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約束の記憶 13話
小説の13話です。
★登場人物
浅倉もみじ 保育士 35歳 子ども(たくや 小5 なのは 小3)
★
「うわ、寝過ごした!」
いつもはアラームが鳴る前に目が覚めるのに、もうこんなに明るい!
「やばい、遅刻する」
枕元に置いているスマホを、手探りした浅倉もみじは、固まった。
「あれ、ない。スマホがない」
いつも置いている場所にスマホがなくて、しかも部屋がひんやりして様子がおかしい。
「なんでこんなに寒いの」
息が白くて、冬とはいえあまりの寒さだった。よくみると布団の端が凍ってた。
雪が降っていてもこれほどの寒さは、雪国じゃないとありえない。
カーテンを開けて外をみた。
「え・・なにこれ・・」
見たこともない景色が広がっていた。
「どこ・・」
山々も道も全てが銀世界に包まれていて、屋根からは大きなつららがぶらさがっていた。
部屋を見渡すと、変わりないのに、外の世界が変わっている。
「そっかぁ、まだ夢をみてるんだ」
現実味があるけど、きっとこれはまだ夢の中なんだ。
「おーい、起きたか?」
下の階から夫の声がした。
そうだ、朝食を作らないと、遅刻する!
急いで階段を降りると、夫が朝食の準備をしていた。
夫は一度もキッチンに立ったことがない。
「え?朝食作ってくれているの?」
驚いて夫に聞くと、さらに驚いた夫が
「何言ってんだよ、毎朝のことじゃん。もうできるよ」
えーー夢の中では夫が食事を作ってくれるんだ。
しかも、和食。
「はい、お味噌汁」
「わーありがとう!いい香り」
んー私の方がおいしく作れるけど、普通に美味しいわ。
「ん?このお椀」
もみじが見たことがないお椀に目が釘付けになった。
「あっ気が付いた!津軽塗のお椀」
「え!!高かったでしょう?」
「何言ってんだよ。もみじが昨日買ってきたんじゃん。今日、工房行く前にお椀使うの楽しみにしていたから、早く起きてくるかと思ったら、遅いからさ・・」
そうか、夢の中ではそういうことなのか。
なんかとても大切なことを忘れている気がするけど、思い出せない。ん?
「工房?」
「津軽塗の工房に行くって言ってたよ」
「え??私仕事は?」
「まだ寝ぼけてんの?仕事辞めたじゃん」
「え???ねぇ・・・そもそもここどこ?」
「はぁ?大丈夫?青森だよ」
へーーー???なんで青森。
行ってみたいと思っていたからかな。
夢の中とはいえ、夫が作った朝食を食べて、仕事に行かなくていいし。
いつも朝は飛び起きてから、お弁当作って朝食作って、急いで支度して仕事に行って。
こんなにのんびりした朝は何年ぶりだろ。
夫を見送って、とりあえず工房へ行ってみた。
つづく
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