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時代の変遷によって変化したものと変化しなかったもの―2010年代映画ベスト100

 2010年代は00年代以前と比較しても、よりラディカルに制作環境が変化した時代であったといえる。一つは、90年代から続いたCG等の技術向上がより顕著になったこと。また、機材の入手が容易になり、撮ろうと思えばどこでも誰でも映画が撮影できる環境が整ったことも挙げられる。
 10年代の映画の中で技術的によく見られた事例を数点列挙すると、
・疑似的な長回し、複雑なカメラワーク(「ゼロ・グラビティ」他)
・ドローン撮影
・デジタル撮影の主流化
・スマホ乃至はそれに類する視点(POVやモキュメンタリー映画の隆盛)
等々が挙げられる。どれも登場当時は賛否あり騒がれた記憶もあるが、現在では観客に受け入れられ十分に根付いたといえるだろう。
 さて、手法にこのような激しい技術革新がもたらされた中で、映画が描く内容についても大きな変化が生じたであろうか。そう考えてみると、当然のようだが過去の映画史の延長線上として捉えられる作品が多く、実に興味深く思う。外面的にはリーマンショック、東日本大震災、LGBT関連の社会運動など様々な事件・事故の影響を受けてはいるものの、本質的な部分では100年前の映画黎明期とあまり変化していないというのが個人的な実感だ。
 今回はそうした実感の裏付けとして、またもう一方では小難しいこと関係なしに巨匠がいなくたって2010年代にも良い映画は沢山あるぞという気持ちを込めて、100本を選んでみた。しかしながら、100位までを1本1本ランキング付けするのは至難であったため、年代順に並べる構成としている。補足しておくと定義は公開日基準であり、2010年公開作であれば10年代の作品として扱っている。
 長々と書いてしまい申し訳なかったが、以下からがリストになる。1本でも興味を持った映画が出てきてくれれば、大変嬉しく思う。

1.アンジェリカの微笑み(マノエル・ド・オリヴェイラ)

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映画界最年長監督が放つ本作は、10年代になっても映画の基本はサイレント映画期から何ら変化していないことを教えてくれる。

2.ゴダール・ソシアリスム(ジャン・リュック・ゴダール)

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00年代末から急増したデジタル撮影、その中でも極致を思わせる美しさ。

3.ザ・タウン(ベン・アフレック)

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『ヒート』のような迫力のある銃撃戦、ロケーションの見事さ、どれも印象深いが何より結末が10年代のハードボイルドとして新しい。

4.バーレスク(スティーヴ・アンティン)

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王道のサクセスストーリーは10年代でも有効。歌唱力のある人(クリスティーナ・アギレラ)を主人公にしただけあって曲がめちゃくちゃ良い。室内に拘るミュージカルというのも斬新。

5.ザ・ウォーカー(アレン・ヒューズ、アルバート・ヒューズ)

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そのセピア色のルック、終盤の衝撃の展開。破滅後の世界を描いた作品も数多く登場したが、中でも群を抜く異色作。『イコライザー』より早いデンゼル・ワシントン無双。

6.メタルヘッド(スペンサー・サッサー)

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映画史上に残る狂ったメタラー。「家族の再生」は10年代でもアメリカ映画の主要モチーフとして数多の傑作が生みだされていく。

7.カンパニー・メン(ジョン・ウェルズ)

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リーマンショックは映画にも多大な影響を及ぼした。傷付いたアメリカとその再生を渋い俳優陣(トミー・リー・ジョーンズ、クリス・クーパー、ケヴィン・コスナー、ベン・アフレック)で描く。

8.ラビット・ホール(ジョン・キャメロン・ミッチェル)

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子供の喪失と哀しみからの再生、慈しみに満ちた視点が良い。ニコール・キッドマンの裏代表作。

9.キラー・インサイド・ミー(マイケル・ウィンターボトム)

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ケイシー・アフレック演ずる主人公の空虚さが他に類例を見ない新世代フィルムノワールの代表作。夢幻のようなラストシーンに瞠目。

10.この愛のために撃て(フレッド・カヴァイエ)

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誘拐された妻を救うため奔走する男。チェイスに次ぐチェイスで全く息をつかせぬ仏製アクションの快作。

11.スイートリトルライズ(矢崎仁司)

スイートリトルライズ

様々な形の「愛」を描き続けてきたベテラン矢崎監督の中でも最も高度な達成が本作。

12.パーマネント野ばら(吉田大八)

