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絶対王政期から1980年代まで~クラシック音楽ベスト100

 クラシックを聴きたくても、曲が多すぎて何から聴けばいいか分からない、という人は多いのではないか。ひとえに「クラシック」と言っても、18世紀以前から20世紀まで範囲は数百年に及び、内容も多岐にわたる。現代で例えるならば、ビートルズやレディオヘッド、乃木坂46を一纏めにして「ロック」と呼ぶぐらい乱暴な括り方なのだ。
 そこで今回は作曲者の生年順にベストを並べ、流行の変遷や楽器の扱いがどのように変化していったかを、何となくでも追えるように作ってみた。動画も貼っている(ページが重くなって申し訳ないです)ので、50年や100年スパンで曲を聴き比べてみると違いが際立つのではないだろうか。好きな年代や作曲家が分かれば、あとは好きなバンドのアルバムを集めて掘り下げていくのと同じ要領で聴いていけば自ずと詳しくなれるはずである。
 また、玄人の方から見ると「なんでこの曲を入れてあの曲を外す!?」といった意見が出るだろうし、古楽・十二音楽派など一部の流派を省いたのが分かると思う。申し訳ないが、そういうのは聴いた上で好みに合わないので外している。

1. J・S・バッハ(1685-1750 ドイツ):マタイ受難曲
1727年作曲。バッハは何で弾いても、どうアレンジしても、バッハの曲だと分かる。そういった部分が300年間演奏され続けてきた所以だろう。

2. J・ハイドン(1732-1809 オーストリア):交響曲第104番「ロンドン」ニ長調
1795年作曲。ロンドンで作曲しただけで、別にロンドンを表してるわけではない。構造や主題がすっきりと分かりやすく纏められた古典派交響曲の完成形。ハイドンはミサ曲やオラトリオなども素晴らしいが、コンパクトな本曲を選ぶ。

3. W・A・モーツァルト(1756-91 オーストリア):フルートとハープのための協奏曲 ハ長調
1778年作曲。フルートとハープとの相性の良さが絶品で、この組み合わせを発見したのはさすがの慧眼と言う他ない。

4. モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調
1789年作曲。モーツァルトが特に愛着をもっていた楽器をメインにおいた曲。晩年特有の透明感に満ちた作品。

5. L・V・ベートーヴェン(1770-1827 ドイツ):ピアノ協奏曲第4番ト長調
1806年作曲。穏やかなピアノ独奏から始まる点が当時としては画期的だった。

6. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」変ホ長調
1809年作曲。「皇帝」は本人が付けた名ではなく通称だが、堂々とした曲調に合っていると思う。最初から最後まで聴きどころ満載で、ベートーヴェンのみならず古今のピアノ協奏曲中でも屈指の名作。

7. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ハ短調
1822年作曲。21番「ワルトシュタイン」やショパンの先駆のようにメロディアスな30番も捨てがたいが、ピアノ・ソナタで一曲選ぶなら本作。無骨な主題を見事に発展させていく第1楽章と遠くジャズ的な要素まで含んだ変奏曲の第2楽章とが対照的な傑作。

8. G・ロッシーニ(1792-1868 イタリア):オペラ「セミラーミデ」
1823年作曲。歌の魅力と言えばこの人。ベートーヴェンとの面会を切欠に作曲され、重厚な管弦楽法にその影響が窺える。歌唱技術の難しさから20世紀後半になるまで上演されなかったが、現在では最高作の一つとして認知が進んでいる。

9. F・シューベルト(1797-1828 オーストリア):ピアノ三重奏曲第2番変ホ長調
1827年作曲。転調の多さが古典派からロマン派に入り始めていることを如実に示す。第2楽章がキューブリックの「バリー・リンドン」に使われたことで有名。

10. シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調
1828年作曲。死の直前に書かれたとは思えない穏やかかつ澄み切った境地と、『まだ死にたくない』と訴えるかのように時折顔を出す暗黒の激情との対比が素晴らしい。まさに「天国的(©シューマン)」な曲調。

