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約束の記憶 22話

小説の22話です。

『本日の最高キーワードは「疲れた」で、二番目が「眠い」でした。予想される未来は、集中力の低下によるミスの多発。ウイルスへの抵抗力が弱まり、体調悪化。早急に休息が必要です。明日の予定は変更しました‥」

優しい声音で延々と話し続けているのが、梶川の会社の商品のAIだ。

共同経営者である岡山学が開発したAIは、人が発する言葉を全て収集し、そこから予測される未来を割り出す。
見過ごしがちなアイデアは拾い出し、有効に活用し、ネガティブな未来は回避する。

助言するだけでなく、スケジュール管理と栄養管理も全自動なので、食べたいものが食べれないこともあれば、仕事をしたくても強制的に休まなければならない。

集中力が低下したまま、だらだら業務をこなすことがなくなった分、勤務時間を減らすことができ、会社に対する不満も激減した。

梶川は新商品の発売を控えていて、やることが山積みだった。

「こんな時に休めるか。自由なんだか不自由なんだか、わかんねーなー」

ぶつぶつ言ってると、秘書の直美が慌ててそばにやってきた。

「社長、これ以上ストレス値が上がると強制的に別荘地送りになるか、入院になってしまうので、ほどほどにして明日はお休みになってくださいね」

「はいはい。あとは学に任せておくよ」

共同経営とはいえ、自分の方が上の立場ではじめたのに、会社が軌道に乗ってきたら、あからさまに学のほうが上になった気でいるのが癪に触る。

休むのが嫌なのは、会社を乗っ取られるのではないかと、不安になっていたからだ。

何もなかったときは、何も怖くなかったのに

失いたくないものができると
人間は弱くなるのか

昔の方がよく笑っていた気がする

俺の幸せはなんなんだろう

つづく


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