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エポックタイムズ(大紀元)への提言

懐かしい顔が出てきたのでつい最後まで観てしまった。
オルタナ系のニュースメディアとしては出色のエポックタイムズ。
しかし、グラムシのこの扱いはまずい。エポックタイムズの出資者、法輪功が、江沢民の下で強いられた苦難を思えば、彼らが”コミュニズム”を心底から嫌悪する気持ちはわかる。だが、冷静になってほしい。グラムシが命をかけて対峙したのは江沢民下の中国共産党に通じるファシズムであり、彼を獄中死させたのもグローバリスト、国際金融カルテルを背後にするファシスト達ではなかったか。


グラムシの政治理論は社会科学として提示されている部分が大きい。このビデオの中では、グラムシの政治理論がドイツから亡命したフランクフルト学派を通じて米国のコミュニズムやコミュニティー運動に継承され、それがオバマを誕生させることになった経緯が描かれている。この経脈自体はおそらく間違っていないが、ビデオでは腐敗したオバマ政権の思想源流をなす邪悪なコミュニズムの理論家としてグラムシが描かれている。グラムシ政治理論のパワーは確かに絶大である。しかし、それは社会科学が有する普遍的な力なのであって、それを悪用・濫用する者があったとしても、それは当該の社会科学理論やその創始者が邪悪であることにはならない。


先の米国大統領選挙とその後の動向について、最も冷静に事態の推移を報じていたのがエポックタイムズであった。その功績は高く評価したいが、他方、同紙が立脚する保守対左翼の政治的対立軸は、米国的文脈のバイアスがかかったジャーゴンであり表層的に過ぎる。そして、このビデオのように、中国共産党や米国民主党の腐敗・堕落を、マルクスやグラムシ(スピノザ思想の継承者でもある)などコミュニズム思想の正当な継承者たちに帰責するのはやめるべきだ。


マルクスやその理論の研究において、戦後日本は世界最高水準の成果を誇ってきた。駒場の俊英たちが廣松渉や見田宗介が語るマルクスや西部邁が語る反マルクスで学問の洗礼を受け、吉田キャンパスでは池田浩士に(本ビデオにも登場する)ルカーチを、大澤真幸に社会科学のイロハを学んだことに象徴される日本のエリートたちの精神的ミリューは、かなり独特のものだろう。


しかしいずれにせよ、グラムシのこの描き方は、マルクス主義についてそうしたある程度肥えた目持つ我々日本人を満足させるものではなく、むしろエポックタイムズ社の社会認識の水準に疑問を生じさせかねないものである。コミュニズム運動の思想的源流とその今日的な到達を正しく認識することなく俗流の共産主義を語ることを専らとするならば、それはエポックタイムズ社、法輪功が協力関係を築くべき市民・大衆における分断を招くことにもなるだろう。これだけの影響力を持つに至ったエポックタイムズ、旧勢力によるマネーの力を使った背乗りのリスクは十分に認識しておいたほうが良いのかもしれない。



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