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だしのきいたお味噌汁

 ああ。思わず声が出る。お椀と箸を手に取り、まずは具を一口。それから汁を口に含む。もう既に、鼻に届いていた鰹の香りがさらに濃くなる。ごくりと飲み込んだら、昆布の香りがやわらかく追いかけてきた。花かつおと、真昆布と、赤味噌と。「味噌汁だけに!」とセルフでツッコミたくなるけれど、やっぱり言わずにはいられない。手前味噌ながら、うちの味噌汁、最高だ。

 高校を卒業して、大学では寮に入っていたので、自炊歴は長い。けれども、おかずはそれなりにちゃんと作っていたものの、お味噌汁を作ることはほとんどなかった。せいぜい、アルバイトの休憩中に軽く食事をする用に、インスタントの味噌汁を入れるくらいだった。実家では毎日作っていたけれど、市販のだしパックとだし入りの味噌で調味していた。正直なところ、それほど美味しいとも感じていなかったし、お味噌汁は苦手だった。

 それが変わったのは、結婚がきっかけだ。ダンナ氏は、美味しく作るために手間を厭わない。お味噌汁も、しっかりだしをとってから作る。しかも、インスタントの顆粒だしや、だしパックではない。昆布と、鰹節とで、しっかり煮出すのだ。ときに、いりこを加えたり、混合削り節(2種類以上の魚類の節を削って混合したもの)を加えたりして、味の変化も楽しんでいる。

 毎日、だしをとるのは手間じゃないのか、疑問に思って聞いてみたことがある。けれど、ダンナ氏はまったく手間だとは思わないのだそうだ。むしろ、「せっかく飲むなら、美味しいのがよくない?」と言う。たしかに、そうだ。もっともだ。

 ただ、ひとつ、興味深いことがある。毎日のお味噌汁に、だしをちゃんととるし、なんなら年越しそばを手打ちしたり、うどんを手打ちしたり、パンを手作りしたり、クラフトコーラの元を作ったりする、ダンナ氏。こと、果物に対しては例外のようなのだ。わたしは知っている。果物の皮を剥くのが面倒で、果物を買うのを躊躇していたことを。

 閑話休題。だし、である。前に、家族がリレーのように体調を崩した時も、お味噌汁をつくっておいたお陰で、水分と栄養がとれて救われた気持ちになった。激しい頭痛と熱でフラフラになっていても、お味噌汁は飲めるのは驚きだった。

 今では、ほぼ毎日、味噌汁を飲んでいる。ひと口、飲んだ途端に、一日の疲れが和らいでいくように感じる。夕方の我が家は、だしの良い香りで満たされる。食事の時間が待ち遠しい。