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SAP COコンサル ”基本設定シリーズ” 0 ~管理会計モジュール概要 / CO Module Overview 解説~

本投稿は、CO コンサル ”基本設定シリーズ” 概要編です。
SAPのCO モジュールの概要について、初心者でも理解できるよう分かりやすく・詳しく・具体例を交えながら解説することを目的としています。
SAPを業務で利用する方や、SAPの導入/運用・保守に関わる方であれば絶対に知っておきたい重要知識ばかりですので、是非最後までご覧ください。

なお、”SAP コンサル 基礎知識編”シリーズに関する投稿内容・目的についてはこちらをご覧ください。

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CO コンサル ”基本設定シリーズ”は全⑤弾で構成されており、それぞれに解説編とデモ編を用意しています。
すでに投稿済みの記事には、下記リンクからアクセスできます。
是非ほかの記事も併せてご覧下さい。
SAPの会計を学ぶ上では絶対に欠かせない基本知識ばかりとなっています。

<CO 基本設定 シリーズ>
⓪ : COモジュール概要 - 解説 (無料公開中)  ← ☆☆今回のテーマ☆☆
① : CO 組織構造 - 解説 / デモ (有料公開中)
② : 原価要素 - 解説 / デモ (有料公開中)
③ : 原価センタ - 解説 / デモ (準備中)
④ : 内部指図 - 解説 / デモ (準備中)
⑤ : 利益センタ - 解説 / デモ (準備中)

また、FI コンサル ”基本設定シリーズ”も公開中です。
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今回の解説概要 

今回の解説は、CO モジュール基本設定シリーズを学んで頂く前準備として全体像を理解して頂くことを目的とした概要解説編となります。
・そもそもSAPのモジュールとは?
・管理会計とは?
・CO モジュールとは?
などについて解説しています。

解説編を見終えた皆さんは、以下のことが理解できるようになります。
・ERPにおけるモジュールの役割
・管理会計の役割
・財務会計と管理会計の違い
・SAPにおけるCOモジュールの重要性

1.モジュールとは?

モジュールについて理解するためには、ERPとは何かを理解する必要があります。

SAPを含む一般的なERPとは、企業が持つ複数の業務システムを一括管理し、企業活動の基幹をなす業務のスピードや生産性を向上させるためのプラットフォームです。企業活動の基幹をなす業務とは、「会計」「人事」「生産」「物流」「販売」などのことを指します。
これらの業務は、部署や担当者こそ異なるものの、すべてがリンクし合い切り離せない関係です。また、上記全ての業務は、お金の流れが発生する以上、最終的には会計業務に集約されることになります。

ERPが誕生する以前は、各業務ごとにシステムが独立しており、システム間の連携は非常に煩雑なものでした。
例えば、人事管理の給与情報や販売管理の仕入れ・売上げ情報などを別途会計処理に入力し直したり、あるいは販売管理における注文状況を人為的な作業で生産管理システムに反映させたりするなど、各部門間でのデータの受け渡しに余計な手間ひまがかかっていました。

ところがERPの登場により、企業は情報を一元管理することができ、スムーズな日常業務の遂行と、迅速な意思決定につながる情報収集という大きなメリットを得ることができるようになったのです。
ERPの登場により、企業は基幹業務の効率化に成功した訳ですが、この時点ではまだモジュールという概念のないERPだったと言う点を補足しておく必要があります。

では、なぜERPにモジュールが必要になったのでしょうか?
それは、数多くのERP製品が開発され、各社の競争が激化していく中で、ソフトウェア開発の複雑性が故に開発時に致命的な間違いを起こしやすくなるという問題を解決する必要があったからなのです。

「モジュール化」という考え方の登場により、SAP はオブジェクト指向を用いた「ビジネスオブジェクト」の概念を導入することができたのです。
これは、ソフトウェアの再利用性を最大限に高めるようなモジュール化のアプローチを使い、共通のビジネスプロセスを内部トランザクションの中にカプセル化するというものでした。 

