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約束の記憶 24話

小説の24話です。

「俺は‥怖かったのか‥」

ん?
寝言か?

梶川は自分の声で目が覚めた。

変な夢を見た。

俺は殿様だった。

考えぬいてやったことなのに、思いつきでやっているように見られ、よかれと思ってやることが、ことごとく仇となった。

いつも先代と比べられていた

俺だって
もっとできるはずなのに
結果がでないのは、あいつらのせいだ

俺の前ではいい顔をしていても
裏ではボンクラと呼ばれていることぐらい知ってる

俺だって
好きでこの家に生まれたわけじゃない

おまえらが俺を
理解しようとしないから
うまくいかないんだ

もっとやれる

だれか認めてくれよ

よくやってるって褒めてくれよ

そんなダメなやつじゃないんだ

もっともっとやれる

この時代が俺についてきてないだけなのに

ダメなやつだと
期待に応えられないやつだと

言わないでくれ


そうか


俺は

怖かったんだ

できない自分をできないと認めることが怖くて、自分自身を認めることが出来なかった

今の自分を見つめることが、怖かった

ただ、それだけ

できないことを、何かのせいにしないと、いられなかっただけなんだ

そか

それだけか


胸がギュッと締め付けられた

ただの夢なのに

涙がこぼれ落ちた

夢で泣くなんて‥

胸がすーと晴れていくようだった。

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ティッシュ

ティッシュ

あれ‥ない

そういえば、コーヒーの香りがしない
パンが焼ける香りもしない

もういい時間のはずなのに

そういえば、布団が重い

ん?

ガバッと起き上がった。

「おいおいおい」

そこは以前の梶川の部屋だった。

「はぁ、とうとうこの日が来てしまったのか」

数年ぶりなのに、昨日までいたかのような部屋の様子だった。

「あれも夢なのかよ。長すぎるだろ。また普通の人生をやるなんて、まっぴらだ」

何も考えられなくて、もう一度ベッドに潜り込んだ。

部屋の片隅に、AIのネックレスを見つけるのは、もう少し後のことだった。

つづく


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