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2021年映画ベスト(新作編)

新作ベスト(鑑賞105本)

1.オールド(シャマラン)
2.燃えよデブゴン/TOKYO MISSION(谷垣健司、バリー・ウォン)
3.スプリー(ユージーン・コトリャレンコ)
4.カポネ(ジョシュ・トランク)
5.すべてが変わった日(トーマス・ベズーチャ)
6.The Green Knight(ロウリー)
7.ある人質 生還までの398日(ニールス・アルデン・オプレヴ)
8.アメリカン・ユートピア(スパイク・リー)
9.最後の決闘裁判(リドリー・スコット)
10.樹海村(清水崇)
次点:死霊館 悪魔のせいなら無罪(マイケル・チャベス)、モンタナの目撃者(テイラー・シェリダン)、キャッシュトラック(ガイ・リッチー)、モータルコンバット(サイモン・マッコイド)、シンクロニック(ジャスティン・ベンソン)

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1位はシャマラン。『老い』による変化を後々効果的にする為に身体の一部しか見せないショットが多々入るが、これが従来の古典映画であれば「あり得ない」、もしくは「間違っている」とされたような珍妙な画ばかりで相当に攻めている。賛否両論あるだろうが、私は「正解」とされてきた古典映画の形式をあえて崩しにかかっているようで大変面白いと感じた。夫が衰えた視力で妻を見やる、ぼやけた主観ショットのロマンチックさも良い。

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2位は殆どセットで撮影してるのも相まって、まるで古き良き日活映画を観ているよう。ドニーさんはデブになっても身体能力キレキレのアクションで全く息をつかせない。香港映画らしい活劇の豊富なアイデアにも唸るし、細部にユーモアがあるのも良い。クライマックスはドニーさんがヌンチャクを手にした瞬間にぶち上がる。来日してすぐに富士山をバックのショットが入るのも、適当すぎて逆に面白い。

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3位は単純に言えば、キアロスタミやパナヒなど車内映画の手法をsnsの殺人ライブ配信と絡めた一作ということになるが、それだけに留まらない実験性と批評性を盛り込んでいて面白い。スマホのアプリ映像から車載カメラ、監視カメラなど視点の切り替え或いは二重三重の分割画面が目まぐるしく変化していく様は、まるでゴダールを模しているかのようでスタンダードな映画構造を破壊される興奮が、確かにある。最初は軽々しく殺人が繰り返される倫理観の軽さに嫌気がさすものの、次第にそれも製作側の思惑であることが分かってくる。ファイナルガールとの対決も古典的な展開にsnsのコメント機能を映し続けることで新味と批評性を付け加えている。この手のホラー映画は壊滅的な駄作が多いが、その駄作群の試行錯誤が遂に結実したと感じる良作。

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4位は、現実と妄想が入り混じる演出は過去にいくらでもあるし、ぼけ老人の醜態ということであればソクーロフの傑作『レーニン 牡牛座の肖像』があるので、特に真新しいことはしていない。が、しかし個々の演出の力強さには目を離せないものがある。大体ハリウッドでこんな映画を撮って受けるはずがないのに、ジョシュ・トランクは何を考えているのか。イーストウッドとは対極にあるような『老人映画』を作ろうとしたのだろうか。謎めいた一作。

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5位は冒頭から続く簡潔な描写と、視点の置き方が悪くない。例えば義理の娘への暴力を発見する場面では、ダイアン・レインの視点で全て処理していたり、車のサイドミラーからとある人を見やるカットが序盤と終盤で呼応して描かれているのも見逃せない。簡潔さといえば、髭剃りの場面も現代と回想時の立ち位置を同期させて人物の感情を繋ぐ。予告で流れているのが残念だが、本作の平手打ちの鮮烈さはそれこそ50年代の映画にも匹敵するのでは。道中でのネイティブアメリカンとの交流も魅力的に描かれていて良い。ケヴィン・コスナーもダイアン・レインも乗馬ができる俳優だからこそ、ここまでの質に仕上がった感はある。

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6位は海外盤で。世評の高い『ゴーストストーリー』は正直そこまで心を掴まれなかったのだが、その方法論を更に押し進めて振り切った感がむしろ面白く感じた。キツネに喋らせるような禁じ手や、360度パンで人間が骸骨になったり戻ったり、ロウリーらしい質の高い画面上で半分ふざけてるような演出が繰り返されるのがちょっとオリヴェイラを思わせて個人的にポイントが高い。あと何より室内や夜間の暗さがぎりぎりのラインで挑戦的。しっかりと闇のある映画は良い。

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7位は、ヘリ急襲の場面を主人公のミタメ1ショットで処理するのが圧倒的に素晴らしい。経済的な語りかつ、主人公の希望が砂埃の向こうにかき消される様をも表している。この画と繋ぎがあるのでベストテンに入れた。ISの男が1場面だけマスクを外すのも深みが生まれて効果的。

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8位はデミの名作『ストップ・メイキング・センス』から36年、相変わらずデヴィッド・バーンの動きが面白いし、年齢を重ね一挙一動が重くなった分表現者としての凄みが増したと思わせる。"I should watch TV"辺りから火が点いてきて、以降のナンバーは全部良い。

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9位は中世の戦闘、裁判、業務報告、決闘といった『儀式』の細かい描写(甲冑や馬蹄音の重量感!)の積み重ねに、監督の様式美を追求する姿勢が合致。どれだけ上辺を取り繕おうと結局獣性のみが残るとでも言いたげな決闘そのものの迫力と、敗者の死体の吊るし上げすら映す冷徹さ。リドリー・スコットがごくたまに放つ良作。

