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スタッフブログ

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スタッフによるオススメ映画ブログを更新!
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#シネギャラリー

『風よ あらしよ 劇場版』大杉栄・伊藤野枝の墓を訪れる

映画『風よ あらしよ 劇場版』が静岡シネ・ギャラリーにて公開中です。(2024/3/7までの予定) 2月24日に演出の柳川強さん、大杉栄の甥にあたる大杉豊さんをお招きし、『風よ あらしよ 劇場版』の舞台挨拶が行われましたが、その日の朝に静岡市内の沓谷霊園にある大杉栄のお墓を訪ねてきました。 映画の主役である伊藤野枝は福岡の出身、大杉栄は丸亀の出身であり、どうして静岡市にお墓があるのかというと、一旦福岡で埋葬されたものの、伊藤野枝が地元で忌避されていたことによる棄損が相次ぎ

『イニシェリン島の精霊』アフタートークのまとめ

現在アカデミー賞にも様々な部門でノミネートされている『イニシェリン島の精霊』ですが、シネ・ギャラリーの上映もそろそろ終盤に差し掛かってきました。 皆さまもうご覧になりましたでしょうか? 個人的に見終わったあと、「……?」となっていましたが、ご覧になった方と話すと様々な見解で議論が巻き起こる、おもしろい映画だなあと思いました。(考察好きな方にはとても楽しめるのでは。) 映画の解釈は本当に人それぞれですが、ただのおじさん2人の喧嘩だと思いきや、その中にいろいろなメタファーが込め

百の診療所より、一本の用水路を『荒野に希望の灯をともす』スタッフブログ

パキスタンとアフガニスタンで35年に渡り医療支援と用水路の建設に尽力した中村哲医師の活動を回顧するドキュメンタリー。 2019年12月4日に何者かに銃撃され死去した中村医師の活動は、これまでさまざまなメディアで報じられていますが、こうして改めてその活動全体を通して観てみると、その一貫した意思の強さと、支援の在り方についてのブレない姿勢に胸を打たれるのでした。 1978年にパキスタンのティリチミール登山の日本隊に帯同医師として参加の折、同地でまったく医療を受けられない患者が

『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』の監督が贈る『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』スタッフブログ更新!

誰もが知るピノッキオの物語をギレルモ・デル・トロ監督が大胆に翻案、ストップモーションアニメとして製作。 2008年の企画発表から途中の中断を経てようやく完成をみたもの。 ピノッキオの映画化では昨年本館でも公開の本国イタリア製作、ロベルト・ベニーニがゼペットを演じる『ほんとうのピノッキオ』、劇場公開はないもののディズニープラスでの配信によるロバート・ゼメキスの『ピノキオ』と、このところ連続して新作が登場しているわけですが、原作にほぼ忠実な『ほんとうのピノッキオ』に対し、今作は

その絆が愛を変える。『パラレル・マザーズ』スタッフブログ

映画『パラレル・マザーズ』スタッフブログ※以下には物語全体の構成についての考察を含みます。 映画のタイトル的にもこれは二人のシングルマザーの出逢いについての話という印象ですが、実際は少し違う。 冒頭でジャニスとアルトゥロが話す集団墓地発掘についての会話は二人の出会いの単なるフックかと思きや、物語の大きな要素のひとつ。 ジャニスは集団墓地に曾祖父らが埋められた経緯や、一緒に埋められた人たちの名前や写真を詳細にアルトゥロに説明する。ここでフックにしては描写が丁寧だと感じるのです

ティルダ・スウィントンがひとり芝居で魅せる30分!『ヒューマン・ボイス』

入り口にスーツケースが置かれた部屋で女が一人、恋人の帰りを待つ。いつまでたっても戻らない恋人を待つうち、女は絶望に打ちひしがれ、理性が崩壊していく・・・ ジャン・コクトーの戯曲『人間の声』をもとにペドロ・アルモドバルが翻案。 プーランクのモノオペラ『人間の声』の初演はコクトーが演出と舞台美術を担当したとのこと。 30分と非常にコンパクトな小品ですが、細部まで練り上げられた美術とファッション、彩度の高い映像の美しさはアルモドバル的世界が最高濃度に濃縮された珠玉の逸品。 恋人

それは、8歳のママだったー『秘密の森の、その向こう』スタッフブログ

『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ監督の最新作。 森の中で出会ったマリオンはネリーと同じ8歳で、マリオンの家に連れていってもらうと、そこはネリーの祖母の家と同じだった。 ネリーはマリオンが幼い頃の母だと確信する。 本編72分と比較的コンパクトな作品ですが、ふわっとしたファンタジーとお互いにちょっとした不安を抱える少女二人の心の交流を描くことで、なんともほっこりした気分に浸ることができます。 ネリーは母が消えた不安を抱え、マリオンには近々行われる手術に不安を感じている。 森