11. G・ドニゼッティ(1797-1848 イタリア):オペラ「愛の妙薬」
1832年作曲。ともかく重唱の楽しさに尽きる。様々な声の掛け合いがこれほど楽しく面白いオペラは無い。

12. H・ベルリオーズ(1803-69 フランス):レクイエム
1837年作曲。ティンパニ16台を含む当時としては破格の大編成。怒りの日、涙の日は打楽器のユニゾンまであり演奏効果は絶大。

13. ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」
1846年作曲。ベルリオーズ以前と以後でオーケストラの色彩感覚は大きく変化する。本作ではそのカラフルな管弦楽法が存分に味わえる。

14. F・メンデルスゾーン(1809-47 ドイツ):チェロ・ソナタ第2番ニ長調
1843年作曲。古典派的均整美とロマン派的旋律美の融合が良い。優美な始まり方から引き込まれる。チェロソナタ史上に残る逸品。

15. F・F・ショパン(1810-49 ポーランド):舟歌 嬰ヘ長調
1846年作曲。ショパンから一曲選ぶのは至難の業だが、個人的な好みだとこれ。技巧と構成美の高度な止揚。他にはポロネーズ5,7番、ピアノソナタ第3番、バラード1~4番なども良い。

16. R・シューマン(1810-56 ドイツ):歌曲集「詩人の恋」
1840年作曲。名曲揃いの失恋ソング集。それまで単なる伴奏だったピアノに歌の情景を喚呼する役割と表現力を付与しているのがまさにロマン派であり、シューベルト以後の楽曲。

17. シューマン:ピアノ三重奏曲第3番ト短調
1851年作曲。晩年自殺未遂を起こし、発狂するこの作曲家の病的な暗さがよく出ている一作。その危うい感覚にたまらなく惹かれる。

18. F・リスト(1811-86 ハンガリー):『詩的で宗教的な調べ』より第3番「孤独の中の神の祝福」
1853年作曲。最も好きなピアノ曲の一つ。ゆったりとした出だしから徐々に高揚していき、迎えるカタルシスが堪らない。

19. R・ワーグナー(1813-83 ドイツ):舞台神聖祝典劇「パルジファル」
1882年作曲の遺作。人柄は最低だが『聖性』を音楽で最も表現し得たのはワーグナーと思う。「ローエングリン」、「トリスタンとイゾルデ」や「神々の黄昏」とも迷ったが、聴きやすさで本作を選ぶ。

20. C・V・アルカン(1813-88 フランス):短調による12の練習曲
1857年作曲。ピアノ1台でオーケストラ全体の音を再現しようと試み、単なる超絶技巧を超えて、グロテスクの域にまで到達したピアノ曲集。馬鹿馬鹿しすぎて聴いてて独特の面白さがある。

21. G・ヴェルディ(1813-1901 イタリア):オペラ「椿姫」
1853年作曲。一度聴けば忘れられない、輪郭の明確な名旋律が洪水のように最初から最後まで流れ続ける。

22. ヴェルディ:オペラ「ドン・カルロ」
1866年作曲。主役(テノール)が実は愚か者で、実際の音楽的主役はバス、バリトンというヴェルディ作品のお約束が最も分かりやすく凝縮されている。苦悩のぶつかり合い、白熱する重唱、そして最後にソプラノの一大アリアが炸裂。名作!

23. ヴェルディ:オペラ「オテロ」
1887年作曲。ワーグナーの影響をも取り込んだヴェルディオペラの最終到達点であり、その濃密さは全オペラ史上類を見ない。冒頭、「嵐の場面」でオテロが登場する第一声の素晴らしさから澱むところなく最後まで突っ走る。

24. C・フランク(1822-90 ベルギー)ヴァイオリン・ソナタ イ長調
1886年作曲。アンニュイという言葉は、本作の冒頭部にこそ相応しいのではないか。午後の微睡を思わせる1楽章からきわめて熱情的な終楽章まで一分の隙も無い傑作。

25. A・ブルックナー(1824-96 オーストリア):交響曲第5番 変ロ長調
1878年作曲。ワーグナーの弟子筋だがクラシックの中でも特に好き嫌いの分かれる作曲家。全てをフィナーレのために積み上げていくような構築性がどの曲にもあり取っつきにくいが、一度ハマるととても美しく聴こえる。

26. ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調
1890年作曲。終楽章クライマックスは、第1楽章から第4楽章迄の主題が同時に奏でられ、古今の交響曲史上類例を見ない驚異的なスケール。音楽から巨大な背後世界が立ち昇る様。

27. J・ブラームス(1833-97 ドイツ):ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
1878年作曲。恐らく「クラシック」という言葉から多くの人が連想する音楽に最も近い響きがブラームスの楽曲ではないだろうか。古典派に戻ったかのような渋く重厚な響きの中に、仄かに香るロマン性がどの曲も魅力的。

28. ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調
1881年作曲。「ピアノ付き交響曲」と揶揄されることもあるが、ピアノと管弦楽との調和が味わい深い。ところどころ挟まれるピアノのフレーズが狂死した師匠格シューマンの残滓に聴こえなくもない。

29. ブラームス:交響曲第4番 ホ短調
1885年作曲。周到な構築性と古典への志向、夕暮れ時や秋の訪れを連想させる哀愁のハーモニー。これぞブラームス!な一曲。

30. ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調
1891年作曲。この作曲家特有の渋く枯れ果てた佇まいが大変素晴らしい。冒頭のどことなく寂しさを感じさせる旋律がまさにブラームスならでは。

31. C・サン=サーンス(1835-1921 フランス):クラリネット・ソナタ 変ホ長調
1921年作曲。仏ロマン派の大家が晩年に到達した、澄み切った透明感が心地よい。他の代表作としては「動物の謝肉祭」、交響詩「死の舞踏」、序奏とロンド・カプリチオーソ等。

32. A・ドヴォルザーク(1841-1904 チェコ):弦楽五重奏曲第3番 変ホ長調
1893年作曲。音楽史に残るメロディメーカー("やつの屑カゴからメロディを拾い出して交響曲を書けるだろう"©ブラームス)として知られたドヴォルザークの特性が最も見事に表れているのは室内楽だと思う。弦楽四重奏曲第13、14番等も良い。

33. E・グリーグ(1843-1907 ノルウェー):ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調
1887年作曲。出だしから惹き付けられる。国民楽派を代表するヴァイオリン・ソナタ。

34. G・フォーレ(1845-1924 フランス):レクイエム
1900年作曲。死への恐怖や「怒りの日」を欠く斬新な構成は、死を永遠の安らぎと捉える価値観によるもの。ヒーリング音楽の先駆けともいえる。

35. フォーレ:ピアノ五重奏曲第1番 ニ短調
1905年作曲。夜空に浮かぶオーロラを思わせる冒頭からフォーレらしい静謐な楽想が続く。

36. L・ヤナーチェク(1854-1928 チェコ):オペラ「利口な女狐の物語」
1924年作曲。西洋のオペラ作曲家にしては珍しく、輪廻転生や諸行無常の思想が作品に色濃く流れているのがヤナーチェクの特異性。「死者の家から」「カーチャ・カバノヴァー」なども良いが、代表作は90分と短い時間にエッセンスが凝縮された本作。

37. ヤナーチェク:シンフォニエッタ
1926年作曲。村上春樹の「1Q84」で言及されたことにより知名度が少し向上しただろうか。同じモチーフを繰り返しながら次第に枝葉が足されていって別の音楽へと変貌するヤナーチェク特有の発展性がよく表れた一作。

38. ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」
1923年作曲。何とも奇妙で強烈に耳に残るメロディと展開はヤナーチェクならでは。弦楽四重奏という数百年に及ぶジャンルの中でも2番と共に際立つ特異性。

39. ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第2番「内緒の手紙」
1928年作曲。同上。

40. G・プッチーニ(1858-1924 イタリア):オペラ「トゥーランドット」
1924年作曲。完成する前に作曲者が亡くなったため竜頭蛇尾感はあるが、美メロてんこ盛りの有名曲連打と極限まで拡張された大管弦楽の豪華さに、途中までは真に圧倒される。

41. G・マーラー(1860-1911 オーストリア):交響曲第4番 ト長調
一見すると古典的な構成の中に様々な「遊び」が盛り込まれていて面白い。そもそも鈴で始まる冒頭から人を食っている。

42. マーラー:交響曲第7番「夜の歌」ホ短調
1905年作曲。夜にも色々あるが本曲は魑魅魍魎が蠢く闇の世界。それでいて終楽章で一気に楽曲の構造を破綻させるマーラー的混沌も堪らない。