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10位は次点の作品と入れ替えてもいいのだが、毎年必ず一作はベストテンに邦画を入れたい気持ちがあるので、本作を優先した。清水崇では久々の力作といっていい。

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次点の諸作について。「死霊館3」は相変わらず快調な恐怖演出で楽しめる。「モンタナの目撃者」は任務に文句を言いながらも着実に仕事をこなす殺し屋2人組のキャラが良い。倒木を挟んだ銃撃戦も迫力がある。まさかガイ・リッチーを褒める日が来るとは終ぞ思わなかった「キャッシュトラック」は、予想外という観点からいえば今年一番の驚きだったかもしれない。暴力描写の軽さを本作では簡潔さ(発砲にタメが無い)へと変えることで、意外なほど充実した犯罪映画に仕上がっている。2000年前後のダサいMV演出の象徴のようだったガイ・リッチーが、こんな風になるとは誰も思わなかったであろう。続いて「モータルコンバット」。ちゃんと格闘の動作を分かる様に見せてくれて面白いっていうのと、原作ゲームの売りである残虐描写もアクションのカタルシスとして見事に機能している。この監督は原作ゲームをちゃんとやり込んでるような気がしないでもない。あと真田広之演じるハンゾーがずっと日本語なのに、決め台詞だけいきなり『Get over here!』って英語を話し出すから笑ってしまった。そういう意味でも作り手が色々と『分かってる』作品。「シンクロニック」は小品だが出色のSF。理屈っぽくなりそうな説明を最低限に留め、時空移動実験の試行錯誤を行動で繰り返すことで観せる。序盤の救命活動の長回しなど、情報を小出しにして興味を引っ張るのが上手。移動先について時代背景を説明しないのがまた良い。

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その他、印象に残った新作を十数本挙げる。まず「スウィート・シング(A・ロックウェル)」は全編モノクロ、後半ロードムービーでアイリスイン・アウトの使用も相まって、80年代インディペンデント系のリバイバルといった趣。といっても作家的な嫌らしさは無く、一部カラー画面の挿入も瑞々しさが先に立ち結構好感の持てる仕上がりだった。別に凄いとかそんなんじゃないが、単純に好み。続いて「護られなかった者たちへ(瀬々敬久)」。所謂『社会派』という言葉は、映画においては80年代辺りからある種悪口と同義に扱われていたが、今のご時世にあえて真正面からそれをやろうとする心意気が胸を打つ。確かに説明的な台詞や場面もあるが、水と黄色のイメージが繋がるラスト、震災時の美術、佐藤健逃走場面での一瞬のロング等、相当良い。海外盤で観た「First Cow(ライカート)」は夜間の暗さ、室内の暗さに度胸を感じる。この監督は今までもそうだが、観客が見えないことを怖がらないのは凄いなと。リーアム・ニーソンの立ち位置の貴重さを噛み締める2作「マークスマン(ロレンツ)」、「ファイナル・プラン(マーク・ウィリアムズ)」はいずれも小ぢんまりとしたアメリカ製アクション映画で、大作ばかりが目立つ中、その光るアイデアと小粒さ故に大変ありがたい。同様の流れで「ドント・ブリーズ2(ロド・サヤゲス)」、「ドアマン(北村龍平)」も粗はあるが楽しめる活劇として題名を挙げておきたくなる一作。特に北村龍平監督にはハリウッドで頑張っていつか大輪の花を咲かせてほしい。「17歳の瞳に映る世界(エリザ・ヒットマン)」は『男性であること』自体に居心地の悪さを感じさせる。そういう経験は中々無いので印象的。

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さらに、「モンスターハンター(PWSアンダーソン)」はハリウッドメジャーにもかかわらず台詞量が非常に少なく(特に前半)、驚かされる。この監督には一生こういうのを撮り続けてほしい。「ガールズ&パンツァー最終章 第3話(水島努)」は相変わらず戦車戦の充実ぶりが良かった。また、今年のハリウッド大作が軒並み討ち死にしている中で、「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(ジェームズ・ガン)」の質の高い画面には退屈しなかった。「マリグナント(ジェームズ・ワン)」は全体の出来に難はあるものの、警察署での虐殺は大変突出した場面になっており、記憶に残る。警察署への殴り込みはSFやアクション映画では時折みられるが、ホラーでここまで大規模にやってくれるのは珍しく、劇場で思わず歓声をあげそうになった。今年公開の新作では「ヘル・フェスト/アトラクション(グレゴリー・プロットキン)」もそうだが、Mバーヴァやアルジェントなどジャーロのギラギラした照明を、アメリカンホラーに積極的に取り込もうとするムーブメントが表面化してきている気がする。来年以降も注目していきたい。

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同じくホラーではNETFLIXのスペイン映画「ボイス 深淵からの囁き(AGエルナンデス)」が演出に黒沢清的なビニールカーテンを大々的に取り入れており、頼もしかった。第一ショットと最終ショットの対照ぶりも中々素敵。そして、今年最後に観た新作は「レイジング・ファイア(ベニー・チャン)」だったが、ドニー・イェンに新たな名格闘シーンが誕生したことを喜ぶとともに、香港映画の行く末を案じずにはいられなかった。ドニーさんも年齢的にピークを維持できるのはよくてあと数年だろう。香港映画の終わりと、ドニー・イェンのキャリアの終わりは同期するのかもしれない。我々はただただ感謝して見守るのみ。

なお、クレヨンしんちゃん、タナダユキ監督作、草の響き、ベイビーわるきゅーれは見逃した。


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