パーマネント野ばら』予告編 - YouTube

記憶とはかくも脆く、曖昧なものなのか。いかにも怪しい「嘘」を「本当」と信じたい人を描くとき、吉田大八の映画は最も輝く。

13.ヒーローショー(井筒和幸)

ヒーローショー

単なる若者の小競り合いが報復の連鎖の果てに、取り返しのつかない所迄行き着く様が見事。10年代日本のどん詰まり感を正しく予見した、真の暴力映画。

14.半次郎(五十嵐匠)

半次郎

10年代で最も気合の充満した時代劇が本作。中村半次郎を主人公とし、西南戦争にフォーカスを充てているのも珍しくて良い。

15.借りぐらしのアリエッティ(米林宏昌)

借りぐらしのアリエッティ

草木の揺れや人物の所作といった細かいディテールの見事さは他の追随を許さない。

16.エッセンシャル・キリング(イエジー・スコリモフスキ)

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説明も台詞も排したテロリストの逃走劇が次第に抽象性を帯び始め最終的に別次元へ到達する点が素晴らしい。

17.肉体の森(ブノワ・ジャコー)

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恋愛の主従関係をスリリングに描く。果たして催眠術にかけられていたのは男女どちらなのか。ミルハウザーの短編を読んでいるかのような耽美性。

18.女っ気なし(ギョーム・ブラック)

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2010年にロメールが亡くなり、バカンス映画にも新しい世代の風が吹き始める。

19.マネーボール(ベネット・ミラー)

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労働に疲れている人すべてに推薦したい、明日から仕事頑張りたくなる映画ナンバー1。

20.抱きたいカンケイ(アイヴァン・ライトマン)

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セフレという主題がクローズアップされるようになったのも10年代ならでは。ハリウッドの大ベテラン監督による最高にキュートなナタリーが見られる。

21.ラブ・アゲイン(グレン・フィカーラ、ジョン・レクア)

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絶妙なラブコメディで引用したい台詞多数。スティーブ・カレルとジュリアン・ムーアがフレームによって引き離され、再び同一画面に収まるまでの映画。ラストでムーアがさりげなく右側からフレームインしてカレルの横に立つカットが素晴らしい。

22.幸せの教室(トム・ハンクス)

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トム・ハンクスにここまでコメディ演出の才能があるとは驚きだった。画面から笑いが入ってくる。とりわけジュリア・ロバーツが夫と喧嘩するシーンで顕著。チーズケーキもハハハ!の笑いも伏線だったことがよく分かる。経済学の教授がフレーム外から手を伸ばしてくるカットも可笑しい。大いに笑える一本。

23.猿の惑星 創世記(ルパート・ワイアット)

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映画史に残る「No」とゴールデンゲートブリッジの死闘。

24.リアル・スティール(ショーン・レヴィ)

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ボクシング映画もロボット物の影響を受ける。ヒュー・ジャックマンとダコタ・ゴヨの親子交流が少しジョン・フォードを思わせ泣かせる出来。

25.戦火の馬(スティーヴン・スピルバーグ)

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スピルバーグは常に野心的だが本作も同様。馬を軸にしたWW1短編オムニバスと捉えられる。

26.ドリームハウス(ジム・シェリダン)

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アメリカ映画が長年主題にし続けてきた「家へ帰る」ことが見事に変奏される。どことなく悲哀を帯びた役者陣、虚実を浮かび上がらせる照明術、充実したセットの使い方、それぞれ見もの。

27.裏切りのサーカス(トーマス・アルフレッドソン)

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当代の英国有名俳優たちを一堂に会し、全員が高級スーツに身を包んで出ずっぱりという眼福極まりない映画。

28.ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(ブラッド・バード)

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21世紀を代表するアクションとなった本シリーズの中でも、本作のブルジュ・ハリファを上るシーンは極め付きの緊迫感。

29.デビル(ジョン・エリック・ドゥードル)

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シャマラン的な要素が80分に詰まっており、楽しめる一本。

30.少年と自転車(ダルデンヌ兄弟)

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カメラで人物を追いかけ続けるダルデンヌ兄弟のスタイルが最も効果的な一作。劇伴が一切ない中、ようやくベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番第2楽章が流れ始める瞬間に涙する。

31.東京公園(青山真治)

東京公園

「真っ直ぐ見つめたことある?」という劇中の台詞通り、榮倉奈々、小西真奈美、井川遥らとの正面からの切り返しが最大のクライマックスだ。

32.婚前特急(前田弘二)

