架空小説書き出し②

 デートで水族館に行く恋人はすぐに分かれるなんてジンクスがあったが、あれは照明に使われる水銀灯が顔色を悪く見せるからだという話を聞いたことがある。とはいえ、最近のオシャレな水族館は水銀灯なんて使っていなし、むしろ幻想的な空間をウリにしているところも多い。なにより、若い子たちはそんなジンクスを気にしたりしないだろう。
 都市型の水族館とでもいうのだろうか。都内の大型商業施設に併設された「ゆめはら水族館」が今日の仕事先だった。平日の午前中だというのに家族連れやカップルの来館者の列が出来ており、本当にうらやましい限りだ。

「すみません……。本日お招き頂いております、津留原水族園より参りました宇山という者ですが……あ、はい、そちらから、はい、ありがとうございます……。」

 入り口の男性職員に案内してもらい、目立たないスタッフゲートから中へ入る。私の職場とは異なりバックヤードも小綺麗な内装で、慣れないパンプスがカツカツといい音をたてた。

ー『ゆらめく』


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