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散文詩集

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#椅子

未知図

何処へゆけばいいのか分からなくて 何処へいきたいのかも分からなくて 膝を抱えてたよ 顔をうずめて 何も見たくなかった これ以上何も なのに知りたいと願った この胸の中で荒れ狂う すべてを 壊れかけた椅子は私を乗せて 軋んだ音を立てる 私が立つのが先? 椅子が壊れるのが先? どっち? 四方を囲む 朽ちた壁板の隙間から僅かに 漏れてくる光は 闇を照らすため? それとも 闇を教えるため? 答えは何処にもなくて やっぱり 何処へゆくのかも 何処へいきたいかも 何も分

「食卓」

家族の食卓は ちゃんと椅子があって 座る場所もきちんと決まっていて 今日の料理にはこのお皿 出す順番もすべて狂い無く さぁ食べましょう 食卓は すっかり華やいで 新しくおろしたテーブルクロスを汚さないようにね スープも温かいうちにどうぞ サラダをかみ砕く音 スープをすする音 時折コップに手を伸ばし 冷たい水が喉を落ちる音   それだけ? 静かに 静かに 静かぁに 食卓はただ食べるという行為のため 家族が集まって食べる行為をするために在るの そこで他の何を 交わす必要も

「原風景」

言葉という炎で焼き尽くされた野には 黒こげの屍体が散乱し、 言葉という炎で焼き尽くされた野は 雨あがった今もまだ細く長く 灰燻を吐き続け、 ただひとつ 焼け残ったのは 記憶という椅子 脚が一本折れて立つ 記憶という椅子 この原野の只中に 椅子は 在り続ける 昨日も今日も明日も この原野の只中に 椅子は 在り続ける この椅子に座る者がもはや ここにはいなくとも ―――詩集「胎動」より

「 崩れゆく地平」

壊れた。昨日まで座っていたはずの椅子 壊れた。プラットホームに喰い込んだ爪先 壊れた。逆立ちをはじめた腕時計 それは今日も、 今日も、今日も 壊れる、壊れ続ける 私を取り囲んでいる事象は 妄想に浸食され 赤い靴をはいた踊り子が描く 弧線に沿って、今、 日没が 始まる