彼女お借りします 7500文字レビュー
全体的にめちゃくちゃ面白いです、このアニメ。普通に神アニメだと思う。女の子が可愛いだけじゃなくて、物語としても続きが気になってしまう構成になっていて、普通にラブコメとして面白のはもちろん、キャラ同士の関係性を追う楽しさもあって良い。各キャラが素直に動いてくれるから、見ていてスッと入ってくるところが心地いい。
このアニメは、飲み会でクソつまらん一気飲みゲームをやってふらふらになったところを元カノに介抱されるっていう、なんとも大学生っぽいシチュエーションから物語は進んでいく。「レンタル彼女」を借りるのが一話で、飲み会が2話なんだけど、僕的には「あ、こういう世界観ね」って気づいたのはこの飲み会からだから、ここまでが一話って感じがした。レンタル彼女だけにフォーカスをあてるのではなく、こういった大学生活にもフォーカスを当てていくアニメなんだな、ということがここで描写されている。ここまでで、「大学をテーマにしたレンタル彼女とその他の人との関係性」のアニメであることは予想できる。
この金髪のまみちゃんって子がなかなか癖のあるキャラで、「カノジョも彼女」みたいに可愛い女の子だけを登場させようと思ったらこんな性格の悪いキャラはいらないし、人間関係の闇の部分も描きたいっていう作者の意図が見える。この子、人気投票ランキング7位(女ヒロイン5人なのに!?)で、全然好かれてなく、ただの悪キャラとして印象づけられている。サディズムの傾向があったり、多分回避型の愛着スタイルだったりと、普通に考えて内面で好かれる要素がほぼない。(小悪魔っぽいとはギリ言えるのか?)いじめられたいとか、自分のこと好きじゃない子が好きとか、幸せそうじゃない女の子を癒して幸せにしたいとか、そういう特殊な人しかこの子とうまく関係を築けないと思う。あとはルックス目当てで短期的に終わることが多いと思う。(※悠木碧さんの演技はとても魅力的でエクセレント!!)
ただのイチャイチャアニメではなくストーリーも面白いアニメにすると決まったなら、まだ好き同士でない2人の物語を第三者が柔軟に動かしてあげる必要がある。人間の行動って結局情で決まるっていうのはあると思うし、部活一緒だからとかそういう仕方なくの関係ではなく、情でつながっている関係で動く方が望ましい。で、上の画像にも見える通り、本気で水原のことを気に行ったり、風呂でセクハラできたり、関係性を繋ぎとめたりできる第三者といえばおばあちゃんが有力候補になりえるんだろうな。キャラ同士の深い関係性を繋ぎとめようと思ったら、家族はやっぱり強い。ただ、おばあちゃんのカットは視覚的にあまり楽しくない絵ではあるので、長すぎるとしんどくなるなぁとは思う。僕は個人的に家族にトラウマありだから、普通にその場から早く帰りたいと思ってしまうし、ちゃんとしなきゃみたいな気持ちにさせられて真面目で堅苦しくなってしまう。まぁ、照れくささとか気まずさを彼女と共有している喜びみたいなものはあるし、家族に紹介したから深い関係だねみたいな側面もあるから、正しい演出ではあると思う。
「大学生の友達」っぽい友達が多く出てくる。LINEで「ちんこ」って送りあったり、お互い自分の彼女を自慢して見せびらかしたり、下ネタで盛り上がったりと、大学生ってこんな感じだよなっていうのが鮮明に描かれていて、そこと水原の清楚さとのギャップみたいなところも良いなと思った。彼女に2人乗りのフェリーのチケットを渡す木部(人気投票5位!)って友達が、ヒロインとの関係に男らしい熱い角度で付加価値を与えてくる感じが良いキャラだなと思う。水原はほぼ受け身だから、こんな感じで他のキャラがおぜん立てして話を動かす必要があるんだけど、可愛い女の子が映らない時も関係性という面白さを演出できるのは作者の実力だなと思う。男はやっぱりセックスしたら「セックスしたぜ」って周りに言いふらしたい生き物だし、それを受け入れてくたりちゃかしたりしてくれる友達がいるっていうのはやっぱり良いことだなと思うし、そういう自分意外の解釈とかが入ることで、世界の意味を広げてくれるっていう、そういう存在ってやっぱ世界を構築するうえで必要だよなと思う。友達は主人公の世界の解釈を広げてくれる。
いろんな服装、いろんな表情、いろんな動きを見せてそれでもなお「水原千鶴」でいれる一貫性みたいなものがあるっていうのが、なんか不思議でもあり魅力でもあり…このアニメのメインヒロイン感を演出していてとてもキャラに深みが出ている。アニメキャラは、他のキャラと差分をつけるために部分しか映さないみたいなことも多く、悪く言えば本当に狭い性格のパターンをそのキャラのアイデンティティだと錯覚させるよう作られてるんだけど、ここまで描いてそれが全体として綺麗にまとまっているっていうのが…とても鮮やかだなと思う。
