秘伝のダシ

店主「ん~駄目だ、こんなんじゃ全然だめだ!」

妻「あんた、そろそろ休んだ方がいいよ、もう3日も寝ないで飲まず食わずじゃないか、あたしゃ心配だよ」

店主「うるせぇ!これくらいやらねぇと究極のラーメンのスープは作れねぇんだよ!」

妻「そうなのかい?ちょっと味見させておくれ、ズズッ、・・・あら!あんた美味しいよコレ!ズズッ、ほんとに美味しい、あとひく味よズズズ~」

店主「どんだけ味見してんだお前は!寸胴ごと飲み干す気か!」

妻「ごめんなさいお腹減ってたもんだから、でもこのスープの何がいけないんだい?」

店主「これだから素人は。いいか、こんな豚骨スープありきたりで面白くもクソもねーんだよ!」

妻「でもうちは、食材だけは他に負けないように野菜は有機野菜を使ってるし、お肉だって養豚場から仕入れて」

店主「そんな事は今時どこの店でもやってんだよ!大切なのは他が思いつかない発想なんだ!発想が斬新な店だけが生き残るんだよ!」

妻「じゃあその斬新な発想を考えればいいじゃないのさ」

店主「それが浮かばねぇからこうやって寝ずに悩んでんだろうが!お前が隣で食っちゃ寝してる間に~!」

妻「あ~ごめんなさい~モグモグ、悪気はないから~モグモグ、許してちょうだい~モグモグモグ」

店主「このやろう~言ってるそばからモグモグしやがって~!今日という今日は勘弁ならねえ!」

妻「ごめんなさいモグモグ、あなたが全然かまってくれないから食べることが生きがいになっちゃってモグモグ」

店主「このやろう~亭主がこんなにやつれて痩せ細ってんのに自分だけブクブク太りやがって~覚悟しろっ!」

妻「きゃあ~ぶたないで!ぶたないならあたしの事、煮るなり焼くなりしていいからぁ~~~」

店主「・・・え?お前いま何つった?」

妻「だから煮るなり焼くなり好きにしていいって」

店主「それだ!!」

妻「え?どれ?ちょっとどうしたの?お鍋にお湯沸かして、またスープ作り?」

店主「そうだよ、よく分かったな」

妻「そりゃ分かるんだけど、中に材料何にもいれてないじゃない、何でダシとるの?」

店主「そんなの決まってるじゃないか、早く服ぬげ」

妻「やだあなた、久しぶりすぎて・・・」

店主「何を勘違いしてんだ、早く服を脱いで鍋に入りやがれ!」

妻「きゃあ~ちょっとあなた乱暴よ~!嫌いじゃないけど~、サブーン!」

店主「どうだ湯加減は?」

妻「うん、適温よ」

店主「じゃあ、朝までそのまま浸かってろ」

妻「どういう事?」

店主「煮るなり焼くなりしていいんだろ?だからお前を煮てダシをとらせてもらうのよ!」

妻「なるほど斬新ね~、それにあたしはただお風呂に入ればいいだけだし楽ちん楽ちん♪ねぇあなた、バスロマン入れてちょうだい」

店主「うるせぇ~な!」

さぁ、これからこのラーメンが飛ぶように売れまして連日行列の大騒ぎ。ただ、最初は太っていたカミさんも毎日ダシをとられてみるみる痩せてまいりまして

客「ん?ちょっと店長!今日のスープいつもと違うんじゃない?」

店主「いや、そんな事はありませんが」

客「そんな事あるよ!いつもは超こってりしたコラーゲンたっぷりの豚骨スープだったでしょ?今日はまるであっさりの鶏がらスープになってるじゃない!」

店主「申し訳ございません、ちょっとカミさんの調子が悪くて」

客「いや店長、これは店長が作ったスープの問題でしょ!カミさんをダシに使っちゃあいけないよ」

(終わり)


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