43. マーラー:交響曲第9番 ニ長調
1909年作曲。自身の心臓病など死を目前にして恐怖に怯え、もがくような音楽。心臓の鼓動を準えた脈動から始まる第1楽章の混沌は、マーラー作品中でも白眉。

44. マーラー:交響曲第10番 嬰へ短調(未完)クック補筆完成版
1911年作曲。第1楽章冒頭には月並みだが「幽玄」の2文字が思い浮かぶ。トーンクラスターまで使用されており現代音楽の先駆となった。

45. C・ドビュッシー(1862-1918 フランス):交響的素描「海」
1905年作曲。「海」の描写ではなく、「海の印象」の描写と考えると捉えやすい。一音一音の瞬間の移り変わり、ハーモニーの重視。これぞ印象派の本懐であり、音楽史の転換点。

46. ドビュッシー:前奏曲集第1巻・第2巻
1913年作曲。風景を描写するのではなく、風景の色彩・香り・温度等をスケッチした珠玉の結晶群。より革新的なのは第2巻。個人的ベストは第1巻第10曲「沈める寺」、第2巻第12曲「花火」。

47. ドビュッシー:フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ
1915年作曲。珍しい楽器編成から見出した典雅な響きが全編美しい。音と音の間を楽しむような作風は雅楽など東洋文化にも通じる。

48. R・シュトラウス(1864-1949 ドイツ):オペラ「サロメ」
1905年作曲。ヨカナーンの生首に口づけをして恍惚とするフィナーレの背徳美には聴く度に鳥肌が立つ。音楽による官能表現の極致。

49. シュトラウス:オペラ「薔薇の騎士」
1910年作曲。ホフマンスタールによる台本、歌と管弦楽、Rシュトラウスのオペラはどれも各要素の統一感が素晴らしいが中でも本作の完成度は群を抜く。他には「エレクトラ」「ナクソス島のアリアドネ」「影のない女」「アラベラ」「ダフネ」「カプリッチョ」等も一聴する価値あり。

50. シュトラウス:23の独奏弦楽器のための「メタモルフォーゼン」
1945年作曲。弦楽器がそれぞれタイミングをずらし独立して弾くことにより、一本の楽器がうねり続けるように聴こえる趣向を凝らした一作。第2次大戦により荒廃したドイツ文化への哀歌。

51. シュトラウス:4つの最後の歌
1948年作曲。逝去の直前に書かれ、死について歌った4曲はどれもドイツ・ロマン派の最後を飾るに相応しい有終の美を湛えている。

52. A・グラズノフ(1865-1936 ロシア):ヴァイオリン協奏曲 イ短調
1904年作曲。フィナーレの楽しさは同ジャンルの中でも屈指。個人的にはクリスマスの雰囲気をラストに感じるので、12月によく聴いている。

53. J・シベリウス(1865-1957 フィンランド):ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
1905年作曲。弦のさざめきをバックにソロが入る第1楽章のかっこよさは特筆に値する。「極寒の澄み切った北の空を、悠然と滑空する鷲のように」©シベリウス

54. シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調
1919年作曲。北欧の湿原に朝もやの中、迷い込んだような印象を受ける楽曲。第3楽章でハ長調に転調する部分は、目の前の靄が晴れて視界が完全に開けたような感動を覚える。

55. シベリウス:交響曲第7番 ハ長調
1924年作曲。演奏時間20分、単一楽章。極限までの切り詰め、そして凝縮。最終的にトロンボーンの神々しい響きが全てを浄化していく。ブルックナーともマーラーとも異なる、交響曲における一つの到達点。

