函館弁護士会の道弁連脱退の問題(昭和40年)

私が札幌弁護士会を訴えた不当利得返還請求訴訟で、被告の札幌弁護士会から、過去の道弁連会費の経緯の証拠として『道弁連五十年の歩み』(1990年・平成2年)という書籍の一部が提出されています。
この書籍の中に、昭和40年(1965年)に函館弁護士会が北海道弁護士会連合会(道弁連)を脱退する総会決議をしようとした件が載っていました。
弁護士会が弁護士会連合会を脱退しようとした事例として珍しいので紹介します。

上記書籍20頁21頁によると、昭和39年ころに最高裁が札幌高裁函館支部などの廃止を計画したところ、昭和40年3月、函館支部の廃止運動のために函館弁護士会が函館支部廃止反対決議をすべく道弁連に理事会の召集を請求しました。
札幌弁護士会は、常議員会で、函館弁護士会には同意しないと決議しました。札幌弁護士会のこの決議をした理由は、函館支部が廃止されれば札幌高裁本庁の強化につながり本庁の1か部増設につながるということと、函館支部が廃止されれば従来函館支部に係属していた高裁事件が札幌の本庁に係属することになって函館出張を回避できるということでした。
そして、函館弁護士会の請求で開かれた道弁連の理事会は、札幌弁護士会の選出の理事が多数であったので、函館支部廃止反対については継続審議となりました。
札幌弁護士会の意向に従い、道弁連の理事会が函館支部廃止に賛成の態度を示したことで、函館弁護士会選出の理事が理事の辞任届を提出し、函館弁護士会では会員の大多数が道弁連脱退を議案とする総会の招集請求をするに至りました。
日弁連の説得もあったとのことで、函館弁護士会の道弁連脱退は回避され、理事の辞任も撤回されました。
昭和40年6月には、道弁連理事会で函館支部廃止に反対の決議がなされています。
道弁連を構成する4つの弁護士会のうち最大の札幌弁護士会が函館支部の廃止反対に積極的ではなかったようで、札幌高裁函館支部は昭和46年に廃止されています。

この件の記載は、次の一文で締められています。
自己の職業上の利益のみを考えた札幌弁護士会の活動が結局は国民の裁判を受ける権利の行使を困難にさせた一事例と言えよう。

札幌高裁函館支部の廃止に反対しない札幌弁護士会の理由として、札幌高裁本庁の強化が挙げられています。しかし、函館支部が廃止されれば函館支部で処理していたはずの事件が本庁に係属するだけで函館支部の人員がそのまま本庁に移籍されるとは限りませんから、従来の本庁の人員が増強されるものではなく、本庁の「強化」にならないのは容易に予想ができます。
札幌弁護士会は、函館出張の機会が減れば良いというということが主な理由で、函館支部の廃止に反対することに消極的だったのでしょう。
昭和40年当時の札幌・函館間の移動の時間や費用がどの程度だったにせよ、札幌弁護士会が高等裁判所の支部の廃止に事実上賛同したといえることは正当化できないでしょう。

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