婚前特急

吉高由里子がコメディエンヌとして輝いている一作。

33.ロボジー(矢口史靖)

ロボジー

大いに笑える和製エンタメ。例えば拡大鏡を通したロボットの歩行を捉えたカットや、記者会見でカメラが一斉に首を振るカットなど、巧みな経済的語りの中にシナリオ段階では思い付かないような、現場段階での創意のあるショットが挿入されており楽しめる。

34.ドラッグ・ウォー/毒戦(ジョニー・トー)

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ジョン・ウー以降、香港で畸形的発達を遂げてきた『銃撃戦映画』の最終到達点。主要登場人物の末路に恐るべき非情さを感じる。

35.アウトレイジビヨンド(北野武)

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90年代~00年代まで日本映画のトップランナーであり続けた北野武は10年代でも存在感を示す。特に本作のラストは切れ味抜群で痺れる。

36.桜並木の満開の下に(舩橋敦)

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2011年の東日本大震災は当然日本映画にも多大な影響を及ぼした。小さな町工場と人間関係の再生に、被災地への思いを託す様。そして成瀬『乱れ雲』へのオマージュ。

37.その夜の侍(赤堀雅秋)

その夜の侍

相米慎二は数年おきに亡霊のように日本映画界へ蘇ってくる。

38.ファインド・アウト(エイトール・ダリア)

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行動Aが原因で行動Bをとらざるをえなくなり、それがもとでCという物を入手するため行動Dをとらなければならなくなる・・・という具合に延々続いていく実に映画的なシナリオ。ヒッチコック的な書き方は今もなお有効。

39.ジャンゴ 繋がれざる者(クエンティン・タランティーノ)

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残弾数まで正確に描く銃撃戦に、適当なようで律義なタランティーノの本気を見る。シュルツの死体に囁く"Auf Wiedersehen"

40.ランナウェイ 逃亡者(ロバート・レッドフォード)

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次々と現れる渋い役者陣に驚き、結末にかけての古典アメリカ映画のような楽天性に涙する一作。ロバート・レッドフォードの監督としての代表作。

41.マリー・アントワネットに別れを告げて(ブノワ・ジャコー)

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王妃の朗読係を主人公にしたことで、数あるマリー・アントワネットものの中でも差別化が図られている。自然光主体の美しい照明、レア・セドゥの不敵な眼差し。

42.ホワイトハウス・ダウン(ローランド・エメリッヒ)

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エメリッヒ監督の度を越した破壊趣味はそのままに、他作より脚本が練られている分纏まりが良く見やすい奇跡的な出来。

43.死霊館(ジェームズ・ワン)

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見えそうで見えない視点設計が最も怖い。そのことを理解しているからこそ本シリーズは10年代最恐と言われる所以。

44.ダラス・バイヤーズクラブ(ジャン・マルク・ヴァレ)

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拳銃ではなくドラッグを片手に戦う現代のカウボーイ譚。LGBT映画としてもよく出来ている。

45.ウォルト・ディズニーの約束(ジョン・リー・ハンコック)

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イーストウッド門下生の監督なだけあって予想できない過激さと慎ましさがある。西部劇的記号もちりばめられ一筋縄ではいかない映画。

46.紙ひこうき(ジョン・カーズ)

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「あの人に会いたい」という想いを、6分の中にここまで美しく表現したアニメーションを他に知らない。モノクロ、サイレントで制作するディズニーの野心。

47.風立ちぬ(宮崎駿)

風立ちぬ

まるで遺作を思わせる不穏さの中に、老境の大芸術家にしか表現できない透明な美が存在する。

48.フライト・ゲーム(ジャウマ・コレット・セラ)

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サスペンス職人として次第に有名になりつつあるセラ監督から10年代で1本選ぶとすれば本作。小道具が小道具として機能し、人物が人物として躍動し、視点がきっちり視点として存在する。戦闘機が登場する際の見せ方が抜群に上手い。

49.ジャッジ 裁かれる判事(デヴィッド・ドブキン)

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デュヴァル、ダウニーJr、ドノフリオ、ソーントン。これだけの顔を集めれば、あとは彼らの演技をしっかりした構図で捉えていけば映画はそれだけで十分。アメリカ映画の強さとはこういった人材の厚みに表れる。ヤヌス・カミンスキーの撮影もスピルバーグ以外の作品ではやけに新鮮に映る。

50.ロスト・イン・マンハッタン(オーレン・ムーヴァーマン)

