見出し画像

反戦思想の潮流

 フロイトから袂を分かち個人心理学を創設したアドラーは、第一次世界大戦に従軍し、戦争の悲惨さを体験して、戦争を起こさないため個人の改革としてフロイトと袂を分かち「個人心理学」を創設しました。そのアドラーの論文「神経症性格について」のエピグラフには下のストア哲学者セネカの言葉が引かれています。

 Omnia ex opinione suspensa sunt: non ambitio tantum ad illam respicit et luxuria et avaritia. Ad opinionem dolemus. Tam miser est quisque, quam credidit! 
Seneca. Epist. 78, 13.
すべては想像力にかかっているのだ。名誉欲、浪費、所有欲がそれを目指すばかりでない、苦痛をも我々は想像力によって感じるのだ。自分はこうだと思いこむ分だけ人はみじめになる。

「道徳書簡集」セネカ(中野孝次訳)

また、経営学の大家ドラッカーは、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そしてナチスによるホロコーストを見て、それは組織が社会問題を解決し世界を改善していくという大義を忘れること、つまり経営の破綻によって引き起こされることを見抜いた。その反省に立って、創造的な組織というものの研究に生涯を捧げ、著作の中で次のように言っています。

That one can truly manage other people is by no means adequately proven. But one can always manage one’s self.
他の人間をマネジメントできるなどということは証明されていない。しかし、自らをマネジメントすることは常に可能である。

「経営者の条件」まえがき ピーター・ドラッカー(1966) 

 戦争の悲劇を反省し、個人と組織に着目した二人が共通して到達したのは、「他人は変えられない、変えられるのは自分の内面だけ」というストア哲学の基本原理の再発見だったわけです。そしてその原理の反対、すなわち自分の内面(城塞)を他人に売り渡してしまう烏合が悪のレバレッジとなってしまうことに意識的でありたい。悪は悪の凡庸さ(banality of evil)によって核分裂を起こしてしまうのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?