ルカちゃんについて。この子は主人公のことが大好きなキャラなんだけど、その理由が面白い。主人公を好きになるポイントは、だいたい優しいとか誠実とか助けてくれたとかが多いけど、この主人公は(ルカちゃんに対しては)優しくも誠実でもないし助けないから、抱き合った時の心拍数が高かったっていうそんなアホなみたいな理由で主人公のことを好きになる。こういう、アニメのストーリーとしてはスッと「そういうことね」って入ってくるけど、現実で起きたら「???」みたいになる、人間の行動原理の不透明さのアニメと現実の認識のズレというか差異みたいなものってあるよね。普段から現実的にものを考えていたら、こんな感じの設定を思いつかないと思うし、ほんとクリエイターの人って発想がすごい。「リアル」と「エンターテイメント的リアル」を分けて考えれるんだと思う。
人生っていうのは、根本的にはつまらないものだ。だから人類はアニメなどの創作物をつくって、「こんな人生歩んでみたい!」と希望を持ちたがる。そんな僕らの希望の星であるアニメで、普通に、現実的に話が進んでも、何も面白くないのだ。つまり、常識を破壊したり、バグった衝動性を持つキャラが必要になる。一枚目は、主人公を目隠しして無理やりラブホに連れ込む図。二枚目は、大雨になって泊まることになった後に、やってないのにやったと言って関係性をかき乱す図。三枚目は、両親の前で関係性を崩壊させるようなことを言おうとして主人公が慌てる図。こういった「空気を読めない衝動的なキャラ」がいることで、今までの物語に亀裂が走って新しい展開ができたりする。この一見嫌われそうなキャラをどういう設定でどう可愛く見せるかっていうのは一個ポイントだよね。この立ち位置のキャラは、いろんなところに動き回れるから、その場所にしかいないっていうキャラ(病院にしかいないおばあちゃんとか)と関係を持てるという利点がある。場面転換とか場所との関係ってアニメにおいて結構重要だと思ってて、そういった小さな旅行みたいな要素があるからこそ、目新しさがあって面白いという要素もある。その旅行を全てのキャラとは共有できないという限界はあるので、どのキャラでそれを見せるのかってところは一個ポイント。
ルカちゃんが両親に良いところを見せようと頑張ってたけど、後から来た水原に「ご飯の前に仏壇に挨拶させてください」って言って両親に「やっぱり千鶴さんは理想の彼女だわ」みたいに言われて差を見せつけられ、頭悪い感じになってるシーンがとても良かった。こういった、注意深く観察しているとわかるキャラの弱みみたいなものを見つけてそれを味わえた時は、「本当の姿のアニメを見れた!」という気持ちになる。ルカちゃんは「積極的で主体的なキャラ」だと思ってたし、受け身で楽しむコンテンツだと思っていたけど、もし主人公が変わって、女の子に若干モラハラっぽいことを言ったり、少女漫画っぽい積極性を見せたら、すぐルカちゃんは受け身に転換して言いなりになりそうな感じがする。ちょっと強い口調で他人をコントロールしたいという支配欲を発揮することは、相手が全く抵抗できそうにないか弱い墨ちゃんみたいな子だと罪悪感を感じるけど、ルカちゃんみたいに単純で頭が悪くてちょっと言い返してくるときもありそうな、でも平均的なIQレベルの知能から出された低レベルのかわしのロジックにさえ新たなロジックで抵抗できず(でもちゃんと話は通じるレベルが良いのでIQ90台がベスト)、結局和也くんに嫌われたくないという理由で感情的にも言い返せなくなっちゃいそうな、このリアクションのパターンは、男らしさを誇示して高揚感を得るための優秀な役割を果たしていると思う。なんか僕が心に問題抱えてるからちょっとDVっぽい方向に行っちゃったけど、ご飯を食べているだけで「可愛い」って言われたり、無条件でずっと好き好きって言ってくれたりする、そういった健気で無垢なところは良いところだなと思う(さっきの言い換え)
この作品の主人公の性格、見ていてイライラするとかレビューで言われているけど、僕はわりと好きだ。モテない男って感じはするけど、でも誰でもこういう女々しい部分とか醜い部分ってあるよね、と思うし、その普段象徴化されない感情を表現して昇華してくれる彼の生きざまは、アート作品のようでもあると思う。作中では自分のことをクズって言ってるけど、別にそこまでクズだとは思わないな。ガチモンのクズだったら、ルカちゃんをもっと都合よく性欲のはけ口として使ってるだろうし、水原と一緒に成長したいとか、映画作りたいとか、本気で応援したいとか思わないと思うんだよな。友達もいるし、一線は超えない安心して見れるクズっぽさって感じ。
このキャラは一体なんなんだ?各キャラと関係性も持てないし、話の主軸に入れないし、動かしづらいし、なんで主人公のことを好きになっていくかもわからんし、謎だ。このキャラと恋愛するなら、お互い友達の紹介とか一切しなさそうな、2人だけの共依存的関係になりそうな感じがあるし、だからこそ他キャラとの関係を切っているのかもしれない。でもだとしたらレンタル彼女とかやってほしくないし、道でぶつかってそこから成り行きで関係が始まるみたいな出会い方の方がよかった。この子はヒロインの中で一番処女であってほしいし、俺だけを見てほしい。「レンタル彼女」というコンセプトは、表面的な繋がりを象徴しているけれど、彼女の性格をその枠に収めるのは、彼女の魅力を最大限発揮できていないと感じる。彼女は別にレンタル枠じゃなくて良かったんじゃないか。もっと他の文脈で活躍している彼女を見たいと思う。
