神戸の問題から考える、教育委員会と市長のあるべき関係とは?ー公選制なき独立性の問題点

1. はじめにー市長と教育政策の距離感

みなさんこんにちは、理事の畠山です。隔週で理事陣が交代でお届けする予定のサルタックブログですが、ミクロ経済学の中間試験と期末試験の時期に執筆が被るとしんどいので、順番を変えてもらった上に、2回目にして早くもルールを逸脱して2週連続で私の更新となります。次回は元の予定通りに11月18日の週に、理事の山田が何かしら面白い記事を投稿してくれる予定です。

さて、神戸の教員いじめ問題が話題となっていますが、神戸は大学院生時代に住んだ街なので、大変驚きました。そして、これに関してTwitter上で神戸市長朝日新聞の記者の大変興味深い議論を見かけました。リンクが消えてしまうとあれなので、スクリーンショットを下記に貼っておきます。

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神戸市長:「神戸新聞で学者は、「教委の独立性から考えれば疑問」「市教委が本来の役割を果たすべき」と。そんな議論する時期はとっくに過ぎている」
朝日新聞記者:「教育行政の専門家でもない市長部局の人間が教委をグリップするのは、極めて問題がある。教育行政が市長の顔色を伺うように必ずなります。再考を。」

日本の教育関係者にはよく分かるやり取りかも知れませんが、そうでない方や、国際教育協力を志す・仕事にしている方の中にも、教育委員会の独立性とはなんぞや?と思われる方がいるかもしれません。いや、そもそも、残念なことに政治家の大半は教育分野出身でもないし(もっと教育関係者の政界進出が増えるべきだと思うんですけどね)、行政の専門家でもないので(こちらは大問題だと思いますが)、政治家の方の中にも教育委員会の独立性とは何かを理解していない方もおられるかもしれません。

確かに文部科学省の教育委員会制度についてのHPを見れば、教育委員会の独立性とは、

行政委員会の一つとして、独立した機関を置き、教育行政を担当させることにより、首長への権限の集中を防止し、中立的・専門的な行政運営を担保

であることは理解できると思います。しかし、なぜ教育委員会の独立性が必要で、首長の教育政策への関与が制限されるべきなのかまでは、あまり理解が及んでいないと思われます。しかし、ここを理解しない事には、自身が持つ権限を越えて教育への関与をしようとする神戸市長が悪いのか、それとも教育委員会の独立性を金科玉条のように扱っている記者が悪いのか、判断をすることは不可能です。

今回は、近年の米国教育政策で注目を呼んでいる教育のMayoral Control(市長による教育統治)の議論を紹介することで、神戸市長の発言の妥当性を考える材料を提供できればと思います。元々、日本の教育委員会制度は、第二次世界大戦での敗戦後、米国のシステムが輸出されたところから始まっているので、現在の米国の教育委員会を巡る議論は、神戸市の事例を考えるだけでなく、今後の日本の教育委員会制度の在り方を考える上でも参考になるはずです。

もちろん、国際教育協力を実施していくうえでも、こういった問題をどうすべきか考える必要はありますが、実際には殆ど顧みられていない問題です。しかし、誰がどのように教育行政を担当するのか考えず、前回の記事でもご紹介した単発のプロジェクトやRCTを連発するだけでは、途上国のオーナーシップの下で持続的に教育拡充が進む環境は整備され得ません。今回の内容は主に米国と日本を扱いますが、むしろ国際教育協力の人達にこそ、今回の記事で提示されているような議論や論文をよく読んで、今後の途上国支援に活かして頂けると嬉しいなと、教育政策でPh.D.をやっている人間としては思います。

2章では、Mayoral Controlをより深く理解するために、米国のステータス・クオであった、徴税権・公選制・独立性を有する教育委員会による教育の統治、Local Controlについて解説します。3章では、現在の米国ではこのステータス・クオを打ち破る様々な動き・施策が見られ、Mayoral Controlはその一つなのですが、なぜ100年を軽く超えるほど続いたステータス・クオが打ち破られようとしているのかを解説します。4章ではMayoral Controlとはなんぞやという所から、Mayoral Controlの長所と短所との比較を通じて現在の日本の教育委員会システムについて考える所まで議論を進めます。5章はオマケですが、教育委員会のあるべき姿、特に教育行政の担当者が誰に対してどのような説明責任(アカウンタビリティ)を負うべきなのかは、その社会が教育政策を通じて何を目指しているのかによって大きく異なります。そこで、教育政策の目的にはどのようなものがあって、それによって教育行政はどうあるべきなのかをご紹介したいと思います。

※私は英語が苦手なので、Mayoralの発音が出来なくて、このテーマに関するディスカッションの時に爆笑を取ったことを告白しておきます。

(ネパールでの教育支援活動の拡大と、同じくネパールでの研究活動の拡大により、少し物入りになってきたので、一部記事を有料化しました。マガジンを購入して頂ければ読み放題になるので、そちらの方がお得になっていく予定です。2週間に一度記事を更新し、その収益をネパールでの活動費に当てさせて頂きたいと思います。サルタックの会員になって頂けると、会員特典としてブログの記事を無料でメールでお届けします!下記の入会申込書に必要事項を記入して頂いて、sarthakshikshajp@gmail.comまでお送りください)。)

2. 戦後日本に輸出された米国教育システムの特徴とは?-教育委員会の公選制・徴税権・独立性

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