その船の名前は「映画館」。岡田、「ヴェンダース」に出会う

3/19。
ユーロスペースで『東京画』と『都市とモードのビデオノート』
3/20。
東京写真美術館で『夢の涯てまでも』

2日間連続でヴェンダース映画を観た。

『東京画』

小津安二郎を敬愛するヴェンダースが、80年代の東京を訪れ、小津の映画から時が経った東京を見つめる。
笠智衆や厚田雄春のインタビューからヴェンダースの小津への深い愛が伝わって、この人も映画作家である前に、一人の映画好きなんだなと思った。

ヴェンダースが小津に出会ったのはニューヨークの映画館で、ボロボロのフィルムで観たのが最初らしい。
海外に知られる日本の映画監督達、黒澤明や溝口健二とは違って、小津安二郎という名前は海外では認知されていなかった。
それは日本の配給会社が小津の映画はあまりにも日本的すぎるから海外では売れないだろう。という判断かららしいが、ヴェンダースにとっては、その日本的という事が魅力的で、彼が目指す映画そのものだった。

小津の映画の中の日本に憧れていたヴェンダースは、あまりの変わり様に驚き、戸惑う。しかし、自分が見つめなければいけないものはこの喧噪の中にこそあると信じて、カメラを回し続け、様々な場所を巡り歩く。
駅で泣き崩れる子供を見て、小津の映画の中の子供たちと重ね合わせるのがとても印象に残る。様変わりした日本に戸惑いっていたけど、子供たちだけは変わらず小津の映画のまま。その事にヴェンダースは安心しているように思えた。

途中、東京タワーでヘルツォークと映画の未来について語り合う。
この地球上にもはや撮るべきものはないというヘルツォークに対して、ヴェンダースはそんな地球だからこそ撮るべきものがあると言う。
凄惨で混沌とした世界をただ否定するんじゃなくて、だからこそ映画の中だけは理想を写さなければならない。そんな哲学を持って彼はカメラを回しているのかもしれない。
ふと、『perfect days』の平山さんを思い出す。彼は『東京物語』の平山家の子孫なんじゃないだろうか? まだ平山というヴェンダースが魅せられた日本は残っているぞ。そう言いたかったのかな。

『都市とモードのビデオノート』

デザイナーの山本耀司に密着したドキュメンタリー。
面白いなと思うのが、フィルムとビデオの二つのカメラを使って撮影していること。そしてフィルムの映像の中にモニターに映したビデオ映像を映し出して、二つの映像を共存させている。
それで面白いのが、フィルムよりビデオの方が被写体との距離が縮みやすくなるのだ。
しっかり三脚を立て、まさにカメラ。という出立のフィルムはやや警戒される。
でもビデオは親近感があるのか、その警戒が次第になくなっていく。

今まで、フィルム以外のメディアに対して敵対に近い感情を持っていたヴェンダースにとって、(都会のアリスとか)これは衝撃的なこと。
劇中で、彼はビデオの存在を認めざるを得ないことに気づく。

そして今は。スマホのカメラは、ビデオよりも警戒されず、被写体との距離が近い。撮られることも、撮ることも安易になった時代。
フィルムの時代の重みは無くなってしまった。撮ることに責任を伴わず、一方的な視線を向けやすくなってしまった。
でもこんな時代だからこそ、人を撮ること、カメラを向けることを考えないといけない。そんな気がする。

『夢の涯てまでも』

東京写真美術館で上映されると聞いて、行きました。
4時間以上の映画を観るのは久しぶりで、普段の映画体験とは一味違ってくる。
今日は4時間の映画を観るぞ!とふんどしを締めて家を出るから、気分的には宇宙船に乗る飛行士。
電車に乗って、恵比寿駅に降りる。美術館までの道中、「恵比寿スカイウォーク」なるものを通る。その道がまるで宇宙船に乗るまでの搭乗口に思えて、さらにワクワク。


僕はこれから映画館という名前の宇宙船に乗って世界中を旅するんだ!と妄想してしまう。

美術館に着いて、チケットを買って席に着く。館内が暗くなり、リフトオフだ!!と心の中で叫ぶ。

ヨーロッパ、台湾、日本、オーストラリアと、世界中を旅して撮られたこの映画は、まさに究極のロードムービー。
その映画を観てる僕らも世界中を飛び回っているような気分。たった2000円で世界を旅することが出来るって、めちゃめちゃお得じゃないですか?

登場人物達は、車に乗り、電車に乗り、飛行機に乗り、船に乗り、とにかく色んな乗り物に乗って移動していく。
それが楽しくて、僕が座っている座席が色んな乗り物に乗っているように思える。

この映画はディストピアなのだが、だからこそというか、主人公達は愛を求める。
主人公は愛する男を追って、またその主人公を愛する別の男が主人公を追って、、、
みんな愛を求めている。
ヴェンダースは、『ことの次第』のセリフにもあったように、死の物語に打ち勝つことができるのは愛しかないと信じているのだと思う。

ラスト、ついに地球を飛び出して、宇宙に行く。僕らはついに地球を飛び出して、宇宙に旅立ったのだ。

今年は『perfect days』に始まって、ヴェンダースに出会う年になる。いや、もうなっている。


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