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【曲からチャレンジ】2日目②ショート・ストーリー ~南風

いま、私はここに来たことを後悔していた。

いわゆる、これはダブルデートってやつみたいだ。まんまとカオリに仕組まれた。

日曜日、遊園地。男女4人。

ああ、ありきたりすぎる。

お弁当を必ずもってこい、なんておかしいとおもったんだ。カオリとはいつもマックで集合なのに。

「じゃあ、お昼になったらまたここでね」

カオリは意気揚々と、狙っていたらしい男の子とアトラクションのほうへ出掛けた。

「あはは、まじでー!」「おもしろーい、それー」

女というものは、すごい。

いつも腕組みポーズに、よく響くアルトの声がカオリの持ち味だ。いまの彼女にはなにかが憑依しているとしか思えない。

そして・・

横を向くと、線の細いメガネくんがひっそりと座っている。ふるふるしているようにも見える。

いやいやいや。

あのね、むしろメガネは好きなのよ。大好物に近いといってもいいの。

でも、こうさ、コミニュケーションを図ろうっていう姿勢がまったく見当たらないのはなぜ?

地球は行動の星よ。動かなきゃなにも始まらないって、本で読んだわよ。

「あの・・カオリと一緒にいた子の友だちなんですか?」

私はおずおずと話しかけてみた。

「ああ、いや、友だちってほどでも・・おんなじゼミで・・」メガネくんがちらりと私の顔を見て、またうつむく。

へえ。

友だちでもないのに、呼ばれてホイホイ日曜日の遊園地にくるのか、あんたは。

私はわざと聴こえるようにため息をついた。用事思い出したふりをして、帰ろう。時間の無駄。

「あの、私・・」私が話し出すと同時に、メガネくんのお腹がきゅう、と鳴った。

「あ・・」

メガネ君の顔が赤くなる。

「ごめんなさい。朝、食べてきてなくて」

「ふうん、そうなんだ」

私は頭のなかで葛藤した。

いかにも中身はお弁当ですよ、っていう袋が彼の前にあること。それに、帰るにしても、またこの荷物を持ち帰らないといけないのもある。

上記2点から、メガネくんに食べさせて荷物を軽くしたいと思った。

「お弁当、ありますよ。食べませんか」

私はぶっきらぼうに紙皿を彼に渡す。メガネくんはパアアと嬉しそうな顔をする。

「あ・・はい!いいんですか?」

「どうぞ」

思いの外、メガネくんの食べ方はきれいだった。とくに箸の使い方が美しい。

うつむいてばっかりだったからわからなかったけれど、意外と姿勢もよく、きれいな顔立ちをしている。

玉子焼、ウインナー、唐揚げ。おにぎりを片手に、にこにこと気持ちいいように食べる。

作ったものを、ここまで美味しそうに平らげられては、悪い気がしないのが人間ってもんだ。

「ああ、美味しかったです」

メガネくんが水筒のお茶を飲み干す。

「あなたも、無理やり連れてこられたんでしょ?大変でしたね。あとは適当に言っとくから、帰っていいですよ」

私が紙皿を片付けていると、

「いえ、僕は帰りません」ときっぱりした声が返ってきた。

「なぜなら、あなたのお友達に計画をお願いしたのは僕だからです」

「はい?」

「ですから・・あの・・僕があなたと遊園地に来たかったんです」

「はあ・・そりゃどうも」

なんとも、気の抜けたお礼だ。

「おなじ大学ですか?ごめんなさい、私あまり男子の顔よく知らなくて」

「はい。講義がかぶること、けっこうありました・・あなたは、いつも楽しそうで、僕は見ているだけでしたから」

恥ずかしい。ゲラゲラ笑いこけてたんだろう。足開いてなかったかしら。

「南風のような人だなって、思ってました」

私はポカン、として聞き返した。

「南風?」

「あなたが近くを通ると、ふわっと温かくなるんです。まわりの空気が変わるんだ」

メガネくんは、お昼を食べて饒舌になったのか、詩的な表現を繰り出してくる。

この人、ぜったいフランス文学専攻してるわ。

私はおかしくなって、笑いだした。

「まあいいわ、悪い気はしないし」


そう言った日から、15年。

私は、娘と息子、そしてあの日より少しふっくらしたメガネくんと遊園地に来ている。

「パパ、ここで私になんていったか覚えてる?」

息子がケチャップで汚したシャツを着替えさせながら、私は聞いた。

正解したら、帰りは運転してあげよう。


「勘弁してくれよ、もう」

パパはほんとに嫌だ、という風に答える。

こいつめ。図太くなりやがって。あの歯の浮くような台詞はどこに置いてきた。


「でもママの玉子焼は世界一だよ」

さあっと、南風が吹いたような気がして、私はちょっと機嫌を持ち直した。

レミオロメン/南風

明日に回そうかと思ったんだけど・・

書けちゃったから出します(笑)


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