56. R・ヴォーン=ウィリアムズ(1872-1958 イギリス):揚げひばり
1920年作曲。ひばりが飛翔する様を描いた一種の描写音楽だが、独特の物寂しさが英国情緒(適当に言ってるわけではない。昔住んでました)を匂わせて良い。

57. C・アイヴズ(1874-1954 アメリカ):ピアノ・ソナタ第2番「マサチューセッツ州コンコード1840-60」
1915年作曲。ピアノソナタ(普通は独奏)にヴィオラとフルートをぶち込み、手で押さえられない範囲の鍵盤を板で同時に押す(トーンクラスターの先駆け)部分がある、当時の感覚的には思いついても誰もやろうとしなかったぶっ飛んだ発想の曲。とはいえ決してキワモノではなく、大変美しい瞬間のある音楽だ。

58. M・ラヴェル(1875-1937 フランス):ピアノ三重奏曲 イ短調
1914年作曲。駄作皆無の高打率作曲者なので迷うが、この人の真髄は古典的な形式を換骨奪胎した室内楽作品にこそあるのでは、というわけでまず本作を選ぶ。

59. ラヴェル:オペラ「子供と魔法」
1924年作曲。『オーケストラの魔術師』と呼ばれた精妙な管弦楽法が存分に味わえる。他にはバレエ音楽「ダフニスとクロエ」、ラ・ヴァルス、ボレロなども傑作。

60. ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
1931年作曲。1920年代からジャズの影響を取り入れたクラシック音楽が流行したが、その中でも筆頭にあげられる傑作。鞭の一撃から始まる機知に富んだ冒頭部から終結まで一気に楽しめる。

61. O・レスピーギ(1879-1936 イタリア):交響詩「ローマの祭り」
1928年作曲。パチンコ屋の前に選挙宣伝車と救急車と消防車が同時に集ったような喧しい曲。たまにこういうのを爆音で聴いてスカッとしたい時がある。演奏効果は抜群。

62. B・バルトーク(1881-1945 ハンガリー):ヴァイオリン協奏曲第2番
1938年作曲。静かな立ち上がりからヴァイオリンが一閃して入ってくる冒頭部のカッコよさに惹き付けられる。聴きやすさは全体に辛口だが、バルトークの弦楽器の扱いはどの曲も妥協しない真摯さに満ちている。

63. バルトーク:ピアノ協奏曲第3番
1945年作曲。古典的造形美と現代性とがうまくバランスの取れた傑作。

64. G・エネスク(1881-1955 ルーマニア):ヴァイオリン・ソナタ第3番「ルーマニアの民俗様式で」
1926年作曲。副題が示すとおり、エネスクの出自と誇りが込められた名作。バルトークに近いアプローチだが、刃のような鋭い響きが一貫し、かっこいい。

65. Z・コダーイ(1882-1967 ハンガリー):無伴奏チェロ・ソナタ
1915年作曲。あらゆる特殊奏法を駆使し、チェロからかつてない音の広がりを引き出した傑作。

66. I・ストラヴィンスキー(1882-1971 ロシア):バレエ「ペトルーシュカ」
1911年作曲。現代的な和声とリズムにロシア民謡を取り入れた野蛮な響きが心地よい。頻出する各楽器のソロも面白い。

67. ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」
1913年作曲。当時絶大な衝撃を与えた不協和音の大々的な使用や変拍子も、今となってはキング・クリムゾンなどプログレ系に継承されて市民権を得た感じはあるが、それでもなお本作の破壊力と爆発的な表現力には圧倒される。

68. B・マルティヌー(1890-1959 チェコ):交響曲第6番「交響的幻想曲」
1953年作曲。弦楽器が生き物のように動きまわって、独特の色彩感を放つのがマルティヌーの魅力。掴みどころに欠けるが、ハマると抜け出せない。

69. J・イベール(1890-1962 フランス):ディヴェルティメント
1930年作曲。色んな有名曲のパロディが散りばめられ、聴いてて愉快な音楽。

70. F・マルタン(1890-1974 スイス):無伴奏二重合唱のためのミサ曲
1926年作曲。恐らく20世紀に作曲された中で最も美しいミサ曲。合唱そのものの美しさの復古。

71. S・プロコフィエフ(1891-1953 ロシア):交響曲第1番「古典的」ニ長調
1917年作曲。19世紀から20世紀初頭にかけてロマン派音楽が次第に複雑化・大規模化し、聴衆も作曲家も行き詰まりを感じ始める。そこで『新古典派』と呼ばれる、ハイドンやモーツァルトの時代にヒントを求める古典回帰の動きが両大戦間に流行するが、本作はその代表作。「奇妙なもの(間違った音、1拍多い拍子、1拍少ない拍子)が紛れ込んでいるのに、音楽は何事もなかったように続くのです」©バーンスタイン

72. プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番 ハ長調
1921年作曲。演奏者にも聴衆にも体力を要求する凄まじい躍動感。音を移り変わりがあまりに激しいため、気を抜くとすぐに置いていかれる。超絶技巧が必要とされコンクールの課題曲としても人気。

73. プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番 イ長調
1940年作曲。何だこの奇妙で美しく荒々しい曲は?驚愕の独創性。20世紀ピアノ音楽屈指の傑作。

74. プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番 変ロ長調
1942年作曲。独ソ戦の最中に書かれたので『戦争』の副題が付けられることもある。6番にも増しておかしい。何がプロコフィエフをここまで駆り立てるのか。演奏効果は絶大なので多くのピアニストがレパートリーとして取り入れている。

75. プロコフィエフ:フルート・ソナタ ニ長調
1943年作曲。プロコフィエフの抒情的な部分が前面に出ており、安心?して聴ける。20世紀のフルートソナタとしてはプーランクと並ぶ名作。

76. プロコフィエフ:交響曲第7番 嬰ハ短調
1952年作曲。平易明快で現代的な響き、新古典派の良いところが前面に出てると思う。マニアックなところでは、戸川純のゲルニカの2nd最終曲『絶海』で引用されているが、一体何人が気付いたのだろうか。

77. A・オネゲル(1892-1955 スイス):夏の牧歌
あまり好みではない作曲家だが、この小品は良い。題名通り、初夏に聴きたくなる。

78. F・プーランク(1899-1963 フランス):クラヴサンと管弦楽のための「田園のコンセール」
1927年作曲。クラヴサンの典雅な響きと現代的なスピード感の両立。フランス新古典派の代表的傑作。

79. プーランク:2台のピアノのための協奏曲 ニ短調
1932年作曲。出だしの疾走感、焦燥感、近代的和声、魅力的な転調、消え入るように響く繊細な弦。とにかく聴いていて楽しいし、飽きない。こういう様々な音が次々に出てくるのは、プーランクならでは。

80. プーランク:オペラ「カルメル会修道女の対話」
1957年作曲。ほぼ女声のみという構成も斬新だが、何よりラストのギロチン台へと消えゆく修道女たちの合唱"Salve Regina"には背筋が凍る。プーランクのシリアス面を代表する傑作オペラ。

81. プーランク:フルート・ソナタ
1957年作曲。流麗な旋律、簡潔で引き締まった構成。月並みだが「エスプリ」という言葉がよく似合う。

82. A・I・ハチャトゥリアン(1903-78 アルメニア):バレエ「ガイーヌ」
1942年作曲。剣の舞やレズギンカなど有名曲多数。単純に血湧き、肉躍る。

83. ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
1940年作曲。協奏曲には2通りあって、ソロ楽器とオーケストラの調和を目指すものと、ソロ楽器とオーケストラが対立して主導権を奪い合うものとがある。本作は後者の代表曲として、圧巻のガチバトルが全編に渡って味わえる。

84. D・ショスタコーヴィチ(1906-75 ロシア):ピアノ協奏曲第1番 ハ短調
1933年作曲。大々的に扱われるトランペットなど、なんとも「やけくそ」気味な部分は、他の作曲家では味わえない魅力。かと思えば、突然叙情的になり胸に染み入るフレーズが飛び出す。旧ソ連の秘蔵っ子が生んだ独創的な協奏曲。

85. ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ
1951年作曲。バッハ没後200周年記念コンクールの審査員に選ばれたことが作曲の切欠となった。シニカルで斜に構えた作品の多いショスタコーヴィチだが、本作は珍しく真面目なのが良い。フーガ7番は不協和音が一切ない楽曲として有名。

86. ショスタコーヴィチ:交響曲第13番「バビ・ヤール」変ロ短調
1962年作曲。ナチスドイツによるウクライナでのユダヤ人虐殺を題材にしているが、旧ソ連の体制批判も込められているといわれる。第1楽章の暗黒度合、第2楽章の暴走する陽気な狂気など、本当に怖い。聴いていて精神を不安にする何かがある。

