国連職員の素養として、面接でも尋ねられる『コンピテンシー』の話

こんにちは、サルタック理事の畠山です。

日本は国連PKO、特に南スーダンのそれに対して協力していて、自衛隊の方々を司令部の要因として送っています。先日、新たに南スーダンのジュバに赴かれる自衛隊の方々への研修があり、その一部を担当しました。カバーしたトピックの一つに「国連職員に求められるコンピテンシー」があったのですが、そういえばブログでコンピテンシーについて話した事なかった&研修の講師を務めてコンピテンシーについて少し面白い気付きがあったので、今回はこれについて話をしてみようと思います。

コンピテンシーって何?なんで国連にとって重要なの?

現在の国連のコンピテンシーフレームワークは、コフィ・アナンさんが事務総長だった時に作られました。それがまとめられた文章がこちらになります→コチラ(PDF)。

リンク先を読んでもらうと、今回の記事の内容の大半がカバーされているので、今回はこの辺りで終わり…にするのもなんなので、続けていこうと思います。

まず、コンピテンシーという耳慣れない単語は一体何ぞやという所です。コンピテンシーとは成果を出せる人が持っているスキル・特徴・行動様式の事を指します。要するに、国連職員として活躍できる人ってどんな人?を具体的な要素に落としたものの詰め合わせといった感じです。(注:今回は話を国連本部が作成したコンピテンシーフレームワークに沿って進めていきますが、これは組織によって微妙に違いがあったりします。教育分野に関して言えば、ユニセフとユネスコで人事が掲げているそれは、基本ラインは国連本部のそれに準拠していますが、若干違っていたりする所もあるので、既に特定の機関に応募をしている・念頭に置いているという人は各機関が掲げているものを参照してください)

そして、このコンピテンシーはコアという全職員に当てはまるものと、マネージメントというチームや組織を引っ張っていくような人達に当てはまるものがあります。残念ながら私もおっさんとはいえマネージャーとなる所までは行けず、マネージメント・コンピテンシーについては正直よく分からないので、今回は話をコアコンピテンシーに絞って進めていきます。

なぜコンピテンシーが重要なのかというと、国連のコアバリュー(誠実さ・プロフェッショナリズム・多様性の尊重)と相まって、組織の文化を形成し、全ての職員が力を発揮できる環境を生み出すからです。それそのものが多様性に反するんじゃないかと言われるとやや苦しい所はありますが、組織として価値観も職員の行動特性もバラバラだと、なかなか職員としてもやりづらく、共通の基盤が欲しい所で、これがコアバリューとコンピテンシーになるという感じですね。後は人材開発の指標としても使われるのですが、これはまた後程。

国連が掲げる8つのコアコンピテンシー

国連は職員に対して以下の8つのコアコンピテンシーを身に付けて、それに基づいて職能成長していく事を求めています。簡単に見ていきましょう。以下の8つコンピテンシーの紹介順は、特に重要性の順番には基づいていないのでその点だけご留意ください。

コミュニケーション

日本の就活でもコミュ力はよく聞くような気がしますが、それは国連でも同様です。ただ、国連が掲げるコミュニケーションスキルはどのようなものか以下の5つの点から明確に記述されているので、その点が少し違うかもしれません。

①明瞭かつ効果的に文章を作成し、話すことができる。サルタックのインターンには留学してから苦しいのは読むスピードが遅い事に起因していて、現地の学生は大して大学院で苦しんでいないというのを強調して、とにかく読むスピードを上げる事を推奨していますが、その次の段階に書く・話すが来ます。

ここで大学院留学した人ならおやっと思ったかもしれませんが、イギリスの修士の授業だと課題で多く英語を「書く」機会がありますし、授業で議論に参加して沢山「話す」機会もあると思います。実は大学院での授業の内容はそれそのものがコミュニケーションのコンピテンシーを養う形になっているのです。というわけで、授業を頑張りましょう。

