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【曲からチャレンジ】ラストソング!ショート・ストーリー~天使の休息

☆これは「天使のお仕事」の続編です。今までのお話はマガジンにまとめてますのでどうぞ☆

「アイリスさん!ちょっと!アイリスさんてば!」

どこからか声が聴こえる。

ちょっと、じゃましないでよ。
私はマッサージチェアにもたれて、極上の気分を味わっていた。

「ボスから呼ばれてますよ!アイリスさん!」

インキュバスの声に、びくっと起き上がる。

「ああよかった、ずっと起きないから夢に入ろうとしてましたよ、もう」

バサバサと、グレーの翼が閉じる。

「あんたに夢に入られたら目覚めが悪いわ。ボスはなんて?」

「知りませんよ、そんなこと」

インキュバスは顔も見ずにメールチェックしている。

この前まで揉み手しながら私に同行してたくせに、ちょっと仕事に慣れたらこれだ。

「ほんと、どいつもこいつも恩知らずなんだから」

私はぶつぶつ言いながら、ボスのいる支社長室へととんでいく。

「ボス、入ります。アイリスです」

「おお、アイリス。入ってくれ」

そこにはいつもの、ダンディで穏やかなボスが・・・いなかった。

私たち天使部は、素材は違えどみんな白衣を着ている。ボスなんかはお給料もいいから、いつもつるんと光沢のある白衣を着ているのだが・・・

「ボス、あの・・・その衣は」

「ん?気づいた?」

ボスは嬉しそうに、くるんと一周まわった。

「人の子から献上があった。かりゆしファッションというらしい。いやあ、こいつは涼しいぞアイリス」

私は、その黄色の生地に赤い花が咲き乱れる衣を見つめた。

正直似合ってはいない。と、思う。

「麦わら帽子とやらも献上があった。だからいま人の子の着こなしを研究していたのだ。この本のりりー・ふらんきー風というのに挑戦してみたいのだが・・・」

「あ・・まあ・・・よかったですね。で、何の件でお呼びですか」

これ以上ボスの醜態は見せられると、主への忠誠心がゆらぐ。

「ああそうそう」

ボスは後ろの引き出しから書類を出し、重々しく読み上げた。

といってもかりゆしだからまったく重みがない。

「天使部良縁係チーフ、天使アイリスよ。勤続10年表彰につき、10日の休暇をあたえる」

「え、そんな制度ありました?」

私はびっくりして尋ねた。初めて聞いた。

「いや、まあ制度が出来たのは最近だ。いわゆる、働き方改革というやつが、人の子の社会で起こっておる。我々は、人の子を導く者。よい制度であれば取り入れよとの主のお言葉である」

私は合点がいった。

「なるほど。で、ボスも休暇をとられるのですね」

ボスはニヤリとしかけて、あわてて咳払いをする。

「よく察した。天使アイリスよ。私は30年表彰で30日の休みだ。先見の明は天使の本懐である」

いやいや、その格好のせいで誰でもわかるわ。

「ゆけ。きっちり10日取るのだぞ。天界労働基準法に触れるからな。残務はインキュバスに引き継ぐように」

ボスはそう言うと、雑誌のリリー・フランキーのページを食い入るように読み始めた。ボス、もしかして下界に降りてブイブイ言わせるつもりかしら。

私はあきれて、良縁係のオフィスに戻る。

休めといわれても、何をすればいいのだろう。天界は暮らしやすいところだが、娯楽は特にない。

エデンの園のすもも狩りにいこうかな。

思いつくのはそれくらいだ。

天使の仕事はかなりハードで、呼び出しがくればいつでも動けるようにしておかなければならなかったから、遠出もしたことない。

「休みねぇ・・・」

私は自分の席に戻ると、インキュバスのブースから、高い舌足らずの声がする。

「あっ、センパーイお疲れさまですぅ」

インキュバスもデレデレした顔でブースからでてくる。早くもアンジェリカから手懐けられたらしい。

腹立つなコイツら。

「どうしたのアンジェリカ主任」

私はクールに言い放った。

「ボスから言われて、センパイがお休みの間ここに異動になりましたぁ。ゆーっくり、お休みされてくださいねぇ」

「そうですよ、アイリスさんずっと休んでないんですから」

インキュバスが口を揃える。
誰のせいで休めなかったんですかね?と私が言いたい。


こうなれば、きっちり楽しんでやろうじゃないの。

「たまには下界で遊んできたらいいじゃないですかあ。仕事でしかニッポンにも行ったことないでしょう?」

アンジェリカがそう言って、「るるぶ」を私に手渡す。

ニッポンで、バカンスねぇ・・・

私は、雑誌をパラパラとめくりながら、行き先に頭をめぐらせた。

ちょっと、楽しくなってきた。


久松史奈/天使の休息

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