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路頭でうろうろするリチャード・ギアを窓越し・ガラス越しからの窃視、或いは遠距離から映し出して撮る。かつてのヌーヴェルヴァーグのよう。興味深いことにヌーヴェルヴァーグの再生を10年代のアメリカで志す監督がいる。

51.最後まで行く(キム・ソンフン)

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大技小技交えた上質な巻き込まれ型サスペンス。とある人物が殺されるショットの痛快さには久々に呆然とした。あの”物体”の大きさと質量が相まって、突き抜けた馬鹿馬鹿しさを獲得している。

52.やさしい人(ギョーム・ブラック)

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非モテ男に対するロマンティシズム。驚くべき編集の才、光の扱いの美しさ、よく練られた構成の妙。

53.5つ数えれば君の夢(山戸結希)

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明快な理由などなく少女はピアノを弾き始めるし、明快な理由などなく少女は踊り始める。演出はその瞬間を見事に捉えている。プールに飛び込む際の撮り方は、その後の展開(舞踏と身体)からしてマレーの連続写真の引用。

54.ジュラシック・ワールド(コリン・トレヴォロウ)

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全シーンが悉く前3作や別のモンスター映画から引用してきたような画で構成されている点で結構な珍品だと思うのだが、これはこれで過不足なく楽しめる。

55.手紙は憶えている(アトム・エゴヤン)

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老人の緩慢な動作を逆手に取って、記憶喪失・拳銃・犬など大小さまざまなサスペンスを展開させ持続させる。超高齢化社会に相応しい老人映画の傑作。

56.オデッセイ(リドリー・スコット)

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火星版ロビンソン・クルーソー。生き残るためにはうじうじ悩んでいる暇などない、ただ行動あるのみな映画的ポジティブネスが軽快で楽しい。

57.レジェンド 狂気の美学(ブライアン・ヘルゲランド)

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一見普通のギャングスタものだが、トム・ハーディの二人一役が忘れ難い歪さを作品に纏わせる。

58.ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ(フレデリック・ワイズマン)

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多種多様な人種、宗教、LGBTが登場し様々な生活が描かれる魅力的なドキュメンタリー。住人の顔の選び方、労働を丹念に移す視点。住民の衣装や調度品も鮮やかな色が多く、デジタル画面に映える。

59.二つ星の料理人(ジョン・ウェルズ)

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10年代料理映画の代表格。

60.黒衣の刺客(ホウ・シャオシェン)

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半透明の布が何層も折り重なった奥の方で黒い影が動き、それが手前に見えるまでの持続。蝋燭の炎が揺れ動き、眼が慣れるにつれて微かに漂う煙も見えてくる。光の推移、大気の動きの定着。そこに観る快楽を生み出そうとする、斬新な映画。

61.エネルギーの一世紀(マノエル・ド・オリヴェイラ)

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オリヴェイラのキャリアの、有終の美を飾るに相応しい傑作短編。数十年前の記録映像に映った配水管や鉄塔と現在のそれ。そしてそれらに記録された人々の佇まい、表情。過去と現在とが混ざり合ううちに、変化したものと変化しないものがあることを観客も悟る。この視座の美しさは、100年生きた人にしか撮れない領域だ。

62.風に立つライオン(三池崇史)

風に立つライオン

作品によって本気と手抜きの差が激しすぎる三池監督だが本作は本気で撮ったと思わせる一本。

63.バクマン。(大根仁)

バクマン

漫画の実写映画化として、また青春映画としてよくできている。ペンの音、ペンで戦う画面造型は肯定したい。

64.鬼談百景(オムニバス)

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白石晃士、安里麻里、大畑創、内藤瑛亮等、Jホラー期待の俊英を一作に揃えたお得かつ重要なオムニバス。

65.ガールズ&パンツァー 劇場版(水島努)

ガールズアンドパンツァー

そのアイデアの量、緊迫感とユーモアの両立、映画史に残る「戦車戦」映画。

66.ジャック・リーチャー NEVER GO BACK(エドワード・ズウィック)

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一見いつものトム・クルーズ主演映画のように思えるが、本作では珍しく「父親」としての側面を垣間見せるのがミソ。

67.死霊館 エンフィールド事件(ジェームズ・ワン)

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前作に引き続き、怖い。上映時間が長くなった分アイデアの量も多い。胡散臭いレポーターが終盤独白で誠実さを垣間見せる部分も新鮮で良かった。

