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都会の端っこの連想


難波中、ってエリアがある。大阪の人でも、特に難波に馴染みのある人しか知らなかったりするのかも。とりたてて何があるって感じもしないし。東京の地理は詳しくないけど、東新宿駅から東側、抜弁天通りの辺りを歩いた時はなぜか少し似た雰囲気を感じた。
要は繁華街の端っこと言えば良いのか、そういう土地にとても惹かれる。繁華街とはまた違った、生活感と混じり合っているなんだか侘しい殺伐、というか。

しかし難波中、昔から漠然と好きなわりにちゃんと知らない気がして、この前はじめて散歩してみた。するとやっぱり良い街で、足が棒になるまで無我夢中で歩いてしまった。
市民体育館みたいな施設があったので入ってみたら、地下にアイスリンクがあって、一階からガラス窓越しに見下ろせるようになっていた。恐らくは子どもたちを滑らせてるのであろう奥様方に混じって眺めた。
老若男女、夥しい人が、特に構い合うこともなく自由に滑っていた。それは妙な感じのする光景だった。見えるのはアイスリンクの一部で、人の群れがスイスイと滑っていくと、また別の群れが眼下に流れ込んでくる。大学サークル風の若者たちもいれば、おっかなびっくりの中年方も、小さな子も。上手い人も、下手な人も。
なぜかロイアンダーソンの映画を思い出した。こんなところで、こんな休日を過ごすという都市生活がある。それを生きてる人たちがいる。
体育館を出たら、目の前にカップル風の、ラフな格好の若い男女がいた。女の子が、少し体を捻りながらぴょんと跳んで見せる。アイスリンクの上での滑走と、地面での歩行の違いを体感していたんだろう。

繁華街と生活臭のミックスされた空気感ってとても良い。なんか知らんがとにかく良いと思う。
例えばウシジマくんではゲイくん篇が俺は圧倒的に好きなんだけど、あれもそういう匂いを濃密に感じて好きなんだし、東心斎橋と歌舞伎町にある24時間営業の喫茶店もそれぞれ朝によく行った。夜の街で働いた人たちの、一日の終わりの匂い。
いつだったか、あるよく晴れた真夏の朝、ミナミで見かけた光景。草臥れた兄ちゃんが二人、長い髪のセットも崩れて、下はスーツだが上はシャツも脱ぎ肌着姿。彼らがひっそりしたホストクラブの軒先に水を撒いていた。打ち水だったのか、ゲロを洗い流していたのかわからない。彼らの姿、閑散とした朝の街の道路にのぼる蜃気楼、ときどき美しく思い出す。

難波中には、生まれてはじめて行ったライブハウスがあった。過去形なのは今はもうないからで、行ったのは小学生の頃とかだから、いまいちどんなところだったかも思い出せない。
当時通っていたボクシングジムのトレーナーたちがなぜかこぞってバンドをやっていて、彼らの催すライブに行ったのだった。今も昔も音楽について人並み以下の知識だから、どういうジャンルの音楽だったのか定かじゃないけど、たぶんパンク。演者も客もやけに破壊的なノリだったし(偏見)。
初体験の轟音に気圧された。そんな俺を他所に、二つ下の弟はダイブしていて、それにもビックリした。俺は未だに音楽ライブというものをちゃんと楽しめたことがないような人間で、乗ったり踊ったり上手くできた試しがないんだけど、弟は乗るどころか趣味で音楽をやっていてステージに立ったりしてるので、子どもの頃の性格ってあんまり変わらないのかもしれない。

生まれてはじめて行った風俗も難波中にあったと思う。それもあまりに昔だし、かつあまりに緊張していたから記憶が定かじゃないけど、多分あの辺りの店だった。店名もシステムもすっかり忘れたけど、店の入ってる雑居ビルの狭い階段で綺麗な女性とすれ違ったのはなぜかよく覚えてる。
事が済んだ後、担当してくれた方と話していて、お年玉で来たという話をした。今から思えばなんでそんな話するんだというか、子どもだったにしてもアホが過ぎるって感じだが、それを面白がってか憐れんでか、いくらかまけてくれた。これは絶対にまた来て返さないと、と思ったのだけど、結局再訪したか否か。全然思い出せない。行ったような気もするし、行かなかったような気もする。


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