続そののちに、虎と海
その蜘蛛の糸は丈夫で
ひっぱってもぱちんと切れなかったので
もちあげて、くぐって、向こうにでる
夏の太陽はいつまでもつよく
虎はならんで真西から
こっちを見ていた
カーテンはなんども膨らんではまた引いて
あれよあれよと波となった
わたしたちは浅い海の底に寝転んで
さっきまでの会話を咀嚼し消化していた
ときどき水越しに夏雲を確認し、
黙って揺れに身をまかせていた
光はとどいている
そのときも虎はこっちを見ていた
そのことはとても安堵するのだった
おとついのラジオから聞こえてきたのも虎で
きのう帰りに母が持たせてくれたのも虎だった
じぶんに嘘をついたら虎は消えてしまうんだろう
だからわたしたちは嘘をつかないことを決めた
いつまでも満腹で 眠たいけど眠らずに
相変わらず浅い海の底に横たわっていた
光につつまれている
誰もいない台所に転がった南瓜のとなりで
そろそろ 想いは
かさなろうとしている
(了)
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