集まれ!怪談作家に応募した怪談5「雪女」


※前書き

VTuberの榊原 夢さんの企画である「集まれ!怪談作家」に投稿した怪談です。企画の詳しい内容や結果は動画リンクから。

・本文

「雪女が出た」

 そんな内容の救助要請が山岳警備隊に飛び込んできたのは、Fさんが山岳警備隊になってから初めての冬だった。
 救助要請をしたのは、地元では紅葉の名所でも知られるA岳に雪山登山に来ていた大学の登山サークルとのことで、通報を実際に受けたのはA岳にある山小屋に常駐している地元山岳会の方だそうだ。その山小屋から、山岳警備隊や山岳救助隊に要請が入ったらしい。
 Fさんは、救助内容で雪女何て単語を聞くのはこれが初めで少し戸惑い、指導役だったTさんに

「あの、雪女って言うのは何かの隠語なんですか?」

 と聞くと、Tさんは

「ん?あぁ、そうか、Fはこういうのは初めてか。実際には天候不良で身動きが取れなくなったらしいが、雪女は、まぁ見間違いか、幻覚でも見たんだろうな。こんな変な通報が、たまにあるんだよ」

 そう答えた。言われてみれば、救助要請をするくらいの状態なら、そういうことがあっても不思議ではないか、と思った。

 A岳の麓で車を降りてロープウェイで途中まで登り、拠点となる山小屋で山岳救助隊や地元山岳会と合流した。
 救助要請の詳しい内容が共有され、要救助者は入山届けの出ている大学の登山サークルの登山者5名。急激な悪天候により、9号目付近で身動きが取れなくなっているとの事だった。
 幸いなことに装備はしっかりしており、テントを張ってビバークしている様だが、1人が遭難しているとの事で、どうやら通報した大学生が雪女と遭遇したと騒いでいるらしい。

 天候が悪くヘリでの救助は望めないため、今回は人力での救助となり、救助活動と行方不明者捜索の打ち合わせをしてすぐに出動した。大学サークルが通った登山ルートを辿る様に進んでいくと、幸いなことにビバークしているテントはすぐに見つかった。
 半分ほど埋まっているものの声掛けには反応があり、入り口を掘り起こしてテントを開けると、中には男性が4人、女性が1人の計5名が居た。
 かなり不安な思いをしたのか、男性4人が隅に固まり、体を縮こめて青い顔をしてガタガタ震えており、反対側には体育座りをしてこちらを見ている女性が1人。救助隊に手を貸されながら順番に、テントの外へと出てきた。
 軽い低体温症の症状がある人がいたが、とりあえずは無事な様子で、5名の救助は救助隊に任せる事になり、他は遭難した人物の捜索に向かうことになった。
 少しテントから離れた場所で残る1名の捜索に向かうメンバーで場所を確認していると、先ほど救助された女の子がFさんに声を掛けてきた。

「Iが、Iがいなくなったんです。誰が居る、誰が呼んでるって、いきなり騒ぎ出して。テントから飛び出して、向こうに行って……」

 後ろからいきなり声を掛けられて少しビックリしたが、木立ちの方を指差しながら、寒さに震えるか細い声でそう訴えかけてきた女の子に対して、

「分かりました。我々が捜索しますから、安心してください」

 そう言って女の子を救助隊に任せた。他の隊員も今の話を聞いており、相談の結果、彼女の指差した木立ちを中心に捜索することになった。
 既に雪が積もって足跡などの痕跡は消えているため捜索は困難が予想されたが、捜索を開始してから程なくして、少し離れた場所から

「見つかったぞー!」

 と、声が上がった。駆けつけるとそこには、なんとも奇妙な状態の若い男性の遺体があった。
 木のすぐそば、周りの雪が遺体に合わせて楕円形に掘り固められており、まるで誰かに安置された様に仰向けの状態で手を組んでいる。
 揺り起こせば起きてきそうで、まるで眠っているかの様だが、顔は白く霜に覆われていて既に凍死していることがわかった。
 パッと見た時は、寒さを凌ごうとして穴を掘ったのかとも思ったが、それにしては穴が浅い上に掘り方がおかしい。
 すぐに他の山岳警備隊の人間も駆けつけて、なんとも言えない不気味さを感じながらもTさんと遺体を収容していると、後ろで地元山岳会の人がポツリと言った。

「こりゃあ、雪女の仕業だな」

 遺体を収容して山小屋に戻り、救助された山岳サークルの人達に確認してもらうと、遺体の彼が遭難したI君で間違いないとの事だった。
 友人が亡くなった事でかなりショックを受けた様子で、登山サークルの彼らは一言も喋らず一様に下を向いている。
 なんとも居た堪れない気持ちになったFさんだが、ふとあることが気になった。
 先程、自分に声を掛けてきた女の子の姿がない。Fさんはその場を離れて、近くにいた救助隊に話を聞くと、こんな返事が返ってきた。

「それが、山小屋に着いた時には居たんですが、気がついたらいなくなってたんですよ。しかもその女性、登山サークルのメンバーではないらしくて、彼らも『気がついたらテントの中にいた。あの女性は誰だかわからない』って言うんです。入山届けにも名前も無くて……」

 まさか、と思って渡された入山届を見てみると、書いてあるのは遺体となって発見されたI君に、テントで見つかった4人の男性の名前の計5名のみ。
 その後、山小屋付近を捜索したが、消えた女性は見つからなかったという。

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