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本を捨てた

本棚を眺めていて、読みたいと思った本を手に取り、しばらく読んでいた。何度も読んだ本。とてもいいことが、たくさん書いてある。その本を閉じて、捨てた。ゴミ袋につっこんだ。

私は本が好きだ。自分でも文章を書いているから、自分の書いた文章をそんな風にされたら、気が狂うかもしれない。売るとか手放すのではなく、私は本を捨てたのだ。そんなこと、これまでありえなかった。なんてことをしたのだろう。なんてことだ。

だけど、私はすっきりしていた。その本が悪いのではない。本当に、とても良い本で、文章も美しいし、人生にとって大切なことが書いてあった。私は、その本に影響を受けたし、その本に出会えてよかったと本当に思っている。

でも、その本を読み返していたとき、私は、私が捨てると決意した人生がそこに書いてあることに気づいたのだ。おしゃれで、人から憧れる生活。優しく、穏やかで思いやりのある家族。シンプルで、誠実な仕事。そういうものが、その本には書いてあった。いっぱいだった。そうしていつも、私は、それが手に入らないと泣いていた。本当にそういう生活がしたかったのではなく、誰かから羨ましがられたいがために、目指さなければならないように思っていた虚栄心の塊を、私は吐き出さなければならなかった。だから、本を捨てた。私は、私の世界を美しくしなければいけなかったから、誰からも認められるものなんて、捨てなければいけなかったから。

本は、捨てないほうがいい。それは、やめたほうがいい。

私は悪者になった。

#エッセイ

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