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老人ホームから退去勧告される時

先日、「かしこい老人ホームの選び方」講座の
受講者様から
「老人ホーム入居後に入院した場合に
老人ホームに必ず戻れますか?
部屋は確保しておいてもらえるものですか?」と
ご質問をいただきました。
そうであればいいのですが、
そうもいかない場合があります。

施設側から退去勧告されるのはどんな時なのか。
もし退去勧告を受けた場はどうすればいいかを
ご紹介します。


1.老人ホームからの退去勧告とは

老人ホームのパンフレットで
「終の棲家」や「安心の介護体制」という言葉を
見かけませんか?

「終の棲家」にならない場合も

でも、これは死亡するまでの入居を
保証しているわけではありません。

心身の状態などの変化によっては
途中で退去しなければならない場合があります。
これを定めたものが退去要件で、
契約書や重要事項説明書などにも
記載されています。
入居後にこの要件に該当すれば、
ホーム側から退去を求められることがあります。

2.どんな時に退去勧告されるのか

①Aさん(80代 男性)の場合 長期入院

Aさん(男性)は82歳の時に介護付き
有料老人ホームに入居しました。
まだ介護は必要なく、お元気でしたが
一人暮らしに不安があったために入居を
決めました。
将来、医療的ケアが必要になることも見越して
「24時間看護師配置」を謳う
高額な老人ホームを選びました。

1年後、Aさんは脳梗塞を発症しました。
すぐに病院に運ばれ、幸い命は取り止めました。
しかし、入院中に原因不明の発熱を
繰り返したため、脳梗塞の治療が終った後も、
退院の許可が下りませんでした。
入院して3カ月が経った時、老人ホームから
「退院の目途が立たないようでしたら、
退去していただくことになります」と連絡が
入りました。


長期(一般的に3か月以上)にわたり
入院したままの状態だと、
退去を求められることがあります。
入院中であっても、老人ホームの居室を
確保していると「居住費(家賃)」や「管理費」
などは発生します。
しかしこれは
「お金を払っているから追い出されない」
ということはありません。
老人ホーム側にとって、本人がいないと
請求できない
「介護サービス費」「食費」などの収入が
減ってしまうことが痛手となる
場合もあります。
特に入居待ちの人がいる場合は、
「早く居室を空けてほしい」というのが
老人ホーム側の本音でしょう。

②Bさん(70代 女性)の場合 迷惑行為

70代後半のBさん、女性。
病気が原因で体が不自由になり、
認知症(軽度)も発症しました。
自宅での生活が困難になり特別養護老人ホームに
入居しました。

入居して3カ月ほど経った時に、
若い男性介護員の体に触れたり、
性的発言を繰り返したり、
いわゆるセクハラ行為が続きました。

管理者から「このようなことが続けば
退去していただくこともあります」と注意され、
「逸脱行為(社会規範から外れた行為)の
治療を受けてください」と提案されたにもにも
関わらず、Bさんは「おおげさなこと言って」と
取り合いませんでした。
何度も話し合いの場が持たれましたが、
職員に対する迷惑行為が続き、
改善が見込めないため、
結局退去を迫られてしまいました。


昨今、介護業界の深刻な人手不足から、
このような行為に対して、毅然とした態度で
対応する老人ホームが増えています。
入居者からの迷惑行為
(セクハラ、誹謗中傷、脅迫など)が原因で
職員が疲弊し、退職してしまうことを
心配しています。
これは、公的な役割を担っている
特別養護老人ホームも同様です。
「福祉」の視点から考えると、
逸脱行為をする人に対して
寛大な対応ができるのが理想でしょう。
しかし時代の変化と共に、
ドライな対応が増えているように感じます。

入居者を集めるより、職員を集める方が
困難な介護業界。
「職員を守りたい」と考える管理者の心情は
自然と言えるでしょう。

③その他の退去勧告パターン

他の入居者への迷惑行為、利用料の滞納、
老人ホームではできない医療行為が
必要になるなど、
他にも退去を言い渡される事例はあります。

3.退去勧告に納得いかない場合

退去勧告に納得いかない、
退去を避けたいと思う場合には
以下の方法があります。

①契約書、重要事項説明書を確認

退去勧告の理由が正当かどうか判断するために、
入居時に交わした契約書と重要事項説明書を
確認しましょう。
理由の正当性を確認する必要があります。
また、契約書などには苦情窓口が
記載されています。
苦情窓口に相談するのも良いでしょう。

まずは契約内容を確認する

②老人ホーム側と話し合う

なぜ退去をいい渡されたのか
理由を聞きましょう。
退去勧告にもニュアンスが様々です。
条件付きで今後の対応を柔軟に考えて
もらえる場合もあります。

退去勧告をされると、誰しも動揺します。
でも、ここで大切なのは、
「相手側(老人ホーム)の言い分に
きちんと耳を傾ける」です。
カッとなりやすい人は要注意です。
つい怒鳴ってしまい、それが「暴言」と
受け取れられることもあります。

入居者はお客様ではありますが、
老人ホームとは、あくまでも対等な関係です。
「住み続けたい」という気持ちばかりを
主張せず、改善するべき点はなかったのか、
客観的に見て、これからも住み続けられる
老人ホームなのかを考えましょう。

特に、老人ホームでの医療行為には
限界があります。(24時間の看護師配置で
あっても)
病院でしかできない医療行為が
必要になった場合は、老人ホームに
住み続けるのは難しいでしょう。

冷静に話し合えるように、
第三者(友人、介護の専門家など)の
同席を提案してみるのも良いでしょう。

③専門家に相談

老人ホーム側の説明に納得できない場合は、
弁護士に相談する方法があります。
弁護士と聞くと「裁判」を思い浮かべるかも
しれませんが、いきなり裁判になるケースは
ほとんどなく、まずは本人の代わりに
弁護士が老人ホーム側と話し合います。

4.退去勧告を受け入れる場合

①次の住まいを探す

老人ホーム退去後の住まいを決めます。
自宅に戻る、他の老人ホームに引っ越すなどが
考えられます。

②入居金の精算

入居金を支払っている場合、
入居金の償却期間内であれば、
残金が戻ってきます。

例えば、入居金の償却期間が
5年の契約をしているのなら、
5年以内の退去ならば未償却分が返還されます。
償却期間を過ぎていれば、返金されません。

5.まとめ

多くの人が終の棲家として選ぶ老人ホームですが、
最期まで過ごせるという保証はありません。
場合によっては、住み替えをしなくては
いけなくなります。

見学時には
「これまでに本人の意思ではなく
退去となった人はいたのか」
「老人ホーム側は、退去勧告する前に、
どのような対処、努力をするのか」など
質問しましょう。


決してイメージだけで老人ホームを
選ばないようにしてくださいね。

はる社会福祉士事務所
佐々木 さやか

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