだと思った。

でも。
目に脳に焼き付くような川崎の歓喜を見に来るためにここに来たわけじゃない。決勝に来ることそれ自体が夢のようだったとはいえ、こんな悔しさを味わうためにここに来たわけじゃない。

「悔しさから始まる事がある」、チームが出来て最初の年の天皇杯が過る。あのときも負けて泣くほど悔しい想いをしたことで、このチームを本気で応援しようと思った。23年前のこと。今回の決勝もあれと同じになってしまうのか。それはそれで悪くないかもしれない、けど、嫌だ。どうしても嫌だった。

ロスタイムに訪れたCKはそれが最後になるだろうことは誰もが分かっていた。目の前の映像は早送りのように過ぎていった。選手が何人かこちらを必死になって煽っているのが見えた。ソンユンが上がってきたのは見ていない。CK。誰かに当たったボールがゴールにはっきり吸い込まれるのを見た。

あのときの歓声は耳でも心でも受け止められるようなものじゃなかった。涙など止められようもない。それでもゴールを決めたのが誰か知りたくてビジョンを確認することは忘れない冷静。あれこれ深井さんのゴールじゃない?と気づいたとき、ビジョンに名前を確認したときの感情。

いや待てこんな脚本普通ボツだろ。そんなことがあるわけないだろ、っていうことが起きてしまうのがスポーツだ。そしてそれが見ている人達の人生すら変えたり支えたりしてしまう。

私は個人的にここで容量がいっぱいになってしまったようで、そのあと福ちゃんのFKで勝ち越しても、10人になった川崎に追いつかれても、PK戦で「ここで決めれば勝ち」という場面で止められても、それから負けてももう涙が出ることはなかった。勝ちたかった。悔しかった。でも、自分達の長らく応援していたチームが決勝といういちばんの舞台で、こんな試合をしてくれたことへの感謝もあった。

だって何度言われたと思う?「弱いチーム応援して何が楽しいの」って。
なりふり構わぬスタイルに相手監督から揶揄されたことだってあったし。覚えてられないぐらい馬鹿にされてきた地方の弱小クラブがここまでやれたこと、そしてこの試合を見ていた人達と、今日から堂々と「ここから先」を目指すことができるんだと思ったらやっぱり、悔しいけれど悪かぁない。悪かないけど悔しい。永遠のループ。

弱い自分達を蹴倒しながら来れた満足。
強い相手を蹴倒すまでに至らなかった不満。
どっちも大事な収穫だったんだ。


スティングと同じように。
毎週のリーグ戦と、毎日の練習の中でひとつひとつ挑みながら鍛えてきた事が結実してそこにたどり着いた。突然どこかから与えられたものじゃなかった。日々重ねてきた果てに決勝という舞台があった。
だからここから先も同じ。
その精度と強度を上げていく。

大事な試合だから頑張る、じゃなくって、目の前の試合に全力で取り組む。そこで結果を出せるよう目の前の練習を全力で取り組む。そしてそれを全力でサポートしていく。そんな愚直な日々を重ねていくことができれば、10月26日と同じ場所へ、更にもっと強く望む場所へたどり着くことができるんだろう。

負けたあとに練習したくてたまらなくなる選手達であってほしいし、負けたあとに応援したくてたまらなくなるサポーターでありたいと思った。
悔しさと、そこから逃げないことが自分達を強くさせるものだと知っているから。
選手達はオフ明けから、私達は週末のホームから。
次の舞台に向けて休んでいる暇はない。

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