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近年の吃音改善アプローチ(多面的・包括的アプローチ)

はじめに

吃音の問題は単に流暢に話すことができないことだけでなく、発話時の不安や緊張、吃音が出ることやうまく話せないことに対する不全感や劣等感、コミュニケーション場面や対人関係からの回避、自尊感情の低下、周囲の人々から見た蔑視など、吃音がある人々の生活全般に幅広い影響をもたらすことが指摘されています。
多面的・包括的アプローチはこのような単に言語症状にとどまらない多様な問題への対応が求められる、吃音指導支援の新しい方向性を示すものとして注目されています。


吃音はいくつかのタイプに分かれる

吃音は、
①言語発達や構音発達の問題の有無
②情緒・情動面の問題の有無
③吃音の進展過程の違い
等、さまざまな要因から影響を受けることが示唆されています。

このため吃音の支援は、各タイプに合わせたアプローチが必要になります。
そこで、これらに対応できるアプローチとして、多面的・包括的アプローチが注目されるようになりました。

多面的・包括的アプローチとは

多面的・包括的アプローチでは、本人の言語面やコミュニケーションスキルの向上にアプローチするだけでなく、その周囲の人々や社会全体に対する教育と啓発も行うことを目的としています。
これにより、吃音当事者が自信を持ってコミュニケーションをとり、社会的な成功を収めるための環境を整えることが目指されています。

吃音の指導・支援は、多面的で包括的なアプローチが最も効果的であると考えられており、吃音に対する認識がより広がり、多くの人々が支援を受けられる環境が整うことを期待されています。

多面的・包括的アプローチの種類

多面的・包括的アプローチは
・Component Model
・CALMS Model
・CSP-SC
・CT-SCWS
など、さまざまなアプローチがあります。
特に上記の4つのアプローチ(CM、CALMS、CSP-SC、CT-SCWS)に焦点を当てて、各アプローチの概要をまとめていきます。

各アプローチについて、「評価:どのような項目を考慮・評価していくか」と「指導・支援:どのような指導や支援を行うか」の2つに分けてまとめます。

  1. CM (Component Model)

    • 評価:

      • 身体機能(発声発語運動制御の困難)

      • 気質的要因(自己に対する高い期待、過敏性)

      • 聞き手の反応(コミュニケーション環境、吃音を回避するための工夫、からかいやいじめ)

    • 指導・支援:

      • 問題に対する対処(投薬を含む)、流暢性形成法による発話指導、認知の再構成、過敏性に対する脱感作など

  2. CALMS (Cognitive, Affective, Linguistic, Motor, Social)

    • 評価:

      • 認知(吃音に対する考え、認知、意識、理解)

      • 感情・情緒(心情、情動、態度)

      • 言語(言語能力、言語構成能力)

      • 運動(発声発語の感覚運動制御)

      • 社会(聞き手や発話場面がもたらす効果)

    • 指導・支援:

      • 流暢性形成法と吃音緩和法を組み合わせた言語指導、否定的な感情への対処、認知の再構成、実際の生活場面での適応など

  3. CSP-SC (Comprehensive Stuttering Program for School-age Children)

    • 評価:

      • 発声発語(発話の流暢性、吃音症状、全般的なコミュニケーション能力)

      • 態度と情緒(コミュニケーションに対する態度、恐れや不安への対応、ソーシャルスキル、からかい等への対処など)

      • 自己制御(問題解決能力、自己評価、課題遂行能力など)

      • 環境(両親の吃音に対する知識、会話時の態度など)

    • 指導・支援:

      • 流暢性形成法(発話速度の調節、発語器官の軽い接触、発話時の緊張の調節など)、脱感作、認知の再構成、セルフヘルプグループへの参加、からかいやいじめへの対処、教師や両親への情報提供、日常生活場面における対処など

  4. CT-SCWS (Comprehensive Treatment for School-Age Children Who Stutter)

    • 評価:

      • 身体構造と機能(吃音症状)

      • 活動と参加(毎日の生活における活動の制限や参加の制約)

      • 個人因子(吃音に対する情緒、行動、認知)

      • 環境因子(吃音がある子どもに対する支援体制、吃音に対する周囲の反応、様々な発話状況)

    • 指導・支援:

      • 流暢性形成法(発話時の緊張の調節、引き伸ばし発話、発語器官の軽い接触など)、吃音の受容、不安への対処、効果的なコミュニケーション方法、からかいやいじめへの対処、保護者に対する家庭での対応など

まとめ:個人に合わせた対応が大事

上述の通り、吃音は単なる言語症状だけでなく、多くの要因に影響されることを理解し、個人に合わせた対応が重要になります。
全体を見てみると、大きく下記3項目に分かれると思います。

①発話へのアプローチ
②感情・認知へのアプローチ
③環境調整

困っていることや課題をしっかり分析して、症状にあった方法を多方面から行うことで、効果的にコミュニケーションを発展させ、豊かな生活を送ることができるようになると考えられます。

参考
1)小林 宏明 学齢期吃音に対する多面的・包括的アプローチ
―わが国への適応を視野に入れて― 2011 年 49 巻 3 号 p. 305-315


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