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【スタッフブログ】あの時も、あの場所も、あの人も、すべてがいまの自分に繋がっている―。『ボクたちはみんな大人になれなかった』

ノスタルジックでいて普遍。25年間を彩るカルチャーと忘れられない恋。

2020年、TVのフリップを製作する会社に勤めている佐藤(森山未來)は、昔馴染みでゲイの七瀬と出逢って痛飲する。新宿東口のゴミ捨て場に倒れ込んで七瀬は「わたしはこのまま処理場に運ばれるの」。佐藤は「人間の8割はゴミ、残り2割はクズ」それに続けて「中にはいい人も居た」という。それから時代は少しずつ遡り、佐藤にとってのエポックな出来事を回想していく・・・

最初に出てくる現代の佐藤の所縁の人々は、さまざまな意味で“普通”になっていて、現時点での“最終形態”といえる。
時間の経過とともに人は現状に慣れ、さまざまな妥協を強いられるうちに、尖ったところがなくなり、“普通”になった。
佐藤の関わるTV番組終了の打ち上げには佐藤と関わりのあるさまざまな人々が来ている。
佐藤の会社の社長の三好、かつての同僚関口、プロデューサーの恩田、昔は大暴れしていた実業家の佐内・・・
佐内は人材派遣業をはじめたといい名刺を差し出す。佐藤は佐内に「地味になりましたよね」というが、佐内は「私は何度でも変身します」と答える。
佐藤の回想が過去に遡るごとに現在とは違ったそれぞれの人物たちの様子が描かれ、“普通”になる前の様子が次第に明らかになっていきます。

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時代が遡るごとに今とは違う、かつてはあったものが浮き彫りとなっていく描写は、一種のノスタルジーとともに、人が歳を経るごとに希薄となっていく何かが、時代を遡るごとに濃くなっていく様子を窺い知ることができるのです。
佐藤の回想が1999年の暮れに戻るとき、佐藤にとって人生で最も大切だった彼女・加藤かおり(伊藤沙莉)との最後の場面が現れる。
物語のはじめの方で佐藤は現代のかおりのFacebookを発見する。子供が出来て幸せそうに見える現代のかおりの姿はまさに“普通”だった。
あれほど“普通”を嫌い、自らの生き方に素直に生きていたはずのかおり。
物語はかおりとの日々を、時代を遡りつつ回想していく。
かおりの様子は伊藤沙莉のキャラクターそのままで、飾らないありのままの個性が全開。
「うる星やつら」の『ビューティフル・ドリーマー』をヘビロテしていたと言うかおりのイメージは『映像研には手を出すな!』の浅草みどり(伊藤沙莉がCVを担当していた)と被ります。
かおりと出逢った頃の佐藤のまだ初々しい様子は、自分たちの社会人になりたての頃の様子と被って、あのころにあった情熱や、生きがいの元とはなんだったのか、鮮烈な記憶として蘇ってくるのでした。

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佐藤の回想が物語の端緒に到達したとき、25年の歳月を一気に飛び越え、現代の佐藤に去来する思いの大きさを、観る者は実感することになります。
日々仕事に追われ、小説家になる夢を忘れ、何事も成し遂げることが出来ず、“普通”になってしまった現代の佐藤に去来するのは、失われた過去への思い、後悔の念、最も大切な人だと思ったかおりに対する気持ち・・・

人生の半ばに差し掛かり、誰もがそうした思いを感じるときはあると思いますが、この映画は、単なるノスタルジーや後悔の念だけでは終わらない、これからも続く人生にどう向き合ったらよいか、今まで忘れていた何かを思い出す切っ掛けとなったのかもしれない、そう思うことのできる余韻に浸ることが出来るのでした。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』上映期間・時間

11/5(金)~11/11(木)
①13:40~15:45 ②19:30~21:35
11/12(金)~11/18(木)
①12:15~14:20 ②16:55~19:00

(C)2021 C&Iエンタテインメント

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