87. ショスタコーヴィチ:交響曲第15番 イ長調
1971年作曲。体制からの批判と名誉回復を繰り返し紆余曲折を経た作曲者がようやく純粋に楽しんで作ることのできた音楽と思う。晩年なら「ヴィオラ・ソナタ」も傑作だが、ラストの虚空へと消えゆく摩訶不思議な美しさが忘れ難い本作を選ぶ。

88. O・メシアン(1908-92 フランス):嬰児イエズスに注ぐ20の眼差し
1944年作曲。トゥーランガリラ交響曲とどちらにするか迷うが、メシアンのキリスト狂信者的側面がより濃厚な本作にする。指定されたテンポより2倍ほど遅いバタゴフの演奏が凄い(作曲者本人も価値を認めたほど)。

89. 伊福部昭(1914-2006 日本):ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ
1971年作曲。オスティナート(反復する律動)の追求者たる作曲者の美学が詰まっている。マグマの大噴火のごとき怒涛の盛り上がりを見せる名曲。

90. 伊福部昭:郢曲「鬢多々良」(えいきょく びんたたら)
1973年作曲。和楽器合奏でここまでのグルーヴ感を出せるのかと驚愕。和楽器による現代音楽では、武満徹「秋庭歌一具」と並ぶ傑作。

91. I・クセナキス(1922-2001 ギリシャ):ジョンシェ
1977年作曲。微積分など数学を作曲に応用した結果、論理的に固まった音楽になるのかと思いきや、まるで生命体のように不規則に音群が動き回る、戦慄の音響世界が現出したのが興味深い。クライマックスの暴力的密度は一度生演奏で聴いてみたいものだ。

92. G・リゲティ(1923-2006 ハンガリー):ロンターノ
1967年作曲。トーンクラスター技法でここまで聴きやすいのはさすが。和楽器の演奏からヒントを得た曲調は、一種のアンビエントのようにも聴こえる。

93. E・ラウタヴァーラ(1928-2016 フィンランド):ピアノ協奏曲第1番
1969年作曲。現代的な硬質さと北欧風の透明さがうまく合致し、独特の美しさを秘めた音楽に仕上がっている。

94. 黛敏郎(1929-97 日本):文楽
1960年作曲。三味線の音をチェロで再現し、文楽の世界を表そうとしたもの。単純にかっこいい。

95. 松村禎三(1929-2007 日本):ピアノ協奏曲第2番
1978年作曲。同音連打による緊張感醸成が素晴らしい。寡作だがどの作品も同様の迫力に満ちている。映画音楽作曲家としてもなじみ深い。

96. 武満徹(1930-96 日本):雅楽「秋庭歌一具」
1979年作曲。雅楽という、日本の伝統音楽の形態を素材にしながら、単なる伝統への追従では終わることなく、新しい雅楽の創造に見事に成功している。沈黙と測りあうかのような太鼓、竜笛、笙などが生み出す音空間の広がり。

97. 武満徹:雨の呪文
1982年作曲。雨の粒が落ち、波紋が広がる情景が目に浮かぶ。武満はどの作品も幻惑されそうになる不思議な響きがあって良い。

98. A・シュニトケ(1934-98 ロシア):ヴィオラ協奏曲
1985年作曲。「技術的限界を一切考慮せずに作った」と作曲者が話すだけあって相当な難曲。演奏者からの支持は厚く、発表から異例の早さでヴィオラ奏者の重要なレパートリーとして定着している。

99. A・ペルト(1935- エストニア):鏡の中の鏡
1978年作曲。単純性の中に美を見出す姿勢は、同時代のアンビエントミュージックとも共通する。ゴダールの映画にも使用された。

100. S・ライヒ(1936- アメリカ):エレクトリック・カウンターポイント
1987年作曲。「ドラミング」、「ピアノ・フェイズ」や「ディファレント・トレインズ」など代表曲は他にもあるが、個人的に好みなのは瞑想的な本作。寄せては返す、さざ波のように音が広がっていく。


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