約束の記憶 第三章 13話
この物語はフィクションです。
ここまでのお話はマガジンからどうぞ↓
https://note.com/saorin11/m/me6fc5f2a8b10
「せんぱーい・・」
遠くから声がする。
「先輩!」
これは・・双葉ちゃんの声?
目を開けてよく見ると、倒れている人のそばで双葉が叫んでる。
霞んでいるし、遠くてよく見えない。
近寄ってみると・・・・え!!
『私』が倒れている。
倒れている私が見えるということは、私・・・死んだの??
つんつん
双葉をつついてみても、こちらを振り向かない。
そうか、私死んだんだ。
あれだけ死にたくて、やっと死ねたというのに、まったくうれしくなかった。
「私ね…実は先輩のこと恨んでいたの。ワクチン打てって言ってたでしょ。自分は打ってなかったくせに。私が子どもを欲しがっていたのも知ってたし、妊娠の可能性だってあったのに。私はワクチンを打ったせいで、流産して、子どもが産めない体になって。それでも夫と二人で生きていくことを決めたのに、あんたの夫のセクハラのせいで死んだのよ」
忘れていた記憶がよみがえった。
急に家に帰った夜、夫とベッドの上にいたのは、見知らぬ男性だった。
彼は叫びながら泣いていた。
まさかあの男性が双葉の夫だったのか。
ワクチンを打って流産したのは11年前のはず。どうして今?
「あんたもあんたの夫も殺して死のうとしたの。でもね、やめろって言うの。私のお腹にいた子どもがやめてって。一瞬しかいなかったのに、悲しそうな目をして言うの。だから、やめたけど、生きるのが辛すぎて自殺した。あの時死んでてよかった。その後、自殺ができなくなったから」
その数ヶ月後に自殺防止法ができて、自死ができなくなり、地獄の日々がはじまった。
「今回、R空間を使って11年前の再現をして、再び出会ったあんたは私より悲惨な顔をしていたわ。しかも、ワクチンを打っていないことを言って、罪滅ぼしをした気になってたけど、結局騙されてワクチン打たれていたんだから、最低最悪。所詮、あんたも有沢に騙された被害者だったってわけか。かわいそうに」
倒れている私の体に向かって話しかけていた双葉が、振り返って「私」を見た。
R空間ってなに?
「男好きなのに結婚して、子どもを作らせないために、ワクチン打たされて。それでも有沢といるのってなんなの」
夫は結婚前も結婚してからも、いつも優しかった。
ただ、ベッドを共にすることは、ほとんどなかった。
疲れているのかと思っていたら・・。
男性とのことは記憶から消えていた。
子どもがいれば変わるかと期待した。
まさか、ワクチンを打たれていたとは・・・知らなかった。
この事実をあの時全て知っていたら、私の精神は正常ではいられなかった。
今は・・不思議と
「そうだったんだ・・」と他人事に思える。
もう死んだからかな。
双葉には今の私の姿が見えているの?
「夫から逃げて自分から逃げて、人のせいにして、死んだように生きてた」
私が答えると、双葉が近寄ってきた。
「そうね、逃げても何も変わらない。あなたはどうしたいの?」
近づいてきた双葉を見て、何か違和感があった。
「どうするもこうするもないわよ。もう死んでるし。有沢のことはもういいわ。私もあの人のことを愛していたのか。愛したフリをした存在に、私の存在意義を求めていただけかもしれない」
双葉に向き直ってもう一度声をだした。
「私で生きる。もう死んでるけど」
思わず笑った。
何年振りだろう、笑えたのは。
その瞬間、しゅわっと体が消えて、目を開けると、横たわっていた体に戻っていた。
「え?ええええ!!!戻ったの??」
「おかえりなさい、恵さん」
見たことがあるその女性は、にっこり笑っていた。
「あれ?双葉は?え?さっきまでいたのは?」
そうか、この人を見た時から、違和感があったのがわかった。
「双葉は私の双子の妹です。私は一葉といいます」
「そうだったんだ…。私生き返ったの?」
「んー正確にいうと、もともと死んではいませんけど…」
そうなんだ。
生き返って、私喜んでる。
遠くから、足音が近づいてきた。
つづく
(次回は7/20にUPします)
あなたの好きなことが誰かの笑顔にする、ハッピーシェアリングの活動費にさせていただきます!