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おしゃべりな三面鏡

   人物
松永まほろ(21)女優の卵
ナカジ(年齢不詳)三面鏡中央面に住む霊 
タカミ(年齢不詳)三面鏡左面に住む霊
ムスヒ(年齢不詳)三面鏡右面に住む霊
南屋庄司(46)骨董屋「みなみや」店主
入山波子(55)「みなみや」の常連客
高野修一(35)TVディレクター
岸川康平(23)アシスタントディレクター
運送屋A
運送屋B

〇骨董屋「みなみや」店内・開店前
   壺、菩薩像、掛け軸、狸の置物がところ狭しと並んでいる。
   南屋庄司(46)、大きな声で置き場所の指示を出している。
   運送屋A、三面鏡を包む梱包材を剝がしている
   庄司、鼻がつくほどの距離で三面鏡を見る。
   店の値札に「35万円」と書き、もう一度三面鏡に目をやる。
   「35」に二重線を引き、少し考えている。
庄司「これぐらいだろ!」
   値札に書き足して、パンッと三面鏡に値札を張り付ける。
タカジ(年齢不詳)(声)「うっ・・」
   庄司、振り返り三面鏡を見る。
   バンッとガラス戸にぶつかったような音。
庄司「あっそれ!一人で運んだら危ないよ、ほらほら二人で運んで!」
   運送屋A、運送屋Bと一緒にローチェストを運ぶ。

〇「みなみや」店内・真夜中
   店内の非常灯。
   三面鏡中央面からナカジ(年齢不詳)の顔が浮かび上がる。
ナカジ「もうよろしくてよー」
   ナカジ、中央面から。
   タカミ、左面。
   ムスビ(年齢不詳)が大きく伸びをしながら鏡からでくくる。
タカミ「いやー声はでかいし、値踏みしてる時なんか、もー、顔近いのよ」
ムスビ「威勢のいい江戸っ子って感じ?」
ナカジ「その江戸っ子さん、わたくし達にお幾らつけたかしら?」
タカミ「あの江戸っ子にこの良さなんか分かるわけ・・・うわっ今狸と目あった」
   ムスビ、狸に微笑みウィンクした隙に値札が目に入る。
ムスビ「えっ・・35消して29・・」
   三霊とも、食い入るように値札みて、エーという表情。
タカミ「ほらッ、あの江戸じじ!やっぱ見る目ない」
タカミ、三面鏡のテーブルの上に置かれた箱で仰ぐ。
ムスビ「でも、ここにこうして三人いられるだけでも・・」
ナカジ「・・過去は過去、プライドも捨てなくてはなりませんね」
ムスビ「あっ!そうそう、ずっと前に60万の値が付いた事覚えてる?」
   タカミ、箱でムスビを指す。
タカミ「あー!あの変態作曲家!女好きでさー、付き合う女みーんな、嫉妬深くて、そのイライラの固まり、全部こっちにぶつけてくるもんだから、あっちもこっちも傷だらけよ!まったく!」
   タカミの手から箱が勢いよく飛ばされ床の皿に当り割れる。
   慌てて鏡に戻ろうとする三霊。

〇庄司の寝室・真夜中
  寝ぼけ眼で布団から上半身だけ起き上る。
庄司「んあ?・・・」
  目をぱちぱちさせ、また布団に入る庄司。

〇「みなみや」店内・真夜中
  三面鏡と割れたお皿。三霊の姿はない。

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〇「みなみや」店内・日中
   松永まほろ(21)と庄司が、並びにっこり笑っている。
   岸川康平(23)、スマホで写真を撮っている。
康平「南屋さん、リラックスして、あっいい笑顔です」
   記念撮影が終わり康平、庄司にスマホを渡す。
庄司「いい記念になります、ありがとうございます!店におっきくして飾り
 ますよ!」
   スマホ写真を満足げに見る庄司。
   高野修一(37)、写真を覗き込む。
修一「南屋さん、ご協力ありがとうございました」
庄司「いいの!みんなお互い様だから!」
修一「番組の撮影をお願いしても、突然すぎて中々アポ取れない中、本当に 
 ありがとうございました!助かりました」
庄司「いやあ、あの子がね、素敵なお店だの、一日中いても飽きないとかい
 うもんだから、すっかり調子乗って!」
修一「いやあ、ほんとですよ、僕も骨董品に凝ろうかなぁ」
   まほろ、熱心に三面鏡を見ている。
庄司「でも、俺の事は、素敵って言わなかったどね!」
  庄司・修一、康平3人とも笑う。
  庄司、修一に品物に説明し始める。

  康平、まほろに近づく。
康平「まほろさん、お疲れ様です」
まほろ「あっすみません、お疲れ様でした」
   まほろが、おじぎしたタイミングで三面鏡にお尻が当たる。
まほろ「あーごめんなさい」
   まほろ、三面鏡をチェックする。
康平「大丈夫ですよ!来月は、中野と代々木の商店街の回です。詳細は、マ 
 ネージャーさんにメールで送っておきますね」
まほろ「はい、宜しくお願いします」
康平「あのぉ、それ、そうとう気に入ってますよね」
   康平、三面鏡を指さす。
   三面鏡の中央の鏡に映っているまほろの顔。
まほろ「はい!こんなのお部屋にあったらいいなぁって」
   三面鏡の右側の鏡に映る康平の横顔、まほろを見ている。
まほろ「事務所の先輩のお部屋に遊び行かせて貰った時、ドレッサーが素敵 
 だったんです。少しこれと似てる感じがします」
   まほろ、三面鏡の値札をさわる。
まほろ「先輩、そのドレッサー凄く高かったらしいけど、自分のステージ上 
 げるために買ったんだよって、そうゆう事ってあるのかなぁ・・」
   康平、まほろに話そうとすると
修一「お疲れお疲れー。まほろちゃんの評判、どこ行ってもよくってさぁ。
 今日も良かったよ」
まほろ「初めての事だらけで、勉強になります。色々教えてください」
修一「そうだ、まほろちゃん、女優志望なんだって?」
まほろ「・・はい、でもオーディションは、苦戦してます」
修一「大丈夫大丈夫、最初はみんなそうさ。応援してるよ。さて、現地解散
 だけど、まほろちゃんは・・」
まほろ「少しだけ、お店見ていきます」
   修一、三面鏡に目をやり、頷く。

