幼児教育が広まれば平等な社会になる、という幻想に騙される世界

こんにちは、畠山です。新型コロナウイルスの影響が世界中に広まっていますが、みなさまのご無事を祈っております。

ネパールでもロックダウンが始まり、これの対策のためにインターンを募集した所、ガッツも情熱もある多くの方からご応募いただけました。募集に応募して頂いた方、インターン募集の情報を広めて頂いた方、どうもありがとうございました。ネパール側のスピード感についていくのもやっとな程動きが早く、嬉しい悲鳴をあげたい状況ですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。

とりわけ、ネパールではネットへのアクセスが限られていることから、今後なんとかして作成した学習教材を印刷し配布していく事を考えているので、印刷・配布のためのコストをご支援頂ければ幸いです。


さて本題に入ります。先日、博士の資格審査(プレリムとかコンプなどと呼ばれています)を終えました。結果はまだ出ていませんが、まあ最悪の場合でもこっぴどく叱られたうえに退学になるだけなので、頑張って生きていこうと思います。

ミシガン州立大学の教育政策コースは非常に小さい所なので、審査内容は4人の審査委員の先生方によって、学生と一人一人にカスタマイズされたものが出題されます。そのため、私の審査の一部には、途上国の幼児教育政策について論ぜよ的な物が入っていました。どうまとめたものかなと思案しましたが、「幼児教育が広まれば平等な社会になるという幻想に世界が騙されていて、教育政策はこの問題に取り組む必要がある」という方向でまとめてみました。

そこで今回の記事では、この資格審査でまとめた内容の簡潔バージョンを、審査の中で言及した論文(もちろん、大半は因果推論がかかったものです。なぜなら、試験の中でcorrelational studyに留まっているものに言及する際は色々と注意が必要になって、下手に言及するとマイナスポイントになってしまうからです。もちろん因果推論の論文も、因果推論が成り立つために必要な仮定が成り立っているのか、サンプルの特徴は何か、といった点に注意をして言及しなければならないのですが)も紹介しつつ、和訳してみようと思います。


1. 幼児教育は貧困を削減し、社会を平等にする?

日本でも幼児教育の関係者が、ノーベル経済学者が幼児教育が重要だと明らかにしている、と詐欺的な広告を打ちまくっていますが(なぜ詐欺なのかは、「幼児教育無償化から考えるーアメリカの研究結果は日本にとって妥当なのか?」、をご参照ください)、幼児教育は効率も公平性も同時に達成できる素晴らしい投資だというのは、主に米国の貧困層の子供を対象にした3つの幼児教育プログラムの研究結果から確認されています。

3つのプログラムとは、一つはヘックマンの主張の元となっているPerry Preschool Program(PPP)で、他の二つは、Chicago Child Center (CCC)とAbecedarian(ABC)です(CCCを分析した論文はコチラで、ABCを分析した論文はコチラです)。同様のプログラムは途上国にも実は存在していて、ジャマイカ・プログラムと呼ばれるものです(これに関する研究はコチラコチラコチラ)。このプログラムも、幼児教育は効率と公平性を同時に達成できる素晴らしいものだという結論を導いていて、国際教育協力関係者の中でも幼児教育をやっている人達にはとてもよく知られたプログラムです。

これらの研究・実験結果を額面通りに受け取れば、先進国であろうと途上国であろうと、貧困層向けの幼児教育に集中的に教育投資を行えば、貧困削減も格差解消も実現することになります。

しかし、残念ながらそれは幻想に過ぎません。次にその理由を説明していきます。


2. なぜ幼児教育で平等な社会になるというのが幻想なのか?

しかし、前章で紹介した全てのプログラムには共通点があり、それを考えると、幼児教育の拡大で社会が平等になるというのは幻想であることが分かります。これらの全てのプログラムに共通するのは、

ここから先は

2,206字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?