ネパール教育最前線記(2)援助協調:スワップ(前編)

働いていて面白いと思うことの一つが、教育分野で働くドナーと政府とのやりとりと、政策決定の場を直に見られることです。

ネパールは援助協調の手段としてセクター・ワイド・アプローチ(Sector Wide Approach:通称スワップ)を用いており、年四回、援助協調を目的に政府、ドナーとその他関係者(国際・国内NGO、教員組合など)の会議を実施しています。この会議に基づいて策定される共通の政策に沿って、各ドナーが支援しています。ネパールではそれが学校教育セクター改革プログラム(2009-2015)であり、その成果や課題についても、これらの会議で話し合われますが、各ドナー側の要求・政府の対応が大変興味深いです。

というのも、各ドナーはそれぞれが関心を寄せる特定のテーマを推進しようとはするものの、ネパールにおける教育全体を見たうえで、より有効な政策の策定に貢献しようとする姿勢があまり見られないためです。あるドナーは、学校のアカウタビリティを語り学校の社会監査(Social Audit)を推せば、ある団体は教員マネージメントに重点を置いてどの議論でもそれを持ち出します。これらは一例ですが、それぞれのドナーが障がい、情報技術教育、複式学級などそれぞれのアジェンダで議論を展開します。それぞれの繋がりを明確にして一つの政策の下で政策を実施していくのが政府の役割ですが、ネパールの役人を見ていると、ドナーの議論に話を合わせるのが精いっぱいと感じます。会議での政府からの発表を見ても、情報のまとめをしている者がほとんどで、大枠で議論することのできる者が多くいません。

それもそのはず、ネパールにおいて多くの役人は一年の間で二・三度は転勤し、じっくり専門性を高め、全体を掴む機会を得ません。また、役割が代わると引き継ぎもなく、組織としての記憶がほとんど残りません。このような政府なので、会議における議論のまとめは、主に年によって代わる幹事ドナーが担当することになります。ただしドナーもそれぞれで、重点を置くテーマやスタッフの能力が違うため、年によって(幹事ドナーによって)議論の焦点も会議の流れも異なります。(ドナーも人事異動により担当スタッフは代わりますが、基本的に引き継ぎはしますし、組織としての記憶があるので各ドナーとしての重点は継続されます)

現在、ネパールの教育予算の約3割は援助に依るもので、しかもその援助の大半が無償援助ではなく有償援助による借金であるにもかかわらず、上述のようにネパール政府が全体をまとめる力を十分に持たないため、政策決定において自国政府がイニシアティブを握り切れていないのかなぁと思う今日この頃です。

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