見出し画像

”世界で一番美しい少年”が見た天国と地獄、その衝撃の真実『世界で一番美しい少年』

『ベニスに死す』のオーディションでルキノ・ヴィスコンティに見いだされ、一躍世界中から注目されることとなったビョルン・アンドレセン。彼の人生はそれを契機に大きく変わり、驚くべき苦悩のうちに生きてきた。現在の彼の様子と過去から今に至る人生を回顧するドキュメンタリー。

映画は序盤でヴィスコンティがスウェーデンで『ベニスに死す』のためのオーディションを行っている場面を映し出す。
ヴィスコンティがさまざまな指示を出しながら審査していくのですが、「シャツを脱いで上半身裸になって」と言われ、ビョルンが戸惑う様子が生々しい。
映画では海のシーンもあるので上半身裸の容姿を確認しておく必要はあるとはいえ、バイセクシャルであることを公言している監督の指示を見ていると、単なるオーディションと割り切って見るのは難しい。
また、“撮影スタッフの大半がゲイ”であったことから監督からスタッフには「撮影中はビョルンを見るな」との指示があったとのこと。

15歳のビョルンにとって、1970年という時代的にも、実質的にゲイをテーマとした作品に出演すること、そのことで自らのイメージがどう影響されるのか、といったことがどの程度理解されていたか、また周囲がその説明を充分に行ったのか?といった今日的には非常に重要な問題が想起されるのでした。
なんといってもあの容姿であり、映画の成功のカギを握っていたのはまさにビョルンの外見によるところが大きかったことを考えれば、映画の公開後に起きたビョルンを巡る狂騒は当然起こりうるべくして起きた、といえるものでしょう。

今ほどそうした問題に配慮がなされた時代ではなかったとはいえ、ビョルンが“世界で一番美しい少年”として生きなければならなくなったその後の時代の重圧を考えると、これは一個人の対処の能力を遙かに超えた大きすぎる問題だったといえるでしょう。

撮影後に監督の庇護から外れたことでスタッフやゲイ関係者から色目使いされるハラスメント、“ゲイ映画”に出たことで晒される世間からの好奇の目、今でいうところの“腐女子”からのアイドル視といった、一種の“有名税”に苦しんだとのこと。
特に日本において、チョコレートのCM出演とテーマソングの録音・レコードの発売、といった過剰なアイドル化は時代の経た今となってはことさら痛々しいと感じるところ。

こうしたアイドル化は程度の差こそあれ、芸能人には共通して降りかかる問題に違いないのですが、本質的には容姿や顔といった個人の外見に商品価値を見出して売り出していく、という行為そのものの是非が問われている、といえるでしょう。
これはヴィスコンティをはじめとする関係者のみならず、それを煽るマスコミや、そこに熱狂する一般人といった、関係するすべての人々に相応の責任のある問題と言わざるを得ないのです。

ビョルンの場合は、更に家族を巡るさまざまな不幸や体験があったことで、彼の人生に影を落としたことは間違いありません。

人それぞれに歴史があるので、ビョルンのみが不幸を一身に背負ってきたわけではありませんが、今日でも続く彼の平坦とはいえない人生を見るに、いかな秀でた容姿を備えた人間であっても、その人生が幸福である必然性を保証するものではない、ということを実感するのでした。

上映情報

1/21(金)~1/27(木)連日①10:00
1/28(金)~2/3(木)時間未定
公式HP 映画『世界で一番美しい少年』公式サイト (gaga.ne.jp)

https://youtu.be/E1slaCx2pUg

(C)Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021