パフォーマンスいわれ19 サディスティックサーカス11<牡丹灯籠>
2014年秋。ここしばらく春サーカスもあるため、私としては、演出プランもはっきり異なってきた。春はよりフロアーショー的に和気あいあいと楽しむショー。秋はきっちり作った「観てもらう」ためのショー。この年はこれまでに作ってきた演目の中から「牡丹灯籠」を選んだ。この演目のポイントは「骸骨との空中カラミ」。
「牡丹灯籠」は怪談噺の定番で、講談や芝居、映画など製作されている。噺の全容は以外に複雑であるが、怪談要素だけを取り上げた構成が多いので、簡単に書いておくと、旗本の娘「お露」が浪人の「新三郎」に一目惚れし、実らない恋に悲観し、自害してしまう。死んでも諦めきれないお露は亡霊となり、新三郎の元へ通い、取り憑いてしまう。弱り切った新三郎は寺の住職の助言により、お札をもらい、部屋に結界を張った。戸口でお露は哀願を乞い、まばゆい光を放った。その光を朝日だと勘違いした新三郎。戸を開けてしまう。お露はすーっと入り込み新三郎にまとわり付く。「もう離しませんよ」。翌朝。新三郎の亡骸の隣にピッタリと寄り添った骸骨が発見される、というお噺だ。 子供の頃、夏休みに見たテレビの怪談シリーズドラマで、この骸骨と添い寝している新三郎の姿が心に焼きついていた。何かドキドキする感覚がずっと残っていたのだ。 パフォーマンス創作では骸骨は新三郎となり、亡霊&骸骨(新三郎)の交わりとなる。
この演目はストリップ劇場でやるためにすでに作っていた。牡丹灯籠を作り、衣装は原宿「ブティック竹の子」で買った生地が洋風の着物(グリーン)。大道具の骸骨も紙が芯の大まかなハリボテで制作していた。顔立ちに愛嬌があったため、踊り子たちに「新ちゃん」と呼ばれ可愛がられていた。しかし、様々なアーティストが集まるサディスティックサーカスで、このレベルの骸骨で良いのか、ということが問題となった。私も気になっていたので、模型の骸骨をネットで検索していたが、私の身長より大きく、重量もある(小型のは極端に小さい)。これでは吊りながらの空中絡みは難しい。しかしハリボテの手、足は子供の手袋的な造形。手、足だけでもきちんと作れないか、という話となった。
本番までの稽古最終日。協議の結果、事務局では骸骨の模型を用意していてくれた。これを組み立て、吊って、絡んでみる。私は逆さ吊りとなり、空中での「松葉崩し」の体位となる。しかしやはり、骸骨の重さでうまく私があやつれず、ポーズは決まらない。結局一番手間のかかる、ハリボテと模型の移植、ということになった。
舞台監督と、手先の器用なスタッフが真夜中の稽古場に来てくれ、骸骨作りが開始された。私は不器用なので、大変申し訳ないが、この作業を見守っていたにすぎない。
作業しながらの話し合いで<頭ー模型><肋骨ーハリボテ><骨盤ー模型><腕ーハリボテ><手ー模型><脚ーハリボテ><足先ー模型>その他、頸椎や腰椎もパーツを分解してハリボテに足している。こうしてより現実に近い「新三郎」骸骨が出来上がった。
早朝に近い時間から実際の稽古開始。
骸骨の登場、吊るしなど黒子、スタッフとの連携が大切になるため、細かな段取りを組む。私の稽古というより段取り確認が主な要素だ。作業がよりどう簡略化されるか、というのが焦点。
サディスカは大きい会場のため、大道具を使うと見栄えはするが、そのぶん大勢の人の手を借りなければならない。スタッフの心遣いにいつもながら感謝しつつのステージだ。
本番当日。当日に打ち合わせしたスタッフとも連携がとれ、満足のいくステージとなった。私は新三郎の骸骨にまたがり腹を切る。今までの製作過程と混じり、感情が溢れる。この新三郎ともこれが最後なんだ、と実感し一文字腹を切り、果てていく。新三郎様、今までありがとう。これで成仏してください。
「牡丹灯籠」構成表 決定稿
仕込みー吊り点:早乙女点、骸骨点(傍で並んでいる)
骸骨:(操り紐付き)白布で上下包み、ステージ下
シーン1
上手より、お露、灯籠(中の灯り点いて)持って登場
足元のみ照らし歩く。北席に向け多少アピール。
花道、出逢いの舞。灯籠明かり点けたまま下手花道前置き。
帯解き、紐外し。花道へ置きっぱなし。
着物を羽織る様に着直し、セリフ
「新三郎様。お露は貴方なしでは生きていけません」
お露本舞台へ倒れる。
シーン2
ナレーション「新三郎様。あれほど契ったのに偽ったのですか」
の間に、黒子舞台上、お露の着物をゆっくりはがす。
もう一人の黒子、舞台上お露の傍へ、白布で包んだ骸骨寝かせる
(着物と同時進行)
お露、白襦袢の亡霊となり、取り憑いて殺してしまった新三郎の
骸骨を抱き上げ、起き上がる。カラビナに骸骨掛ける。
黒子、骸骨を吊り上げる(骸骨固定)
その間にお露、自身の吊り準備、逆さ吊り(襦袢脱ぎ)
お露、空中で操り紐を引きながら、骸骨との絡み
お露が降りだしたら、骸骨も降ろす
お露、下から骸骨の補助しながら、カラビナ外し、本舞台へ斜めに
寝かせる。
シーン3
ナレーション
「新三郎様、もうこれからはずっと一緒です」
本舞台、寝かせた骸骨と女性上位での絡み。絡むほど切なく。
背中の表情。感極まり、お露離れ、腹切り準備(刀取り)
刀の見せ方。再び骸骨に跨り、女性上位での腹切り、とどめ。
お露と新三郎の骸骨。お互い血に染まり重なり合って果てる。
ゆっくり暗転