つまりモジュールとは、企業が持つ複数の業務範囲をカバーするために複雑になりすぎたERPを細分化し、ERPシステムを構成する要素を機能ごとにまとめたものだと言うことができます。

システムを車に例えると、車がシステム全体にあたり、エンジンなどの部品はモジュールに該当します。
エンジンはそれ自体でも機能しますが、システムを構成する要素でもあります。
ERPにおけるモジュールも同じで、ERPというシステム全体の中にいくつものモジュールが組み合わさっているのです。

SAPに限らず、現代のERP製品であれば基本的にはこのモジュールの組み合わせでできています。
すべてのモジュールを洗い出すとかなりの数になりますが、基本モジュールと呼ばれるものは「財務会計(FI)」「管理会計(CO)」「販売管理(SD)」「在庫購買管理(MM)」「生産計画/管理(PP)」の5つとされています。

<SAP 代表モジュールの一覧> 

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2.管理会計とは?

上記で説明した基本モジュールのひとつに「管理会計(CO)」と呼ばれるモジュールがあります。
COモジュールを一言で説明すると、”自社の経営を分析したり今後の事業方針を決定するために行う社内向けの会計を司るモジュール”のことです。

会計には様々な分類があり、お金儲けを目的としているかどうかという観点からは、営利会計(企業会計)と非営利会計に分類することができます。
さらに企業会計は、会計情報の利用者が誰かという点から財務会計管理会計に分類されます。
財務会計は企業外部の利用者に報告するもの、一方の管理会計は企業内部の利用者に報告するものです。
(財務会計についてはこちらで解説済み。)

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<SAPのコアプロセス全体像から見た財務会計(FI)と管理会計(CO)>

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経営者や管理者は通常、管理会計上の会計情報をもとにして経営意思決定を行ったり、原価低減や業績改善のための施策を講じたりします。
管理会計上の会計情報は、あくまで会社内部で任意で使用するものなので、どのように管理会計情報を作成するかは会社によって異なります。
適正な経営意思決定を行ったり、業績評価を正しく行って施策を講じることができるように、自社に最も適している管理会計制度を構築していくことが重要となります。

3.管理会計の目的

管理会計の一番の目的は、「売上」を増やすことと、出ていくお金「コスト」を減らすことです。
実施することで企業の弱点を知ることができます。
さらには、その過程で得たデータを活用して、企業をさらに成長させることもできます。いわば、「攻めの会計」と言えます。

管理会計はいくつかの機能に分類することができますが、「売上」増と、「コスト」減を達成するために先ず最初に必要なるのが「予実管理」です。(予実管理 = 予算と実績を管理すること。)
「予実管理」を実施することで、企業の経営目標を達成するための売上や経費などの予算を正しく設定し、実際の売上や経費との数量差異や達成率の差異を評価することが可能になります。

予実管理とは予算と実績の管理なので、記録さえきっちりと取っていれば簡単にできそうと思うかもしれませんが、実際にはとても複雑です。
例えば、商品別の実績はシステムに記録されていても、予算については営業部全体の計画しか立てておらず、商品別レベルの詳細は存在しないため「商品別の予実管理ができない」というケースもあります。
また実績に関しても、正確に把握するには時間がかかるということがほとんどです。
売上を管理しているシステム、原価を管理しているシステムが別々で、システム間のデータ連携は人の手で転記している企業もまだ多いでしょう。
そうなると、データの転記作業に時間がかかり、ミスも発生しやすく、実績としてのデータが出るのに1カ月くらいかかってしまうこともあります。
このように、タイムリーな予実管理はじつはなかなか難しく、経営者の判断が鈍ることにもなりかねません。

こうした細々したデータをきちんと記録し、企業として管理したい項目を細分化した上で管理することが管理会計の目的なのです。
管理会計によって、”どうすれば利益が増えるのか”を考えるための重要なデータを集めることができるのです。

4.管理会計が経営に与える影響

ここまでの解説で、管理会計の概要とその目的についてはご理解頂けたかと思います。
続いては、実際に管理会計の情報は経営判断にどのような影響を与えるのかについて、具体例を何点か見ていきたいと思います。

