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果実だけの一日

桜咲きまくりですね。「桜咲きまくり」って言うと風情もへったくれもありませんが。

果実回です。ファイルで読んでください。





『果実だけの一日』


「振られるのも上手い、っていうのが良い女の条件じゃなかったの?」
「私が良い女じゃなかったってだけだろ」
 涎みたいなのが出てますよ、と言いたくなるのを堪えて、雪を見る。居酒屋の喧騒に包まれた私達の何気ない会話は、人によって生まれた熱気にまみれて、霧散していく。
「雪ちゃんはね、いい女じゃないのよ」
「自分の事をちゃん付けで呼ばないで、気持ち悪いから」
「ちゃん雪はさ、いい女のはずが無かったのよ、はずが無い、はずが無さすぎるのよ」
 まあねえ、と返事をしながら人の体温と同じくらいに生ぬるくなったアルコールを口に運ぶ。飲みながら、別に美味しくないのにな、とか思う。飲みたくもないけど、この場所にいる権利を獲得するために摂取し続けなければいけない。ソフトドリンクを意地で頼まなくなってから、どれくらい経つだろう。
 ジョッキを抱えて机に突っ伏している雪の長い髪は、軋んでいて、汚い。うああ、と呻いている姿を見ていると、そりゃあ振られてもおかしくないが、この女はずっとこうだからしょうがない。もしこの女を好きになるとしたら、こういう雑さを好きになるんだろう。そして、今回の相手は、この雑さを好きになれなかったのだろう。
「果実はさ、仲間なのにね、本質は」
 呻きがフェードアウトして、言葉に変わる。
「はい?」
「果実はさ、私と似たようなもんじゃん、根っこが」
 顔だけこちらに向けて、頬杖をついている私に向かって下から覗き込むように話す。
「なのに砂糖が居るじゃない、あなたには、砂糖さんがさ」
 砂糖さん、だけを強調して、へらへらと雪は言う。
「砂糖さん会わせてよ、早く、焦らさないでよ」
「嫌だよ、あんたみたいな雑な女」
「砂糖さんは雑なところを好きにならない?」
 ならないよ、と返事をすると、再び呻きながら雪が机に突っ伏してしまった。思い切り頭をぶつけて痛くないのだろうか。雑を纏った雪はいつもこういう酔い方をする。本質を問うだけ問いといて勝手に寝ないでよ、と言いたくなる。
 砂糖、この時間何してるかな。もう家には帰ってるか。
 脳内に砂糖が一人きりで、無表情で、家の中を歩いている様子が思い浮かぶ。ぺたぺたと足音を立てながら。
 私の事考えてくれてるかな。
 私が思い浮かべる砂糖はいつも無表情だ。それにつられて、砂糖の事を考えるといつも私の顔からも感情が消える。
 もう毎日笑顔しか見てないのにな。
 私の事を思い浮かべていないみたいな無表情で、一日を無事に過ごせるだろう事実に、いつも腹が立つ。いつも通りの夜を過ごせることに腹が立つ。私が居ないからといって取り乱さないことに腹が立つ。
 もう帰りたいな。
 手元にある焼き鳥の串をじっと見つめる。手に取って、これを喉の奥に突き刺したらどうなるんだろう、と考える。何を考えているのか、と自分で自分に呆れて、皿に置く。
 家で一人きりの砂糖を考えるたびに腹が立つ、という事に気づいた時、私は自分で自分のことが嫌になった。
 本当に無表情で過ごしているかなんて確認したことが無いのに。




お疲れ様です。なんかよく分からないんですけどデスクトップにあった書きかけのファイルがあったので整えて投稿しました。いつ書いたのかも覚えていません。多分一発目の「振られるのも上手い、っていうのが良い女の条件じゃなかったの?」「私が良い女じゃなかったってだけだろ」っていう会話を書きたかっただけだと思います。

居酒屋に行ったことがないし、アルコールを摂取した経験が少ないので、酔っている人の雰囲気とか、場所の感じが分かりません。皆目見当違いのことを書いていたら許してください。

ちょっと前にお酒飲むの嫌すぎるみたいな文章を書いたのですが、その時にはかなり熱を持って飲酒を嫌っていました。しかし一度機会があって、飲んだという経験を経た今は本当に興味という興味が無くなってしまいました。「本当に俺は若いのか」と問いたくなるぐらい心の底にアルコールに対する情熱がありません。結構中学生の頃は羽目を外して楽しむぞ、という心意気だったのですが、いつからこうなってしまったのでしょうか。俺はまだ本気出してないだけのなので、いつかはどうにかなるかもしれませんね。


なんでこんなに果実って可哀想なんだろう。僕の深層心理がわかる人がいたら教えてください


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