68.ジェーン・ドウの解剖(アンドレ・ウーヴレダル)

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古典的な怪奇演出の数々が好ましい。何より廊下の奥からこちら側に向かって”奴”がゆっくり歩いてくるショットの持続、その光の明滅、姿が見えそうで見えない素晴らしさ。

69.ピートと秘密の友達(デヴィッド・ロウリー)

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当たり前のようにドラゴンを登場させ、当たり前のように老人と子供が活躍する。古典的な物語の力を信じている、その姿勢に泣く。

70.HUNT/餌(ディック・マース)

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人食いライオンものとしては「ゴースト&ダークネス」以来実に20年ぶりの良作。間抜けなハンターが公園内で罠を張り、ライオンをじっくりと待つ。何も起きない、待ち続ける時間の見事な定着ぶりには特に感心した。細部のアイデアと予想の外し方も冴えている。

71.ウィジャ ビギニング~呪い襲い殺す~(マイク・フラナガン)

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「ドクター・スリープ」で有名になった監督だが一押しは本作。室内照明のリッチな佇まいにまず惹かれ、事を急がずにじっくりと不穏さを出していく語り方も良い。画面の奥で何かが起こっても説明のために慌てて寄ったりなどしない。何故かずっとTVを見ている末娘、首吊り死体の揺れる影等無意味だが印象に残る細部が充実。

72.最後の追跡(デヴィッド・マッケンジー)

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「クレイジー・ハート」に続く老境の代表作がジェフ・ブリッジスに生まれたことを祝福したい。老いたウエイトレスが言う、「44年働いているがステーキとポテト以外を頼んだ客はいない」。現代版の西部劇として見事な出来栄え。

73.女神の見えざる手(ジョン・マッデン)

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女傑映画として素晴らしく面白い。

74.ローズの秘密の頁(ジム・シェリダン)

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30年代アイルランドを模した室内照明・美術の美しさ、時空を超えた運動の繋がりがエモーショナルなラストのクロスカッティング、「家へ帰ること」。

75.ミッドナイト・スペシャル(ジェフ・ニコルズ)

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説明もなしに既に状況が始まっている中に観客を放り込む感覚(特にOP)が、70年代アクション映画のようでとてもかっこいい。SF映画において光を畏怖の対象として捉えるのは「未知との遭遇」譲り。

76.マネーモンスター(ジョディ・フォスター)

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ジョデイ・フォスターは女優としてだけでなく監督としても優秀。机に置かれた銃とそれを見るクルーニーの視線の動きをカットバックさせる繋ぎなど何とも正統派だ。恋人が犯人を説得するかと思いきや、罵倒しまくって縁を切られるといった捻り具合も女性監督らしい視点で良い。

77.パターソン(ジム・ジャームッシュ)

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詩、インテリア、何から何まで本当にお洒落な映画。

78.エンド・オブ・トンネル(ロドリゴ・グランデ)

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スペインから登場したサスペンス映画の傑作。

79.愛を綴る女(ニコール・ガルシア)

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成瀬を現代映画に引用して成功している稀有な作品。ラストシーンも暗転の仕方が実にかっこよく、高揚感がある。

80.アシュラ(キム・ソンス)

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関係者全員がクライマックスでどかどか死んでいく映画は謎の爽快感がある。

81.長江 愛の詩(ヤン・チャオ)

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長江を遡行すると共に過去を遡る。行く先々で現れる謎めいた女。10年代史上最高に美しい画面は名撮影者リー・ピンビンによるもの。

82.溺れるナイフ(山戸結希)

溺れるナイフ

唐突なアクションが唐突なだけに終わらず、そのシーン、ひいては物語の盛り上がりに繋がっていくことに感動した。ロケーション選定の素晴らしさ。

83.ディストラクション・ベイビーズ(真利子哲也)

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理由なき暴力の連鎖。理由などこれっぽっちも必要ではない。

84.聖の青春(森義隆)

聖の青春

難病のため文字通り命を削って対局に挑んだ実在の棋士、村山聖の映画化。対局中に窓から雪景色を見物するなど、普通の勝負ものとは違う静謐さが印象的。

85.この世界の片隅に(片淵須直)

この世界の片隅に

銃後の生活をこれまでにない程の細かなディテールで描いた点が画期的。

86.レディ・バード(グレタ・ガーウィグ)

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編集の繋ぎ方には随所で驚きがあるし、語り方のテンポ(空港での別離で母親しか写さない等)も図太くて良い。

