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男らしくないじゃん

夜10時、塾から帰ってきた息子が遅い晩御飯を食べながら、突然言った。

「あのさ、奢ってあげるって言った相手から、断られたらどう思う?」

「塾の近くのコンビニで、先生と会ったんだ。『パン一個奢ってあげようか』って言われて、断ったんだけど、母さんだったらどう思う?」

ちなみに彼が「先生」というのは、大学生のメンターのことらしい。

「…まぁ、次回からは奢ってあげるとは言わないかな」

息子は目に見えて、がっくりと項垂れた。
「そうだよな〜、くそ〜、やっぱり奢って貰えばよかった」

「なんでご馳走にならなかったの?」

「だって、男らしくないかなって思って」

味噌汁を片手に、何度もため息をつく息子を見て、はたと気づいた。
「先生」は、女性だったのだ。

「あんた馬鹿ねぇ、そういうときにはご馳走になって、
翌日に冷たいお茶でも持っていって、『昨日のお礼です』って言うのよ」

息子は、うっすら顔を赤らめた。
なんだかなぁ、母親としては可愛くて笑ってしまうのだが、ここで笑うとオトコという繊細な生き物はあっという間に傷つくので、ビールを飲むふりをして笑いを押さえた。

「か、母さん、神だな。」

「貸しもいいけど、借りとくの。借りたら返すでしょ、そうしたら2回話せる」

うおお、と苦しむ息子を眺めながら、やっぱりちょっと、笑ってしまった。

受験生のささやかな幸せ。
医学生の「先生」につられて、勉強してくれるといいんだけどねぇ。

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