史上最強の男

銃口は私に向けられていなかった。
それは確かだ。
でも、私の胸は撃ち抜かれ、まだあの場所に留まっている。

うだるような、と千人の作家が書きそうな暑さの真昼間、私はクーラーを求めて彷徨い、実際、数時間は、カフェや百貨店の涼しい風に当たりもしたのだ。けれど直にあの忌々しい頭痛が鎌首をもたげ、私の頭をキリキリと縛るので、仕方なく私は自室のあるマンションへと引き返してきた途中だった。

駅前は2日目の祭りの最中だった。
路面店の賑わいや、浮ついた挨拶、はしゃいだ人々、よそ者の独り者は除け者にされたように感じる。りんご飴やカラフルなスプレーのかかったチョコバナナの甘い匂い、焼きそばやお好み焼きの香ばしい匂いも、祭りに参加する気のない者にとっては、いかがわしい食べ物に過ぎない。

私は早く喧騒から抜け出たくて先を急ぐ。すると、歩道の端で銃を構えた男が立っていた。
ラフなTシャツと短パンという出で立ち。どう見ても2〜3歳にしか見えない小男。その外見であれば真昼間でも自分に疑いの目が向けられないだろうとタカを括っているようだ。彼は、歩道の反対の端にあるビニールプールではしゃいでいる、自分よりもずいぶん身の丈の大きな男に対峙して、プラスチックの銃口から、何でも撃ち抜く弾丸➖成分はH2O➖を撃ち込んでいた。

私はその歩道を通りたかったので、しばらく待ったが、一方的な銃撃はなかなか終わらず、私は仕方なく、スナイパーの彼の背中を通ることにした。小さな彼を見下ろしながら、無言のまま、私は彼の後ろを横切る。すると急に、彼は私のほうを見上げて、小さな顔いっぱいに笑顔を広げた。

確かに、銃口は私に向けられていなかった。けれど私の胸は撃ち抜かれ、心臓は体から飛び出て、祭り会場に落ちた。
まだ、そこにある。

#エッセイ

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