②人の言った事を的確に解釈し、適切に反応できる事

③人に対して質問を促して、双方向のコミュニケーションが出来る事

④TPOに応じて言葉遣い・話のトーン・話し方を調整できる

⑤積極的に情報共有をする

チームワーク

二つ目のコンピテンシーはチームワークです。これも日本でも重視されているように思いますが、具体的にどういうことなのか記述されています。そして確かにその記述を見ると、現役の国連職員が出来ているかどうかはさておき、それが出来ていればもっと国連も効果的に機能しているだろうなと思います。

①組織的な目標の実現に向けて同僚達と協働できる

②同僚の専門性や考えを尊重して、助言を求めることができる

③個人よりもチームを優先できる

④例え自分の考えと違っても、チームとして決定した事に従える

⑤失敗した時に連帯責任を背負い、成功した時に他者の貢献を認められる

計画性

三つ目のコンピテンシーは計画性です。下の具体的な記述を見ても分かりますが、これは結構日本人が得意な領域なのかなと思います。

①戦略にあった明確な目標を立案できる

②優先順位を立てつつ、それを状況に応じて変化させられる

③作業を終了させるための適切な時間とリソースの配分が出来る

④リスクを予見して、対応計画を策定できる

⑤状況を把握して必要に応じて対処できる

⑥時間を効率的に使う

説明責任

四つ目のコンピテンシーは説明責任(アカウンタビリティー)です。率直な感想を述べると、これが国連職員に必要なコンピテンシーに入ってくるというのが、国連も所詮は白人様の機関なんだなという感じです。というのも、日本でもそれほど説明責任という言葉を聞きませんが、アジアやアフリカでもそれほど使われる単語ではありません。しかし、アメリカに目を向けると数多くの機会で聞く言葉で、例えば子供達の学力が低い事に対して教員達に説明責任を果たさせる・BLM運動に対して警察に説明責任を果たさせるといった感じです(あれ、政治家は説明責任…)。

それはさておき、ちょっとアジア的な文化では無いので、このコンピテンシーについては、何ぞやというのをしっかり理解して計画的に準備して行く必要がある人が多いかもしれないなと思います。

①全ての責任を主体的に負い、結果へのコミットメントを称賛できる

②責任を負っている事に対して、与えられた時間・予算で、十分な水準で結果を出せる

③組織のルールを遵守する

④部下を注視しながら支援し、任せたタスクについても責任を負う

⑤自身やチームの至らない所に対して責任を負う

顧客主義

日本は「お客様は神様です苦笑」の国なので、この五つ目のコンピテンシーである顧客主義は、それほど準備を恐れなくても大丈夫なのかなと思います。

①全ての顧客を考慮して、顧客の視点に立って行動できる

②顧客と建設的なパートナーシップを構築できる

③顧客のニーズを把握して、最適な解決策を提供できる

④顧客が直面する内外の変化を察知して、予想される問題を把握する

⑤顧客に対してプロジェクトの進捗状況を報告する

⑥納期を守る

創造性

六つ目のコンピテンシーは創造性ですが、イノベーションと読み替えてもあまり差はありません。国連機関の近年の致命的な欠陥は、基礎も出来ていないのに新しい事ばかりを追い求めて、結局何もできていないというのは火を見るよりも明らかなので、ひょっとすると将来的に見直される可能性があるかもしれませんね。詳細は以下のようになります。

①サービス向上策を積極的に模索する

②顧客のニーズに応え、問題を解決するための、既存のものとは異なる解決策を提示できる

③関係者に新たな考えを採用するよう促せる

④既存のものとは異なるものを採用するために、計算されたリスクを取れる

⑤新たな考えや方法に興味を持ち続ける

⑥既存の考えに囚われない

テクノロジーの活用

七つ目のコンピテンシーはテクノロジーに関するものです。これも若い人は得意だと思いますが、私のような中年になってくると億劫になってきたりするので、気をつけたいものです

①利用可能なテクノロジーに後れを取らない

②仕事にテクノロジーを活かしていくうえで、その可能性と限界を把握している

③リスクに応じて適切なテクノロジーの活用を模索できる

④新しいテクノロジーの学習を怠らない

学習の継続

最後のコンピテンシーは学習の継続です。勿論、国連職員が学ばなければならないのは七つ目で出てきたテクノロジーだけではないので、七つ目とは独立で学習の継続が八つ目のコンピテンシーとして出てきます。