水原は女優の仕事をしている。まっすぐに夢に向かって頑張っている水原、という設定が良いのであって、仕事をしている様子を永遠と長時間見せられたら、それは「庇護欲」「応援したい欲」に変わってしまう気がするし、彼女はVtuberではなくて俺の女だよね、というのはあるので、このシーンはそこまで見たくはないかなと思う。こっちが水原を応援するよりも、水原の尻に敷かれたいという欲の方がみんなあると思うし、僕もそっちを求めている。主人公が情けないことをした時に、ちゃんと叱ってくれたり、たまに思いやりを見せてくれたりするところが、水原の主な魅力の1つだと思う。レンタル彼女という表面的な繋がりでも、ちゃんと言うことは言うよっていう彼女の我の強さが好きだし、その関係性の中の世界に居たい。こうして書いてみると、「演技」と「素」のギャップを演出するのに最適な性格にうまくデザインされているんだということに気づいて、うまくできてるなぁ、と感心させられた。
12話に一回くらい、こんな感じのシリアス展開になって大きく感情が動いたり、涙を流したりする。このくらいのバランスがちょうど良い。シリアス展開は若干視聴者にストレスを与えるし、気軽には見れない感じを与える。だからこそ、そのキャラに深く感情移入したり物語に没入できるという側面があるし、そのキャラが、今まで表されなかった内面のもやもやしている感情を晴らすきっかけにもなる。(上の画像の場合は、おばあちゃんへの気持ちとか、和也に対しての信頼)シリアスのないラブコメはただの情事で終わるが、シリアスがあると真面目に関係に取り組もうとする意志が生まれ、より彼女を一人の人間として大切にしたいという深い繋がりが生まれる。最初は「レンタル彼女」という浅い繋がりだったのが、徐々に深い関係になっていくというドラマを生むために、シリアス的展開はこのアニメには絶対必要なものだったのだと感じる。
さいごに、批評雑観
最初は適当に雑観書いて終わろうと思ってたけど、なんかわりと文字量を多く書けて自分でもびっくりしている。これを機に、自分がどうアニメを見るのか、どう批評するかについて考えたくなったのでちょっと考えていく。
人間には、「世界を理解しやすい形で処理する」という習性がある。わかりやすい例でいうと、論理で理解するか、感情で理解するかの二択がある。そのどちらかで処理した世界を「理解した」とか「知った」とかいうけど、それは物事の全体像ではなく部分的な理解であることを知っておく必要がある。「アニメを楽しむ時は、気分を明るくして、自分の世界理解から離れて見てね」じゃないけど、楽しむ姿勢と、自分の視点だけじゃないその作品の世界観やキャラの視点から考える姿勢が、心豊かになれるアニメ鑑賞に繋がると思う。もちろん自分の視点が一番大事なんだけど、じゃあ自分はどんなフィルターでその場面を見たいのか?ということを考えるのも大事だと思う。「尊重、共感、感動、安心、推測、説明、価値判断、概念化、統合、比較、批評、論証etc…」自分は今どのモデルでその出来事を理解していて、それはどんな意味を持つのか?について考え、実行することで、自分の豊かな感受性を使って多数の視点から物事を捉えられ、豊かな感情体験に繋がると思う。
そして、ラブコメアニメは、自分で妄想してさらに押し広げることで楽しめるようにつくられている。ある程度主人公の性格が定式化しているし、当たり前だけど複数の性格から一人の女の子と関われないという物理的な限界があるからだ。最もメジャーな例でいうと、二次創作は、「自分ならこのキャラとこう関わるな」という欲望を発散する目的で書かれているふしがある。その人の中では、その妄想までが「アニメを楽しむ」ということだし、つまりそれは、アニメを見終わった後、即時的にそのアニメの良さを全て理解できないということを意味する。まるでアニメは、終わった後も、薪火を組んで火を絶やさなければずっと続いていく美しい自然の炎のようだ。
本当に、一つの作品を見るという行為は奥が深い。そして、その奥の深さを探求するお供として、AIが出てきてくれたのがめちゃめちゃありがたい。執筆がはかどるし、自分に足りない新しい発想を与えてくれる。ずっと3.5を使ってたけど、4oは精度がやっぱり段違いに良い。その中で、これは、と思った返答を最後にのせてこの記事を終わろうと思う。ここまで読んでくれてありがとうございました。
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