87.ダンケルク(クリストファー・ノーラン)

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CGでの再現が容易になった一方で実物に拘り続ける大馬鹿者もいる。コッポラ(地獄の黙示録)やチミノ(天国の門)がかつて追い求めた映画狂の夢を、10年代にもなって観られることへの倒錯的な快楽。

88.ザ・ベビーシッター(マックG)

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ホラー版「ホーム・アローン」とは言い得て妙で、10年に1本レベルの馬鹿な笑いが満載。

89.バルバラ~セーヌの黒いバラ~(マチュー・アマルリック)

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シャンソン歌手バルバラの実際のフッテージ、バルバラの役を主演とする劇中劇、劇中劇でバルバラを演じるジャンヌ・バリバールの私生活、三者三葉に絡み合っていつしかフィクションとノンフィクションの壁が消え去っていく。10年代を迎えられずに世を去ったダニエル・シュミットのことを少し思い出して涙が出た。

90.グレイテスト・ショーマン(マイケル・グレイシー)

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全体に場所と場所の距離を無視して繋がらないはずの空間を役者の動きやカッティングであたかも繋がっているように見せるのがミュージカル映画らしくて良い。また、CGを混合したプロダクション・デザインの嘘くささも貢献。

91.希望のかなた(アキ・カウリスマキ)

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冒頭の「黒」の豊かさ、その後の台詞の少なさ、同じスタイルでの自己研鑽を一貫して続けてきたカウリスマキの到達点。何よりラスト2ショットの清々しさにはやられてしまう。

92.静かなふたり(エリーズ・ジラール)

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仏からまた面白い女性監督が出てきた。手紙の読み上げにアイリスイン・アウト、となると当然トリュフォーを想起するが、そう一筋縄ではいかないところが本作の美点。単なるヌーヴェルヴァーグのオマージュに留まることなく、カモメの墜落死にクモ、口笛と音楽の突然の同期を織り込む等、中々の大胆さ。

93.ANON(アンドリュー・ニコル)

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ターゲットの視覚をハックする殺人者というアイデアが中々に面白く、警察の捜査も被害者の記録された視点映像をもとに行われるのだが、核心に迫るにつれてどの視点が本物でどの視点が幻覚なのか曖昧さが増し、映画の視点・記憶の不確定性にまで鋭く言及していく構成に唸る。自分の視点を監視された状態での隙を突く脱出方法やクライマックスでの視覚をハックされた状態での銃撃戦も、古典的かつ簡潔な描写に新味を加える演出が素晴らしい。VR時代の映画として相応しい力作。

94.ルイスと不思議の時計(イーライ・ロス)

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イーライ・ロスはホラー作家のイメージが強いが、本作を観ると良い意味で覆る。「キャロル」と並んで近年最高のケイト・ブランシェットが見られるだけでも感激。

95.ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー(ロン・ハワード)

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他ジャンルであればこうも明朗な活劇として西部劇を撮ることができる、というのが一つの発見。どうしても「スパイクス・ギャング」を思い出さずにはいられないウディ・ハレルソンの老兵ぶりがとても好ましい。

96.ワイルド・ストーム(ロブ・コーエン)

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嵐映画では「ツイスター」以来の快作であり、ショッピングモールでの気圧差を利用した宙づりアクション等素晴らしい充実度。クライマックスで「マッドマックス」ばりの度肝を抜くトラックアクションが展開されるのも悪くない。

97.コンジアム(チョン・ボムシク)

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youtuberVS韓国最恐心霊スポット。資金力があるのでドローン、GOPRO、広角カメラ等各種機材が揃っているのが上手い。POVホラーは元々カメラも少なく照明機材もしょぼい低予算な状況を逆手に取って生まれたもの。そこにアップや空撮、固定ロング迄導入したのはジャンルの可能性を広げた。10年代POVホラーの代表作。

98.運び屋(クリント・イーストウッド)

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イーストウッドの顔に刻まれた年輪、背の曲がり具合、それらが全て。

99.嵐電(鈴木卓爾)

嵐電

現実と虚構、過去と現在を混在させるといういつもの鈴木監督パターンだがその混在具合の高度さが凄まじい。巧いだけでなく驚きがある。特にシャッター音、杖、駅の回転ポール等音使いが全編冴え渡っている。

100.黒い乙女Q(佐藤佐吉)

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説明されるのが怖いのではなく、説明されても意味が理解できないというのが真に恐ろしいこと。10年代末に提示されたJホラーの最新形。


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