今年のノーベル経済学賞と、「プレドク」&米英の国際教育協力の違い

ご無沙汰しております、理事の畠山です。ネパールでの教育支援活動の拡大と、同じくネパールでの研究活動の拡大により、少し物入りになってきたので、今回から一部記事を有料にして(マガジンを購入して頂ければ読み放題になるので、そちらの方がお得になっていく予定です)、2週間に一度記事を更新し、その収益をネパールでの活動費に当てさせて頂きたいと思います。もちろん少しばかりお金を頂く分だけ、国際教育協力分野や、この分野でのキャリア構築のために、よりinformativeなものが書けるように努力しますし、何かこういった情報を知りたいというリクエストがあればお答えしていきたいと思いますので、どしどしコメント・メールなどお寄せください(サルタックの会員になって頂けると、会員特典としてブログの記事を無料でメールでお届けします!下記の入会申込書に必要事項を記入して頂いて、sarthakshikshajp@gmail.comまでお送りください)。

今年のノーベル経済学賞も発表になりましたね。今年は、デュフロ・バナジー・クレマーの3教授が受賞されましたが、国際教育協力にも大きな影響力を与えた方々です。このお三方は、開発経済学分野での実験アプローチ(要はRCT)を切り開いた功績が評価されて受賞に至ったわけですが、このRCTを用いることによって、これまで答えることができなかったリサーチクエスチョンに答えたり、各種の介入の費用対効果を比較可能にしたという所こそが評価されるべき点だと思います。詳しい解説は、日経の方で黒崎先生がなされていたり、安田先生もnoteでされていたりするので、ぜひご参照ください。

ノーベル経済学賞と実務の現場という少し風変わりな観点から、今年のノーベル経済学賞の意義を私個人のブログで解説しましたが、もう少し風変わりな観点からの解説を続けようと思います。それは、今回のノーベル経済学賞と国際協力人材の育成についてです。実は今回のノーベル経済学賞は、「プレドク」の拡大と相まって国際協力人材の育成に大きな示唆を持っています。第一章ではこの点についてお話しようと思います。

さらに、先月のことですが、大学がお金を出してくれるということなので、英国のオックスフォード大学で開催されたUKFIETという、国際教育協力分野の学会に参加してきました。米国の国際比較教育分野の学会であるCIESと比較するとかなりこじんまりとした学会でしたが、CIESの場合は先進国を対象にした比較教育も相当なボリュームを占めているので、国際教育協力だけに絞ればダブルスコアほどには差がつかないかもしれません。

このUKFIETとCIESは、その規模だけではなく、発表の中身も大きく異なっていました。そこで今回は、UKFIETとCIESの違いから英国と米国の国際教育協力へのスタンスの違いを見つつ、実はそれが今年のノーベル経済学賞を英国の研究機関が取ることがあり得たのか否かにも示唆を持つことを第二章として紹介しようと思います。

1. 国際協力分野での博士課程への入学のドラゴンボール化と取り残されてサイヤ人になれない日本人

今回のノーベル経済学賞の意義を、研究以外の側面から、これから国際教育協力を仕事にしていこうとする人達に多少は役立つ内容でお話しようと思います。

大学院への進学を多少なりとも考えた事がある人なら「ポスドク」というワードを聞いたことがあるかもしれません。これは簡略に言うと、博士課程修了後に、Postdoctoral Fellow/Researcherとして研究経験を積み、論文を発表して、その後のキャリアのステップとする仕組みです。

しかし、近年北米では、「ポスドク」ならぬ「プレドク」が拡大しつつあります。プレドクとは何ぞやと言うと、読んで字の如くですが、博士課程に入る前(ないしは入学後というものもあるようです)に働きながらリサーチの経験を積むことを指し(一般的には修士号取得後になりますが、学部卒で直接このルートに入る人もいるようです)、「Research Associate/Assistant」などと呼ばれることもあります。今回のノーベル経済学賞がここへの影響をより強めてくる可能性があるのですが、その前に英国の大学院のケースにも少し触れておきましょう。

英国の開発分野の大学院は・・・

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