今回ご紹介するのは下記3つの例です。

1.伸ばす事業・撤退する事業の正しい判断ができる
2.投資利益率(ROI)から投資対効果を正しく把握できる
3.既存事業の未来予測をする判断材料になる

1.伸ばす事業・撤退する事業の正しい判断ができる
管理会計を活用することで、事業別や商品別に売り上げやコストを分解することができるので、利益が出ている事業と出ていない事業が一目瞭然で分かります。

管理会計では、事業の継続・撤退の判断に役立つ重要な指標として、限界利益と呼ばれるものを使用しています。
限界利益を簡単に説明すると、売上高から変動費を差し引いた金額のことです。
固定費は売上高に関係なく発生するものなので、必ず賄う必要がありますが、もし限界利益から固定費を差し引いた値がマイナスになるということは固定費が賄えていないことを意味します。

原価計算を行っていて棚卸資産が計上される会社では、営業利益や経常利益が黒字であっても、限界利益から固定費を差し引いたものがマイナスという状態となることが考えられます。
これが一時的であればよいのですが、継続してこの状態になるということは、一見利益が出ているように見えても固定費が賄えていない状態が続いているということなのでとても危険です。

このように、事業ごとに売り上げとコスト・利益を把握することで、儲かっていない事業や商品を縮小あるいは撤退し、儲かっている事業に注力するという経営判断が可能です。
また、利益はまだ小さいけれど前年との比較で見ると伸びているので、もう少し様子を見ようという判断もできます。

管理会計の中で、もう一つ特に大事な指標が損益分岐点(CVP)です。
CVPとは、「Cost-Volume-Profit」の略で、先ほど説明した限界利益と固定費が同額である状態をいいます。
その状態が成立するときの売上高を損益分岐点売上高といいます。
実際の売上高が損益分岐点売上高を上回っていないという状態は、赤字であることを意味します。
そのため、ビジネスを行う上では必ず損益分岐点売上高を把握し、それと比べて実際の売上高がどういう状態にあるか、ということを確認しなければなりません。
仮に損益分岐点売上高を下回っている場合は、売上高を増やす / 変動費割合を下げる / 固定費を減らすなどの対策を取らなければ事業を継続することはできません。
このように、損益分岐点はビジネスをどう進めていくかを検討する上でとても大事な指標です。
経営者としては常に注意を払うべき指標の一つと言えるでしょう。

2.投資利益率(ROI)から投資対効果を正しく把握できる
ROIは、投資した資本に対してどのくらい利益が得られたかを見る指標で、これを重視している経営者はとても多いです。
売り上げと投資した額が事業別に分かれば、事業部ごとのROIを出すこともできます。
たとえ売り上げが大きくても、その事業のために大量の営業費用を投入していれば、利益が出にくいということもあり得ます。
”投資に見合った利益が出せていない”=”ROIがよくない” ということが分かれば、投資を減らしたり、事業そのものを縮小するといった判断が可能です。

逆に売り上げの規模は大きくなくても、ROIがよければ優良事業ということになり、投資を集中させてさらに成長させることもできます。
このように、事業ごとに分解してROIを見ることで、事業の選択と集中が可能になるということは企業にとって大きなメリットになります。

3.既存事業の未来予測をする判断材料になる
経営者は、既存事業の売上予測も行います。
現在の状態で推移すると最終的にどのくらいの売り上げになりそうか、予算は達成できそうかなど、未来予測の判断材料としても、管理会計の情報が役立ちます。
また、投資回収計画を作成する際の判断のベースにもなります。

例えば新しい製品を投入すると一気に売り上げが伸び、そこから少しずつ落ちていくという過去の傾向が分かっていれば、その傾向を見据えて何年後にはプラスに転じると予測し、その予測に基づいてどのくらいで投資が回収できるか計画を立てることができます。

5.SAP CO モジュールとは?