①自身の専門分野での最新の動向を把握している

②個人の資質と専門職性を向上させ続ける

③同僚や部下の学びに貢献する

④他者から積極的に学ぶ

⑤他者にフィードバックを求めていく

8つのコアコンピテンシーをキャリア開発に活かしていく

冒頭でなぜコンピテンシーが国連にとって重要なのか説明しましたが、そこで職員の職能開発のためという側面があったことに言及しました。つまり、現在国連で働いている人にとっても、また将来国連で働きたい人にとっても、この8つのコンピテンシーを意識的に伸ばしていく事が求められています。

次のような方法を使って、ご自身の職能成長のためにコンピテンシー枠組みを活かしていくと良いかもしれません。

①8つのコンピテンシーのそれぞれについて、それを有しているかいないかを10段階で評価してみて下さい

②8つのコアコンピテンシーの説明をよく読んで、なぜ①でそのような評価を下したのか、記述してください

③上位4つのコンピテンシーについて、具体的にそれを有している事が説明できるエピソードを記述してみて下さい。もし何も具体的なエピソードが思いつかなければ、もう一度よくそのような評価を下した根拠を考え直して下さい

④下位4つのコンピテンシーについて、今後どうやってそれを改善していくか、とりわけ仕事の中でどうやってそれを伸ばしていくか計画を立てましょう。もし今の職場環境で、それを伸ばしていく事が難しそうであれば、環境を変えることを考えても良いかもしれないですね

さて、講師を務めてみて意外な気付きがあったというのは、この自己評価の部分です。参加者の方々の自己評価が、日本人ってこんな感じかなと思っていたのと結構違っていたので何か新鮮でした。

8つのコアコンピテンシーに応じて、面接対策をする

さてさて、国連の面接はCompetency-based Interview (CBI)と呼ばれるもので、TORに掲載されている特にそのポストで求められるものについて、候補者のコンピテンシーレベルを評価していきます。

候補者は、面接で聞かれたコンピテンシーについて、それを有している事を説明していく事になります。しかし、その説明方法というのは既に確立されているので、そんなに危ぶむこともありません。アントニオ猪木さんも、危ぶむなかれ、危ぶめば道は無しと言ってました。

各機関によってその説明方法の名称は違っていたりするのですが、基本的に指しているものは同じでBACKアプローチとなります。このBACKアプローチとは、Background, Action, Consequence, and Knowledge gainedのそれぞれの頭文字を取ったものです。これは、自分がそのコンピテンシーを有している事を証明するような事例について、①その事例の背景→②その事例であなたが取った行動→③その結果→④その事例から何を学んだか、というストーリー形式で話す、という事になります。

ここで勘が良い人は、「あれ、それってひょっとして、事前にストーリーを各コンピテンシーごとに作成しておけばいいんじゃね?」と気が付いたかもしれませんが、実際にその通りで、寧ろ当日行き当たりばったりで答えるのは…まあちょっとマジであり得ませんね、という感じです。

さらに勘が良い人は、「あれそれって、このリモート面接が主流のご時世だと、事前に作成したメモ書きを自分のパソコンに表示させておいて、それに沿って話せばいいだけじゃね?」と思ったかもしれませんが、…まあそうですよね。あまり適切ではないのかもしれませんが、私もそうしています。

よーし、BACKで話を作ればいいんだなといっても、具体例を見ない事にはどういうことなのか分かりづらいかなと思うので、以下に私が作成したメモ書きの一部を置いときます。畠山の物で大丈夫なのかよと思われるかもしれませんが、今ユニセフの教育分野でトップクラスに影響力がある昔の上司が作成したメモ書きを見せてもらった事があって、私もその形式を丸パクリして作成しているので、まあそんなにダメダメなものでもないのかなとは思います。では以下でどうぞ↓

コミュニケーションについてー事例:新しい5か年計画の作成

Background

・ユニセフ・マラウイ事務所は、UN Development Assistance Frameworkとも関連してくる、新しい5か年計画の作成準備に入っていた。各セクションは現状分析を行い、焦点分野や地域を炙り出す事が求められた

Action

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