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天使のお仕事~合コン編⑤

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「うっわ・・」

パーティー会場は、まるで天界の人物図鑑のようだった。

私たちが普段見慣れている天使や悪魔のほかにも、北欧の神々、巨人たち、中国の仙人たち、龍や白狐たちなど、ありとあらゆる天界の人々が談笑しており、使い魔や式神たちも今宵こそはと主を離れて、びゅんびゅん空を飛び回っている。

「うわー・・こんなに大規模とはおもいませんでしたねぇ」

知った声が聞こえて振り返ると、光沢のある黒のスーツに、赤いハンカチーフを胸元に挿したインキュバスが、緊張した面持ちで立っていた。翼も心なしか萎縮している。

「インキュバス!?あなたも?」

「いや、そろそろ次のパートナーがほしいと思ってたんですよ。リリーさんが俺のデスクにチラシを置いてくれてまして」

「それにしたって、そんな高級な衣をよくもってたわね、高いんじゃないの?」

「あ、これですか?」

インキュバスがパアアッと顔色を明るくする。

「カニさんて方に見立てていただいたんです。いい買い物できました。カニさんの自社ブランドらしくて」

さすがカニちゃん。商売上手だわ。

「しかしアイリスさん、綺麗ですねぇ。現役の天使でその黒を着こなせる人、他にいませんよ。俺が保証します」

白も黒も、私の色。カニちゃんの言葉を思い出し、私は胸が温かくなる。そうだ。私は汚れた堕天使なんかじゃない。

「いきましょうか、アイリスさん。・・あ、入り口は別々みたいですね。では、また」

インキュバスが嬉々として男性用の入口にはいっていく。私はひとり残されて、なんとなくモタモタしてるうちに赤いスカートの巨人族の三人組に先を越されてしまった。

ここに来るまでが目標になってしまって、パーティーで何を話すとかどう振る舞おうとか、まったく頭になかったので、躊躇してしまう。

アイリス、勇気をもちなさい。ひとりでぐっ、と握りこぶしを作っていると、

「どうしたの、小悪魔さん、入らないの?」と声がした。

近くに悪魔の女性がいたのかとキョロキョロしていると、

「君だよ、君。チケットでも忘れた?」

シュッ、と音がしたかと思ったら次の瞬間には、私の前にシルクハットをかぶった、純白のスーツを来た男性が立っていた。

目元がすっと涼やかで、美しいが少し冷たい印象の男性。

「え、私のこと?」

私がキョトン、とすると彼はカラカラと笑った。

「君しかいないじゃない。チケット忘れたなら、僕もう一枚あるよ。小悪魔さんになら喜んで差し上げるけど」

小悪魔って、私のことをいってたんだ。

「私、悪魔部じゃなく天使部所属です。翼も白いでしょ」

ちょっとカチンときた。思わず眉間に皺が寄ってしまう。

「ああ、そうなんだ。いやいや、ごめんよ。ドレスがすごく決まってたからさ、天使だとは思わなかったんだ」

彼が涼しげに笑う。天使だと思わなかったなんて、失礼だわ。いくらドレスに黒がはいってるからって。

「・・そんなにムッとしないでよ。天使か悪魔かなんて、要するにどちら側から見るかだけの問題じゃないか。僕たちはそれぞれ人の子に対しての役割を果たすだけだろ?・・それとも何?悪魔部より天使部の方が格が上っていいたいのかな」

ぐっ、と彼の言葉が刺さった。

「そんな、私はただ・・」


・・ただ、なんだろう?

私は自分が天使だということに誇りをもっているが、悪魔部は悪魔部で大変だ。リスト通りに人の子にあらゆる誘惑をしかけ、行いの査定をしなければならない。

私たちは「ありがとう」と人の子に感謝されることが多いが、悪魔にはそれもない。忌み嫌われる対象にもなる。生半可な気持ちではできないのだ。

悪魔部は、ある意味その道のプロばかり。心を殺して役割を全うしなければならない。

時々、インキュバスみたいに天使部に異動してくる悪魔もいるが、ほんの一握りだ。

「そんな・・格がどうとかなんて・・」

ついつい、声が小さくなる。彼はふっ、と表情を緩めた。

「今のは僕が悪かったよ。君が天使に誇りを持っているのはよくわかった。でもね、僕も僕で自分の仕事に誇りを持っている。人の子の闇の部分を背負う仕事をね。・・まあ、ほら今日はパーティーだ。むずかしい話はなしでいこう」

彼は私に背を向け、入口へと向かいだした。

「あ、あの、あなた悪魔部の人なんですか!?」

何故か私は、聞きのがしてはいけないような気がして叫んだ。

彼はにっこりと優雅に笑って言った。

「まあ、今日のところはいいじゃない、誰でも。パーティーなのに野暮な話してごめんよ。じゃ、君も楽しんで」

何故か私は、しばらくそこから動けなかった。

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