約束の記憶 16話
小説の16話です。
★登場人物
浅倉もみじ 保育士
森田かずは もみじの保育園に息子が通っていた
★
「どうしたんですか?みなさんお揃いで」
張り詰めた空気と、朝早くから人が集まっているのをみて、遠慮がちにかずはが聞いた。
「うん‥ちょっとね。かずはさんこそどうしたの?」
明子の踏み込まないでねという含みを察したかずはは、ふふっと笑った。
「もみじさんどうしてるかと気になって、会いにきたの。ちょっとお借りしまーす」
と、かずはは、もみじの腕を掴んで、外に出た。
「顔色悪いけど大丈夫?」
もみじは頭が混乱していた。
すっごくうれしいはずなのに、いけないことをしたような気もする。
「びっくりすることが、一気にやってきて。今は何も考えられない」
「そうかぁ。じゃあ、とりあえずお茶飲みにいこう!」
言われるがままに、かずはについていくと、以前一緒に行った古民家のお店だった。
「やっぱり、ここは落ち着くわ、みかん食べる?」
こたつに入って、みかんを手渡してくれた。
あの時と同じだ。
「あのね。前ここにきた時に話してくれたこと覚えてる?お椀のこと」
「あー津軽塗りの話?探していたものがフェイクだったっていう」
「そう、昔それを作った人がいたけど、今は誰もあの色を出すことができなくて、みんなあきらめてた。でもね、実はできるんじゃないかと思って、密かに試していたの。そしたら‥」
「できちゃった?」
「そう」
「おめでとう!!すごいじゃん!!」
飛び上がってハイタッチの手を出してきた。
喜んでいいことなんだと、おずおずと手を合わせた。
「すごいことをやったのに、うれしくないの?」
「なんか微妙です。うれしいはずなのに、いけないことをしたような気になってます‥」
「なんで?いけないことなの?」
「何百年かけてもできなかったことを、はじめて一年足らずの私ができてしまったことが、気まずいんです」
「なんで?」
「なんでって。ただの偶然かもしれないけど、そんな偉業を私がやってしまったから、なんかヤバいです」
「まずくないし、ヤバくないよ。それは偶然でもないよ」
からかっている風にみえたかずはが、妙に低い声で言った。
「偶然じゃないって、どうしてわかるの?」
「私にはそれがわかるの、としか言えないけど。もみじさんだからできたことなんですよ」
「なんで?」
答えに困った様子のかずはを追い詰めていると、電話が鳴った。
電話「もみじちゃん、今どこ?」
明子さんだった。
「かずはさんと一緒にいます」
「驚かせてしまったけど、みんな喜んでいるのよ。待ってるから後できてね」
「あっはい、後で行きます」
電話を切って、ふぅとため息をついた。
「ねぇ、どうしてそんな暗い顔になるの?喜ばしいことなんじゃない」
「いや、なんか怖いんです」
「なんで?命取られるわけでもないでしょう?」
「‥‥そうですけど、でももそんなな気持ちになりそうなぐらい怖いです」
「どうして怖いのか、知りたい?」
「‥‥知りたい」
どきどき
「信じるかどうかは、もみじさん次第だけど、じゃあなぜそうなのか話しますよ」
どうしてこのタイミングで、かずはがやってきたのか。
その時はただの偶然だと思っていた。
つづく
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