見出し画像

急ぎ足で歩く僕は

誰も何も言わない むしろ
今 交叉点の真ん中で転んだ
君は
単なる異物で
邪魔な障害物で
点滅し始めた信号機の方が気にかかる
足早に過ぎる ひと ヒト 人

券売機の前の人だかり
腕時計の秒針 チッチッ という
その音にいらつく
ぐずぐずしていたら乗り遅れる
一本遅らせてもそう大差ないくせに
そのために押し退けた人は幾つ
駆け上がる階段に息が切れる

急いで
急いで
そうして何処へゆくんだろう
所詮誰もが死んでゆく
その時が来れば誰も同じく死んでゆく
それでも
生き急ぐ 僕らは
何処へ ゆくんだろう

たとえば一冊の本
たとえば一枚の絵
たとえば一つの

大切にしたいと
持ち続けたいとそう思っていた何かは
今もこの手に
握られているだろうか
昨日より今日
今日より明日
君よりも奴よりも誰よりも
目立つ位置に
秀でた位置に
高い位置に
自分の場所を守り通すため
必死になって

気付けばこの手は何時も
握りしめたまま
誰よりも何よりも
早く高く強く
そうして握られた拳に
己の爪が突き刺さる
その痛みまでもが 誇りとでもいうのか

何処までいけば
たったひとつの深呼吸を
するためだけに 立ち止まることが
許されるのだろう
何処までいけば
たったひととき空を仰ぎ見るためだけに
立ち止まることが できるのだろう

今日も僕は時計の秒針に追いたてられ
朝食もそこそこに家を飛び出す
君を押し退け、誰かを押し退け、
生活のために金を稼ぎ、
つきあいと称して酒をかっくらい、
酔いに任せて溜まった愚痴を吐き出し、
そうしているうちに今日は明日になり、
明日は今日になり、

誰よりも何よりも
早く高く強く
自分の場所を確保するため
右の手 左の手
握った拳
そういえばどうやって
解くんだったっけか
この拳は

あァ、
何処までいけば
たったひとつの深呼吸を
するためだけに 立ち止まることが
許されるのだろう
何処までいけば僕は
たったひととき空を仰ぎ見るためだけに
立ち止まることが できるのだろう

誰が僕を 止めてくれるのだろう

誰も

誰も許しはしない
誰も止めやしない
僕を止められるのは この、
僕だというのに

よかったらサポートお願いいたします。いただいたサポートは、写真家および言葉紡ぎ屋としての活動費あるいは私の一息つくための珈琲代として使わせていただきます・・・!