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物語と現実の狭間

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時に現実は物語になり、物語は現実を変える。小説のような随筆のような時系列のない日記を、気が向いた頻度で書いています。
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2023年1月の記事一覧

遠くへ行った恋人を訪ねて(後編)【物語と現実の狭間(3)】

前編はこちら。 誰とも共有できない、したくないことがある 実はそのとき、わたしはかなり派手めな失恋をしたあとだった。立ち直るのに半年はかかったし、彼女の話を聞いて勝手に感情移入したのにはそういう背景がある。  でも背伸びをしてみても、"解ったような顔をする勘違い迷惑ばか"にしかなれなかったんだろう。あのときからさらにそこそこ、いろいろなくしてきた今ならこう思えるのに。  ひとには誰とも共有できない、したくないことがある。  ならそもそも話すなよ、と言うひともいるかもし

遠くへ行った恋人を訪ねて(前編)【物語と現実の狭間(2)】

 彼女は落ち着いた雰囲気だった。  可愛いと綺麗の真ん中にあるような顔立ちだったけど、幼さは感じさせなかった。表情はいつも優しげに笑っている印象で、集団の中で自分を主張することはあまりないのに、その場にいるだけでなんとなくほっとするような存在だった。  それでいていつもどこか遠くを見てるみたいで、矛盾するようだけどそこにいるのにいないような、ひとつフィルターを挟んで世界に存在しているような空気を纏っていた。  彼女はわたしと同じ大学で、同じ学部で、同じ学年で、同じサークルだ

心はどこにあると思う?【物語と現実の狭間(1)】

 高校から帰る途中のことだった。  とりとめもないことを話すのが楽しくて、その友だちとわたしはふた駅分を小一時間ほどかけて歩くのが習慣になっていた。  不意に雑談が途切れ、少しだけできた間へ滑り込ませるように、 「ねぇ。心はどこにあると思う?」  と訊いてきた友だちの隣を、わたしは自転車を手で引いて歩いていた。  とっさに思い浮かんだのは「ははぁ、なるほどこれは引っかけ問題だね。読んで字のごとく心臓と答えるのが普通なんだろうけど、ものを考えるのは頭だから……て、ことでしょ