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〇TⅤ局の専用車・車内
   運転する康平。顔の前にたばこの煙。
   康平、窓を開ける。
修一「お前、女優なれると思うか?」
康平「オ、オレ?すか?」
修一「まほろちゃんだろ、主語なくても組み取れよ。・・あんな優等生で純
 朴で・・なんでまた女優なんだろなぁ」
康平「なんでって、人前で演じて感動させたいとか感動を与えらるようなと
 か、あるじゃないすか」
修一「女優ってさぁ、俺だけのイメージだけど、腹の奥底に、欲の塊が静か
 に燃えてるのよ。あれが美だの華に化けて光になって。で、おんなじだけ
 影と痛みがあるようなさ。綺麗なだけじゃつとまんないみたいなさ」
康平「修一さん、なんかかっこいいっすね」
修一「分かったような口。おい、前みろ」
   康平、前方に向きなおす、不安げな顔。

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〇「みなみや」店内・昼間
   三面鏡の値札。対峙するまほろ。
まほろ、背後から鏡に映る入山波子(55)の目に、ハッとする。
まほろ「あぅっ!」
波子「ごめんなさいね!うんうん、傷ものだけどいいんじゃない」
   波子、三面鏡の引出を出し入れする。
まほろ「あのーヴィンテージ家具とかお詳しいんですか?」
波子「詳しいなんて、冷やかし程度よ」
庄司「(声)商店街のご意見番!」
   庄司、三面鏡に手を掛け。
庄司「これも波子さんが、あっ、この方ね」
   波子、まほろに笑顔を向ける。
庄司「洋風ものもどうって、色々買付まで世話してくれて」
お客「(声)すいません、このローチェストですけど」
庄司「はいはい!」

   三面鏡の中央の鏡に映るまほろの顔。
   波子、まほろに顔を寄せてくる。
波子「欲しいなぁ、でもお金が・・でしょ?」
まほろ「はい、そうです。でも、一目惚れしちゃって。」
   波子、優しくうんうん頷く。
まほろ「あっ私、松永まほろと申します。ここには番組のロケでお邪魔しま
 した」
波子「あらぁ、タレントさん!」
まほろ「今住んでるお部屋に、この三面鏡があったらって想像しただけで、
 頑張れる気がして、あの、わたし、、、女優志望なんです」
波子「まぁ、そうなの!サイン貰わなくちゃ、映画とドラマとか?」
まほろ「毎日オーディションです。中々チャンス掴めなくて、、でも、あき
 らめたくないんです」
波子「そうよ、まだまだ若いんだもの」
まほろ「はい。わたし、毎日この鏡の前でセリフ読んだり、表情とかメイク
 の勉強して・・なんて思うけど・・」
波子「まほろちゃん、迷う時は、直感で選びなさい。お金よりも迷ってる時
 間の方がもったいない。時は金なり!」
   まほろ、強くうなづく。

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〇「みなみや」店内・真夜中
   ムスビ、狸を抱き抱えながら
ムスビ「ターちゃんともお別れねぇ」
ナカジ「こんなに早く決まるなんてね」
   ナカジ、背の高いロッキングチェアに座り揺れている。
   タカジ、鏡に向かっておかめのお面と天狗のお面を交互に付け
タカジ「あのおばちゃま、中々いい仕事したんじゃない!」
   ムスビ、おかめのお面を取り上げ、顔に合わせる。
ムスビ「あの子、可愛いし若いし楽しみね」
   タカジ、ムスビからお面を取り返し
タカジ「あんた、あの子に付きまとって、調子に乗って迷子にならないで
 よ!いつだったか、あん時の事覚えてる?こっちは大変な思いして・・」
ムスビ「大丈夫!あの頃より少しは、成長してるもん」
タカジ「お化けが成長するわけないでしょ、バカ言ってんじゃないわよ!年
 は取らないけど、春夏秋冬春夏秋冬ずっとグルグルグルグルおんなじと 
 こ、グルグルしてるだけなのよ!」
ムスビ「違うもん、自分勝手はしないって決めたもん」
   ナカジ、二人の間に入り、タカジとムスビの手を取り
ナカジ「二人とも分かったから!ねぇ、いい?彼女には、三人で全面協力し
 て、立派な女優さんになって貰いましょ!」
   うなずき、微笑み合う三霊。

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〇まほろの部屋・夜
   六畳間にベット、テーブル、本棚
   タンス置いてある。
   不自然に大きめの空間がある。
   まほろ、携帯でメールを打っている。
まほろ「(声)お疲れ様です。詳細確認しました。次回もよろしくお願いし
 ます。それとお願いがあるんですが、康平さんへ返信される際に、添付し
 た写真も送って頂けますか。たぶん、何の事か分かると思います」
   携帯に、三面鏡を挟み、まほろと波子が。映っている。
   三面鏡に≪松永様 購入済≫の札。
   三面鏡の鏡にうっすらと映る三霊。



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