SAPのCOモジュールとは、上記で説明した「管理会計」をつかさどるERPの基本モジュールのひとつです。
COモジュールを使うことで、経営判断に必要な様々な情報を収集することが可能になります。

COモジュールは、社内向けに費用・収益を分析、レポーティングすることを目的とするので、COモジュールでは人件費・購買費・生産費・光熱費など、社内全てのお金に関するありとあらゆる情報が集まります。
つまり、全業務の仕組みをある程度知っている必要があることになります。

以下の図はSAPに関する費用情報の流れ図を簡単に整理したものですが、これを見ると、他モジュールからの情報がCOに連携されていることが分かります。

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さらに管理会計の機能は、機能ごとに予実管理・原価計算・収益性分析に分解することもできます。
SAPにおけるCO モジュールの構成は下記の通りとなります。

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・CO-OM (間接費管理)
OMとは「Overhead Management」の略。
Overheadとはいわゆる間接費のことです。
CO-OMとは、管理した間接費を各部門へ割り当てることを目的としたサブモジュールとなります。

間接費を簡単に説明すると「費用の発生元が1つに特定できない費用」のことです。
「原価に直接関係のない費用」と言い換えることもできます。
製品などの原価に直接関係のない費用を予め決められた基準にしたがって複数部門に渡って「配賦」することが主な目的になります。

CO-OMはさらに以下の4つに分類することも可能ですが、これらは「間接費」の「配賦」を様々な方法で行うための設定と覚えて頂ければよいかと思います。
(本編の解説で一つずつ詳しく解説します。)
 ・原価要素会計 (Cost Element Accounting CO-OM-CEL)
 ・原価センタ会計(Cost Center Accounting. CO-OM-CCA)
 ・内部指図管理(Internal Orders. CO-OM-OPA)
 ・活動基準原価計算(Activity Based Costing. CO-OM-ABC)

・CO-PC (製品原価管理)
PCとは「Product Costing」の略。
直接費を管理する機能群のことを指します。
直接費を管理・集計し製造原価を計算することを目的としたサブモジュールとなります。
直接費は、間接費の反対で、費用の発生元が1つに特定できる費用のことであり、言い換えれば原価に直接関係のある費用のことです。
製品を作成するための原材料や、人件費、加工費などが直接費に該当します。
同じ給料でも、例えば退職金は製造に関係しないため間接費ですが、製造している時間に対しての給料は直接費となります。

CO-OMは間接費を管理することであるのに対し、CO-PCは直接費を管理することを目的とした設定が必要になります。

・CO-PA (収益性分析)
PAとは「Profitability Analysis」の略。
集計された間接費や直接費から原価や利益の分析をすることを目的としたサブモジュールです。
これまで述べてきた2機能で集計した間接費・直接費を用いて、事業別・製品別の原価・利益を分析するための機能になります。
主な目的はレポーティングであると覚えておけば問題ありません。
光熱費は全社的にどれだけかかっているのか?どの部門が1番利益率が良いのか?などが分かることによって、次年度以降の予算策定業務に活かすことができます。

以上が、CO モジュールの主な機能になります。

COモジュールは他のモジュールで発生したデータが最終的に行きつく場所です。
その企業の目的によって業務の流れは多種多様でしょうから、COモジュールの使い方も各企業によってそれぞれ異なるという点も特徴の一つです。
従って、COモジュールを理解するためにはその企業のビジネスの全容を理解しなかければならず、求められる知識も多岐に渡ります。
私個人の意見ですが、SAPの中で最も重要で難しいモジュールなのではないかと考えております。

今後投稿を予定している ”SAP CO コンサル 基本設定シリーズ” では、今回ご紹介したCO モジュールを正しく動作させるための基本的なカスタマイズ設定やSAPにおける概念、言葉の定義などについて、なるべくわかりやすく、初心者の方に向けて紹介していくつもりです。

一つ一つの内容について細かく解説し、デモを交えながら実際のSAP操作方法についても学べる内容となっていますので、是非シリーズを通してご覧になって頂きたいと思います。

これからも、少しでもSAPを学習する皆さんの手助けになれるような有益な情報を投稿していきますので、ご興味ある方は是非フォローよろしくお願いします。

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