世界を変えるため大統領を目指した男には、存在も名前も知られていない「影」として生きた選挙参謀がいた――『キングメーカー 大統領を作った男』スタッフブログ

世界を変えるため大統領を目指した男には、存在も名前も知られていない「影」として生きた選挙参謀がいた――劇中の登場人物は例によって別の名前に置き換えられていますが基本的に主要な登場人物は全て実在の人物がモデルになっているようです。 キム・ウンボムは金大中、ソ・チャンデはその選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)。 大統領は下の名前こそ違うもののパク・キスであり、軍服を着た陣営の若手は全斗煥がモデル、また盧泰愚そっくりの人物も居れば、野党政治家には金泳三そっくりの人物がいる。

ウォン・カーウァイ4K『恋する惑星』ピュアで無垢な青春の一篇 スタッフブログ

その時、ふたりの距離は0.1ミリ 57時間後、彼は彼女に恋をした。その時、ふたりの距離は0.1ミリ6時間後、彼女は彼に恋をした――。ウォン・カーウァイ監督作品の『恋する惑星』。日本での公開年は1995年。 当時まだ日本の知名度は高いと言えなかったウォン・カーウァイ監督の名前を一気に知らしめた、伝説的な作品です。 刑事223号を金城武が演じ、彼が出会うバーの片隅で出会った金髪の女性を、ブリジット・リンが演じています。また、刑事633号をトニー・レオンが演じて、小食店で働く女性

21世紀になっても、人は戦争をしたいのです『ウクライナから平和を叫ぶ』スタッフブログ

『ウクライナから平和を叫ぶ』スタッフブログスロバキアの写真家ユライ・ムラヴェツ Jr.はユーロマイダン後の2015年4月、キーフから分離派(=親ロシア派)の支配地域のドネツクに向かう。行先でウクライナ人、ドネツクでの親ロシア派住民の双方に取材し、現地で暮らすさまざまな人々の生の声を記録したドキュメンタリー。 映画は2016年の製作で、既に6年が経過していますが、現在に続くウクライナ東部でのウクライナ―ロシア間の戦争が現地の人々にどのような変化をもたらしたのかを浮き彫りにして

2022/9/16より『ウォン・カーウァイ4K』上映開始!めまいがするほど艶やかでビビッドな世界へようこそ

2022/9/16(金)から、いよいよ『ウォン・カーウァイ4K』が上映開始です。 香港の名監督として名をはせる、ウォン・カーウァイ監督の作品、 『恋する惑星』『花様年華』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『2046』の5作品を静岡シネ・ギャラリーにて日替わりで上映いたします。 ウォン・カーウァイ監督の名前は聞いたことがあるけれど、作品を実際に観たことがないという方はまだまだ多くいらっしゃるのではないでしょうか。 かくいう私もいい年ですが、実は今回上映する作品を観たことがなく、

運命を狂わす、スリリングな一皿『ボイリング・ポイント/沸騰』スタッフブログ

運命を狂わす、スリリングな一皿アンディの出勤の様子から最後まですべてワンカット、NO編集、CG不使用の文字通りのワンショット作品。 ワンショット映画というと場面転換でのカットや会話での切り返しができないといった制約があることで、物語が文字通り一続きになり、物語の起伏や自然な時間の経過が凝縮されることで独特のテンションを維持できる代わりに、観ている側は一息つくところが殆どなくなり、作品のペースについていくのが大変だったりするのですが、この作品もそうした意味で典型的なワンショット

海に残るか、陸にあがるか。彼は迷い立ち止まる。『ルッツ 海に生きる』スタッフブログ

映画『ルッツ 海に生きる』スタッフブログマルタというとシチリアの南方の小国ということ以外、殆ど知識を持っていませんでしたが、かつては英連邦の構成国で、宗教は98%がカトリックながら、言語はラテン文字を使用するアラビア語の一種、という特異なものとのこと。 本作は日本に紹介されるはじめてのマルタ映画とのことですが、伝統的な漁法を行う漁師もの、という一種ご当地映画的な外形でありながら、時代の変化に押し流される伝統的な生活様式や価値観の持ち主に訪れる試練、というかなりシビアな現実を淡

ついに母が教えてくれた おいしいスープのレシピと「済州4・3事件」の実体験『スープとイデオロギー』スタッフブログ

『スープとイデオロギー』スタッフブログ映画監督のヤン・ヨンヒ(梁 英姫)が在日朝鮮人として生きてきた自らの母、今は亡き父との関係を見つめたドキュメンタリー。 ヤン・ヨンヒ監督はこれまで自らの家族を描いたドキュメンタリー『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』実兄を描いたほぼ実話のドラマ『かぞくのくに』を監督。 『ディア・ピョンヤン』の後、北朝鮮から謝罪文を書くように言われたがそれを拒否し、『愛しきソナ』を製作、それによって北朝鮮への入国禁止処分となった、とのこと。 ヤン・ヨン